16話 鋭い鎌を持つズブグク
16話 鋭い鎌を持つズブブク
その後ハクの襲撃はなく、予定より一日遅れでイムルナック村に到着した。 先触れを出しておいたので、村人が大勢出迎えている。 全貌は分からないが、ターンナック村と同じくらいの規模の村だそうだ。
村の中を案内人に連れられて先頭を歩いている俺を見て、ざわめきが広がった。
いつもの事だから、気にしない······
村の中程にあるサールに到着した。 今日から暫くはこのサール内にテントを建てて寝泊まりする。
サールの中で待ち構えていた集団の先頭にいる二人にガルーラが挨拶に行き、その二人を俺の所に連れてきた。
「この方がこの村の長をしているサムリクさんで、こちらは息子のサムトさんです」
「私はケントと言います。 よろしくお願いします」
「ようこそおいで下さいました。 そうですか······この御方が腕を失くした神······ですか······」
微妙な表情で俺を見下ろすが、すぐに興味を失くしたようにガルーラに向かった。
「ところで知らせでは、昨日到着の予定でしたが?」
知らせはクーナと言う鳥が運んでくれる。 伝書鳩みたいなものだ。 四枚の羽を広げても50㎝ほどの小さな鳥で、頭の割に嘴は小さく、少しとぼけた顔をしたブルーとオレンジの混ざった美しい鳥だ。
「昨年の帰りにも襲われたのですが、今年もハクの群れの襲撃に合いました。 そのせいで一日遅れました」
「えっ? それにしては被害はなさそうに見えますが?」
「今年はケント様のおかげで、アミ一頭の犠牲だけで済んだのです」
「アミ一頭だけとは······考えられませんな」
「私も信じられないくらいです」
「ほぉ~」とサムリクは感心して、まじまじと俺に見入っていた。
◇◇◇◇
この村の者達とは長年の付き合いで顔見知りが多い。 それでお願いしなくても野営の準備を手伝ってくれる。
旅の途中はテントは使わない。 襲われると逃げ出すのが遅れるからだそうだ。
しかしここはイルムナック村内のサールなので、とりあえず安心だ。 だからお互いの商隊が来た時には、テントを貸し出してくれることになっている。
一緒にテントの準備をしながらもイルムナック村の人との話が尽きない。
あちらこちらでハクとの激闘の話と弓の話に花が咲いていて、あちらの方ではみんなで競って矢を射てみている。
興味を持って当然だ。 今まで飛び道具がなかったこと自体、俺には不思議なほどだ。
野営のセッティングが終わった頃、ツーラがイルムナックの村人達の数人を連れて俺の所にきた。
「こいつらに弓の作り方を教えたいのだが、構わないか?」
「もちろんだ」
「そう言うと思って、今キムルが何人か連れて材料を探しに行っている」
「そうか」
「ここのやつらが弓を見て『これは何だ?』と聞いて来るものだから、キムルが射て見せてやったんだ。 それを見て『自分たちの弓が欲しい』と言いだして、作り方を教えてやることになった。 俺達の矢も補充したかったから、ちょうどいいと思ってな」
普段無口なツーラが、驚くほどよく喋った。
······喋れるんだ······
タムの尾の毛やカルコの羽など、必要な物を揃えて待っていると、材料の木を沢山抱えたキムル達が帰って来た。
「一緒に作るのを、手伝ってやってくれ」
「もちろんだ」
イルムナックの住人が十数人、弓を作りに来ていて、こちらも護衛隊総出で弓作りを教えた。 出来た者から試しに射てみるがうまく飛ばない弓もあり、俺達は大忙しだった。
最終的には思った以上にいい弓に仕上がり、みんな満足したようで、礼を言いながら家に戻って行った。
◇◇◇◇
ハクの襲撃や弓の話し以外に、もう一つ話題になった話がある。
数日前に出かけた者二人が昨夜死体で見つかったというのだ。
「死体で見つかった二人の傷は、ズブグクの鎌で切られたような傷でした」
「なら、ズブグクだろう」
ズブブクとは2タール(約60㎝)ほどの動物らしい。 しかしそれはどんな姿をしているのかは俺には想像が出来ない。 ただナイフや槍に使っている恐ろしく切れ味のいい刃物を両手に持っているのは確かだ。
「しかし肩から背中、そして首を切られていました。 そんな所までズブグクは届きません」
「じゃあ、寝ている所を襲われたんじゃないのか?」
「ズブグクは、出会いがしらの場合を除いて、こちらから攻撃しないと襲ってきません。 御存じでしょう?」
「じゃあ誰かが、ズブグクの鎌を使って殺したというのか?」
「それも考えましたが、ズブグクの鎌にしては傷跡が大きすぎます。 ズブグクの鎌ではあり得ません」
◇◇◇◇
翌朝、ガルヤが俺のテントを訪ねてきた。
「塩採取の一団が帰ってこないそうだ。 商隊の一番の目的の塩がなければターンナックが困る事になる。 だからもう暫くここにいる事になった」
「その一団は大丈夫なのか? 昨日も話をしていただろう? 何者かに殺されたって」
「まぁ、だが他所の村の事だし、あまり口出しは······」
「しかしその一団が戻ってこない事には俺達も帰れないんじゃないのか? 昨夜殺された者たちと関係があるかもしれない。 ちょっと調べるくらいはいいだろう?」
「······そうだな······聞いてみるか」
そう言ってガルヤは走っていき、キムルに弓を習って仲良くなったダムダを連れてきた。
二人が殺された件を調べてみたいとダムダに言うと、是非お願いしますと言う。
「とりあえず一度現場を見たいのだが、遺体のあった場所を知っている者を知らないか?」
「それなら遺体を回収した者を知っています」
そう言って走って行った。
暫くすると、ダムダが若者と一緒にタムを引いてサールに来た。
「この人はアストです。 彼が場所を知っています」
早速俺とガルヤ、キムル、ツーラと、護衛隊から二人を選び、ダムダとアストにアンも連れて8人で出発した。
◇◇◇◇
村から東にタムで30分ほど走ると、アストが「あの先です」と教えてくれた。 すると、ツーラがみんなを少し手前で止めた。
「足跡を荒らされたくないから、みんなここで待っていてくれ。 ケントとアストだけ来てくれ」
タムから降りてアンも連れ、3人で先に歩いて行く。
おびただしい血がこの辺りに飛び散り、血の臭いが漂っている。
「こことあそこに倒れていました」
アストが顔をしかめながら指差した。
地面をよく見ると、遺体のあったであろう場所の周りには、以前アスト達が来た時に付けたらしいフォーアームスたちの足跡はあったが、それ以外はタムの足跡だけだった。
「タムに乗ったまま襲われたのかもしれない。 そうなると動物ではないのか?」
ツーラが説明していると、アンがその先でしきりと地面の臭いをかいだり、森の方に鼻を向けたりしている。
「アン、何かあるのか?」
その場所を見てみると、見慣れない大きな足跡があった。 そして森には低木が押し倒され、何か大きな動物が移動したような跡があった。
「みんな! 来てくれ! 足跡だ!」
みんなを呼び寄せ、足跡を見てもらった。 しかし誰も思い当たらないという。
フォーアームスが知らない足跡ってあるのか?
みんなは代わるがわるに足跡を見ては首を捻っている。 中でもアストは顔を近づけていつまでも見ている。
「見た事あるような気がしますが、大きな足跡ですね。 何だったかなぁ······絶対に見たことあるのだが······」
みんなも一生懸命思い出そうとしていた。
「何の足跡かわかるか?」
「わからん」
「この血の付き方からすると、こいつが犯人の可能性が高いが、こんな足跡の生き物がいたか?」
その時アストが、あっ! と声を上げた。
「ズブグクですよ! そうだ、ズブグクだ!」
「バカ野郎、こんなデカイ足跡なわけ、ないだろ」
ガルヤは怒鳴ったが、良く見るとどう見てもズブグクの足跡だった。
「うそだろ······この足跡だと、10タールはあるぞ」
ツーラがボソッと言う。 3mを超えるガルヤで9タールだ。
「10タールもあるズブグクを、どうやって倒す」
それを聞いて、みんなが愕然としていた。
俺はその様子を見て不思議だった。 10タールなら象よりは小さいだろう。 大きなフォーアームスならそれほど苦労するサイズではないはずだ。
「なぁガルヤ、ズブブクは鎌があるにしてもそんなに狂暴なやつなのか?」
「本来のズブブクは大人しくて、こちらから攻撃しない限り襲ってくることはないのだが、出会いがしらに攻撃してきた可能性はある。
ただし、そんな奴を倒そうとしても奴の鱗は硬くて槍は通らない。 2タールそこそこの大きさのズブグクなら、衝撃に弱い頭を槍の後ろで殴れば殺せるが、10タールもある奴を槍で殴って殺せるのか?
それに奴は油で覆われていてヌルヌルしているから、捕まえるのも難しく、思いのほか動きは素早い。
それに鎌があるから網は使えない。 そして、それだけの大きさの奴の鎌は、半端なくデカイだろう。 近付くことさえ出来ないかもしれない」
全員が集まってきて顔を見合わせた。
「とにかく急いで戻って、この事をサムリク様に伝えましょう」
ダムダに言われて、ぞろぞろとタムに乗って村へ帰った。
ズブグクって、どんな生き物なんだろう?!
( ゜ε゜;)




