59話 また刺客?!
59話 また刺客?!
「ケント様、ほんまに女王様は貴竜国に連れて行かれたんかな」
「俺はそう確信している」
「ご無事だといいのですが」
「貴竜族ってデカいんやろ? どんなんやろ」
「恐竜はあまり詳しくないけど、大型の肉食恐竜なら10m以上あったような」
ニコロは驚いて上を見上げている。
「10m?! 想像でけへんな······」
「草食恐竜なら大きいので30mくらいあったと思う」
「バ···バケモンやな。 そんなんが街におったんか?」
「とんでもない! 当の昔に絶滅していて、骨しか残っていない」
「それは良かった······いや、良くないやんか!! ここでは絶滅してへんねんから! ほんまにそんなに大きいんかな?」
「わからないが······ただ、この世界のどの生物も俺が知っている生物に比べると、一回り大きいんだ。
恐竜もさらに大きかったら嫌だな」
ファビオは半笑いで俺を見下ろす。
「ケント殿が縮んだのでは?」
「それを言うか! 俺もそれはずっと思っていたが······えっ?」
「あっ!」
俺とファビオは振り返った。 殺気がしたのである。 国王様に謁見するために武器は携帯していない。
マズいなと思っていると、俺に向かって矢が飛んでくるのが見えた。 俺は少し体を開いて目の前に来た矢を掴む。
矢が飛んできた方を見ると、路地の奥に逃げていく人影が見えた。
俺は急いで追い、3歩で路地の入口についた。
犯人が走っているのが見えるがもう直ぐ路地を抜ける。 人通りの多い道路に出てしまうととまた分からなくなってしまう。
俺は手に持っていた矢を犯人めがけて投げた。
バキバキガッシャン!!
俺が投げた矢が肩に刺さり、転倒して横に置いてある木箱に突っ込んだ。
「もう逃げられないぞ。 誰の指示か話してもらおう」
男を掴もうと手を伸ばした時、犯人が腰からナイフを取り出したので、俺は慌てて一歩下がる。
するとその男は俺に攻撃してくるのではなく、自分の首を掻っ切って崩れ落ちた。
「あっ!!」
俺は首から血を噴き出して倒れている男を見て固まってしまった。
野蛮獣や野生の獣の死は慣れたが、目の前で死んでいく獣人にショックを受ける。
フォーアームスの時もそうだったが、人の死には慣れない。
頭が真っ白になってしまった。
その時、みんなが追いついてきた。
「「ケント様!!」」
「ケント殿······ケガは?」
ファビオは青い顔をして呆然と突っ立ち、横たわる犯人を見つめる俺を心配そうに覗き込む。
「······こいつ自分で首を切ったんだ······依頼人の名前を聞き出そうと思ったのに······依頼人に死ぬほど忠誠を誓っているのか?······それとも脅されてでもいたのだろうか······」
「「······」」
「兵士を呼んできます」と、グラウドが走っていく。
暫くの間、俺はその男から目が離せなかった。
兵士たちが来て、事情を聴いてから死体を抱えていった。
「ケント殿、大丈夫ですか?」
「帰ろう」
歩き出す俺を、ファビオとニコロは顔を見合わせてから後を追い、その後ろをグラウドがついていった。
◇◇◇◇
俺は大きなベッドに横になり、天井を見つめる。
······あの刺客はどういう気持ちで自害したのだろう······想像もできない······
······もし俺が敵に掴まったとして、秘密を守るために自害できるだろうか······
······もちろん答えは【否】だ······そんな覚悟も度胸もない······
俺は寝返りを打って、窓から見える巨大な月を見つめた。
······そういえば俺は今まで獣とは死闘を繰り広げてきたが、人と本気で戦ったことがない······
······恐竜の獣人である巨大な貴竜族相手だと、甘い事は言っていられないだろう······手加減するとこちらがやられる······
······俺にできるだろうか······恐竜の獣人であっても意思の疎通ができる人と同じだ······
······ズブグクやモルド以上に手ごわいだろう······闘う事が怖いのじゃない。 殺す事が怖いんだ······
······俺にできるだろうか······
◇◇◇◇
翌朝、出発準備を整えて城に行くと、旅支度がされている4頭の馬と、大勢の貴豹がいた。
貴豹王が近衛隊長と4人の貴豹と共に近づいてきた。
「おはようございます。 昨夜の事を聞きました。 自害したようですが、刺客はまだいるかもしれませんので御気お付けください」
「気遣いありがとうございます」
「あのあと協議を重ねた結果、貴狼国との話し合いをするために、この者達も貴狼国までケント殿と同行してさせていただきたいのですが、よろしいですか?」
「もちろんです」
「ありがとうございます。 もし貴竜族が攻めてくるとなれば、各国の共闘が必要となると思います。 三国で話し合ってどうするべきかを決めるつもりにしております」
「それは御英断です」
少し小柄なユキヒョウ種の一人が前に来た。 他の三人は兵士だが、この人だけ高貴な服装を着ている。
「外部交渉官のアカイージ・トマーゾです。 よろしくお願いいたします」
「倉木賢斗です。 よろしくお願いします。 それでは参りましょう」
貴豹王に別れを告げて出発した。
◇
街中を馬に乗ってゆっくりと歩いていると、街の人たちが手を振ってくれる。 始めの頃、チラチラと盗み見していた彼らと随分変わったものだ。
何だか嬉しくて手を振り返した。
東の門に近づくと、数人の貴豹が待っていた。 例のゾーエ商隊のみんなだ。
カズデリが走ってくる。
「ケントさん、俺たちに挨拶もなく帰るつもりだったのですか? 寂しいなぁ」
「すまん。 世話になったな」
「世話になったのは我々の方です」
「もし機会があればまた会おう。 元気でな」
「必ずですよ! 楽しみにお待ちしています」
俺たちは馬上から手を振り、カズデリたちは深く頭を下げた。 そして門を出るなり俺たちは走り出した。




