60話 貴竜国へ行く前に
60話 貴竜国へ行く前に
貴狼国に戻って来た。
ファビオが報告しに行くと先に走っていった。
事前にファビオが遠吠えで連絡していたので、貴豹族がいてもすんなりと門を通してくれた。
しかしグラウドは貴狼国が初めてということで、俺が初めてここに来た時のように、興味深げにキョロキョロしている。
言っては悪いが貴豹国の街に比べるとジャンド町は都会だ。
······グラウドの気持ちはよくわかるぞ······
アカイージ交渉官たちは貴狼国に来た事はあるという事でグラウド以外は落ち着いている。 それとは対照的に街の貴狼たちは珍しい貴豹族一行に興奮ぎみだ。
俺たちの周りを囲んでワイワイと言いながら後をついてくる。 そういえばマッサ組を捕まえた時もそうだった。
······貴狼族の習性か?······
しかし貴豹族が俺たちを見た時の反応と真逆で、何だか可笑しい。
でもやはり一番興奮しているのは初めて貴狼国に来たグラウドだ。 ニコロに話しかけている。
「驚くほどきれいな街ですね。 道はきれいに整備され、建物もオシャレで綺麗です」
「そうやろ。 俺は違う町に配属されてんねんけど、やっぱり王都が一番きれいや」
「貴猿族は何人か見かけたのですが、貴豹族はいないのですか?」
「そういえばおれへんな」
「ここに住みたいです」
「そうか? 来たらええやん」
「本気で考えます」
◇
城に入ると俺たちは会議室に通された。
暫く待っていると、ファビオを先頭に将軍と宰相、そして重臣たちが続き、その後ろからヴィート先生とノエミちゃんも入って来た。 そして俺の隣に座った。
「お帰りなさい。 問題はなかったですか?」
「まぁ······」
「色々あったようですね。 しかしご無事なら問題ないです」
「ハハハ」
とりあえず笑ってごまかした。
重臣たちはアカイージ交渉官とは顔見知りのようだ。 お互い挨拶をして席に着いた。
まず宰相が口を開く。
「ケント様、お帰りなさいませ。 ファビオ殿に話しは聞きました。 貴竜族が大きな船を造っているというのは本当の事なのでしょうか?」
それに答えたのはアカイージ交渉官だ。
「ケント殿からその噂を聞き、もう一度調べさせたところ、何人かが目撃していました。
40~50日ほど前の事らしいので、下手をするとそろそろ完成している可能性があります」
「誠ですか!! なんと······貴竜族がこちらに渡ってくるとなれば、いつでも迎え撃てるように軍の招集が必要ですな」
「我々の見込みとしては、もし貴竜族が攻めてくるなら森の中の貴豹国よりこの貴狼国が真っ先に攻められる可能性があると考えております」
「その可能性が高いですな。 共に戦っていただけるのですか?」
「もちろんです、貴狼国だけの問題ではありません。 貴猿国にも共闘をお願いする必要があると思います」
「すぐにでも使者を向かわせます。 しかし女王様はギラルディーニ国に囚われていると思われますか?」
貴竜国は正式名称がギラルディーニ国というらしい。
宰相は俺に問い、全員の視線が俺に集まった。
「限りなく黒に近いと思っています。 ですから直ぐにでも助けに行きたいと思っています」
ファビオとニコロも頷いている。 すると将軍が「インザーギ副隊長は残ってもらいたい」と言い出した。
「なんでですか? いままで一緒に女王様を探してきたのに」
「インザーギ副隊長は南の大隊を纏めてもらいたい。 急を要する事態なのでインザーギ副隊長にしか出来ない事だ。 これは命令だ」
「ケント様······何とかゆうてえや」
「ファビオとグラウドがいるので大丈夫だ。 俺たちで何としても女王様を助け出す」
「えぇ~~······」
「今までの経緯を考慮すると、女王様の拉致はラクイラ大陸に戦争を起こさせる為の餌に過ぎないのだと思います。 だからニコロ······」
おれはニコロの顔を真っすぐに見つめる。
「船の仕上がり具合から推測すると、直ぐにでも攻めてくる可能性もゼロではない。 お前が貴狼国を······ラクイラ大陸を護ってくれ」
ニコロは少し考えていたが、顔を上げた時には心が決まっていたようで、誇らしげな顔になっていた。
「わかりました。 ラクイラ大陸は俺が必ず守るから、女王様を必ず助け出してや」
「もちろんだ」
「そして三人とも必ず生きて戻って来てや」
「我々も参ります」
そう言ったのはもちろんヴィート先生だ。
「我々はリーヴォリ大陸に行った経験があります。 何かの御役に立てると思います」
「しかし、今度はかなりの危険が伴います」
「フフフ、御心配なく。 腕には多少自信があります」
本当?と、ファビオを見ると、ちょっと嫌そうな顔をしながら頷いている。
「先生はこう見えて武術の達人です」
「本当に?!」
「決して足手まといにはなりませんよ」
「わかりました。 お願いします」
という事で貴竜国には俺とファビオ、グラウドとヴィート先生とノエミちゃんの5人で向かう事になった。
そのまま会議を続け、貴竜国行の打ち合わせを終えた。
ファビオとニコロは引き続き打ち合わせをするという事で、俺はグラウドと一緒にロキに逢いに行った。
◇
「ケント兄さん!! あっ!」
ロキは俺を見るなり抱きついてきた。 しかし、俺の後ろにいるグラウドを見上げて口を開けたまま固まってしまった。
「ロキは貴豹族に会うのは初めてか?」
「そうじゃないけど、近くで見るのは初めて······大きいねぇ~~」
「お初にお目にかかります。 貴豹族黒豹種、辺境警備隊第二部隊所属ですが現在はケント様専属護衛をさせていただいております、スフォル・グラウドと申します」
「トラファルザー・ロキです。 よろしくお願いします」
二人の顔合わせが終わったところで、ロキの目を見る。 そういえば視線が何気に高くなっている。 子供の成長は早い。
「ロキ、すまない。 まだ女王様を見つける事ができてない」
「うん、でも頑張ってくれているのは知ってるから」
「ありがとう、もう少しだ。 もう少し我慢してくれ」
「大丈夫だよ」
「次の旅にはヴィート先生とノエミちゃんも一緒に行くんだ。 寂しくなるけど大丈夫か?」
「今は前より大勢の先生に教えてもらっているし、遊び相手になってくれる先生もいるんだ。 だから一生懸命勉強して、一生懸命遊んで、早く一人前になるんだ」
「それでこそこの国の王子様だな」
「あっ!······僕が王子だってこと知っていたの?」
「当たり前だろ?」
「みんなみたいにヘコヘコしないから、知らないのかと思った」
「これは失礼致しました王子様。 以後気をつけます」
おれは跪いて頭を下げる。
「ハハハハハ、ケント兄さん、やめてよ!」
「ハハハハハ、でもいい人たちに囲まれているみたいだから安心した」
「いつ出発するの?」
「明後日の朝に」
「気をつけて行ってきてね」
「おう!」
俺はグラウドを連れて、久しぶりに俺の部屋に帰った。




