未知との遭遇
初投稿になります。暖かい目で見てください。
俺の名前は清水昇、県内の公立高校に通う二年生だ。俺には友達がいない、クラスメイト達に馴染めなかった俺は、クラスからは孤立した。最近は一部の奴らからいじめまで受けている。不登校一歩手前と言ってもいい、前から行きたかった京都への修学旅行、それのみを励みに今日まで頑張ってきた。
だが、今日はその修学旅行の初日で、本来ならバスで京都中を移動するはずの俺達は今、いわゆるクラス丸ごと異世界転移をして異世界にいる。教師を除いた二年三組の生徒三十一人の前には、いかにもファンタジー世界に出てくる可愛いお姫様がいる。そのお姫様は世界は今危機に瀕しているや、魔王が誕生したなど言っており、皆真剣に耳を傾けていた。
突然、異世界に転移したことで始めは困惑したクラスメイト達だったが、今いる場所が大きな城の中であることと、城の魔法使いがいくつか魔法を見せたことで、ここが異世界だと信じてしまった。
「スゲー、本当にここは異世界なんだ」
「私こういう世界に憧れていたの」
などと呑気に喜んでいる奴から
「みんな落ち着け、アリア姫の言う通りなら、僕達はみんなこの世界に召喚された勇者として魔王と戦わなければならないのだぞ」
という冷静な判断を下せている奴もいる。ちなみに今のは我がクラスの頼れる学級委員長の榊原君だ。
未だに混乱している者や、家に帰してと喚いている奴らももいるが、大多数のクラスメイトは突然訪れた異世界転移を歓迎しているようだ。
だが、彼らは知らない。ここは異世界ではなく地球から遠く離れた惑星であるということを。
時間はここより、少し遡る。
目を覚ました時、俺の体は手術台のようなものの上に寝かされていた。頭上には手術の時に使われる無影灯のようなものが光っていたため、いつの間にか手術でもしたのかと思ってしまった。
「そんな、わけあるかー」
俺は体を起こし叫んだ。記憶が正しければ、俺達は修学旅行で京都に行くためにバスに乗っていたはずなので、手術台の上にいるのはおかしい。それに意識もはっきりとしているし、体に外傷はない、それどころかよく見たら全裸だった。もしや近くに人がいるのかと辺りは見渡した。人間はいなかった、人間は、天井も壁も床も何もかも白い部屋にいたのは、頭部が異常に大きく、釣り上がった目を持ち、灰色の肌をしている奴だけだった。というかこいつどう見ても地球人ではない、こいつはあれだ、宇宙人だ。
こちらが未知との遭遇に対してどうすべきか悩んでいるのに対し、宇宙人は、やっべ、起きちまったぜという顔をしていた。以外に友好的な奴かもしれない、日本語が通じるかは分からないがとりあえず挨拶してみることにした。
「こんにちは」
「えっ、はい、こんにちは」
なんとびっくり、宇宙人は流暢な日本語で返してきた。未知との遭遇に興奮した俺は色々と聞いてみることにした。
「あなたは宇宙人ですか?」
「地球から数千光年離れたところから来たので、地球人から見れば私は宇宙人ですね」
こいつ見た目は少し怖いが、質問したことはきちんと答えてくれるな。
「それで、俺の体に何をしようとしたの?」
「あなたを含め三十体ほど地球人を捕まえたので、体を改造しようかと」
「はぁー?今なんて言った?」
「ひぃ、怒らないでください。これも宇宙の進歩のためなのです」
この宇宙人どうやらかなり気弱なようだ。おかげで俺は宇宙人相手に会話の主導権を握ることができた。
「まさか、手術前に起き上がるとは、この個体、本当に地球人か?」
手術台の上から見上げる俺に対し宇宙人は床に正座をしていた。なんか麻酔がどうのこうの言っているが、詳しくはよく聞き取れなかった。
「それで、話を聞こうか。まずここはどこだ?」
「私の自家用宇宙船です。現在は地球から百光年くらい離れた場所にいます」
どうやら人類が未だに到達できていない場所まで来てしまったようだ。
「で、なんで俺達をキャトルミューティレーションしたんだ?」
「はい、私は今、とある星で実験をしていまして、その実験に使おうかと思い、あなた方を拉致しました。
ひぃーそんな怖い顔しないでくださいよ。私はビビりですが、こう見えても故郷では有名な科学者なのです。今は新たなエネルギーの研究をしております」
「それで?」
「そのエネルギーの正体は私が発見した特殊な粒子なのですが、この粒子は決まった信号パターンを送信すると様々な現象を引き起すことが分かりました。例えば、ある信号を送ると、火が発生したり、別の信号を送ると重力に干渉できたりします。この事をお偉いさんに報告したら、予算は出すから、粒子が引き起こす現象をできる限り調べてくれと言われまして」
予算とかお偉いさんとかいう単語出てきた。こいつはもしかしたら地球人と同じように色々と苦労しているのかもしれない。
「ある惑星を生物の住める環境にして、色々な生物を送りこみました。随分前からあなた方の地球からも地球人や牛や豚などの動植物を送っています」
「じゃあ、どこかの国家と接触して技術提供とかしてるの?」
「いえ、地球に干渉するのは法で禁じられていますので、そういったことはしていません。ですが、私の母星の役所が許可さえ出れば、地球にあるものを持ち出すのはオッケーなんです。というかみんなやっていることですよ」
よく話題に上がるキャトルミューティレーションは許可制だったのか。
「それいつからやってるの?」
「地球時間で五百年くらい前からです」
「随分と気の長い研究だな」
「あ、我々に寿命はないので」
さすが宇宙人、地球人類の夢である不老をすでに実現してるとは。
「一人でやっているのか?」
「昔は大勢いたんですが、大したデータが取れなくて予算を大幅に減額されまして、助手はみんな解雇してしまったんです」
日本でも聞いたことのある話だ。やはり、どの星でも科学者の最大の敵は予算なのだろうか?
「で、俺達の体にどのような改造をしたの?」
「まずあなた方の体内に粒子の発生装置を取り付けます。それから脳を弄ります。こうすることで、生物の放つ脳波を粒子に影響を与える特殊な信号に変えます」
「するとどうなる?」
「地球には魔法という空想の技術があるでしょう?それに近い事ができるようになります」
「あぁ分かった、要は魔法という形で広めて、その星の人間がどういった魔法を生み出すのか調べているわけか」
「その通り、生み出した魔法の種類数が、粒子が引き起こせる現象の種類になるのです」
「なるほど、それで俺達を拉致ったのか、でもそれなら自分達でやればいいのでは?」
「地球人みたいな未開種族の脳の方が、我々の脳よりも面白いデータがと取れるという研究記録があるんですよ」
今スゲー失礼なこと言ったぞ、でも相手は地球人よりも進んだテクノロジーを持っている、何も言い返せない。
「本当は記憶を消して他の方々と同様に実験惑星に送り込もうと考えていたのですが、さっき話をしたように人手が足りないんですよ」
おおっと急に顔付きが変わった。これは何か企んでいる顔だ。少しだけ態度を変えた宇宙人は悪そうな表情で俺にある取引を持ちかけてきた。
「研究データを今よりも大量に取るために、これから行く実験惑星の住民を使って大戦争を起こしてもらえないでしょうか?」