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空に逃げた英雄  作者: こーか
Chapter1.英雄と無くした青春
9/13

8.チームワークと力量差

ところ変わってグラウンド。各々が素ぶりをして体を温めている。俺はそんな様子を突っ立ったまま見ていた。


「体を動かさなくていいのか?」

「まあ、大丈夫だ」

「えー・・・ついでに剣の技量も見ときたかったんやけど?」

「それなら、少し動く」

「お」


周りで同じグラウンドを使っている他の生徒も練習を中断してこちらを見ている。英雄に似た姿の男の力量を確かめたいのだろう。あるいは単なる興味ともとれる。


「・・・」


無言で剣を構える。片手を後ろに回し、片腕だけで剣を持って踏み込み、袈裟懸け、片足を支点にくるりと回ってもう一閃。その場で舞うような剣技は美しいがそれだけのように見える。むしろ隙だらけだ。それにまた1人、また1人と興味を無くして自分の練習に帰っていく。しかし、そのすぐ後に異変が起こった。真っ先に気づいたのはゼラチカだ。


「風、強ない?」

「ああそういえば朝からこんなに強かったっけ?」

「今日は快晴、のはず」


髪を揺らす程度の風が耳元で唸りをあげるような風へと変わっていった。ヘイズはそれを気にせず剣を振るい続ける。一際大きく振り上げたものを振り下ろしたとき、それは起こる。


「うおっ!?」

「へっ?ちょっ」

「うそ・・・魔力なんて感じない」


轟音をあげる風がヘイズに向かって収束していく。竜巻とは行かないまでもそれに近い奔流が突然グラウンドを襲う。大規模な魔術でしか起こせなさそうだがメルーの言う通り魔力は感じない。明らかな異常だ。その風の中心点であるヘイズだけは動揺せずに緩く風に煽られながらも剣を振るっている。台風の目のようにそこだけは穏やかだ。


「もしかしてこれやっとんのヘイズなん!?」

「剣で竜巻起こすなんて聞いたことねーよ!」

「剣が魔道具?ううん違う。支給されてる普通の剣・・・」


大声を出さなければ聞き取れないほどの風の暴力の中でヘイズが使わなかった片手に銃を握る。そのままその銃口を空へと向けて引き金を引く。


パァーーーーーーン


うるさい風がその銃声でピタリと止む。その後の静寂の中でヘイズは銃を下ろしてぽつりと呟いた。


「色々飛んだな・・・片付けてくる」

「し、しまらねぇ・・・」

「ちょっとかっこいいって思ってもーたわ!あんだけやっとって突然現実に戻るなや!」

「酷い・・・」

「飛んだものを片付けようとしてるだけなのに」


吹き飛んで転がっていたものを元の位置に戻していく姿はシュールだ。1人で魔術なしに竜巻を起こしたとは思えない気が抜ける光景だった。

しばらくして散乱していたものを元に戻したヘイズが戻ってくる。


「終わった」

「あ、うん」

「せやね」

「次、何するの」


4人で輪になって座る。ヘイズの戦闘能力の高さが露呈したことでどのポジションに彼を据えるか迷っているようだ。ルビアが前衛、メルーが後衛、ゼラチカが斥候兼司令塔を担当しているためそのようにパーティとしての動きが完成されているのだ。そこに別の何かを入れればたちまち狂いかねない。隊列の乱れは対魔物との集団戦において致命的なものだ。


「俺は遊兵とかはどうだ?銃で中距離から攻撃できるし、いざとなればルビアやメルーの代わりにもなれる」

「それやとフレンドリーファイアが心配やねん。メルーは魔法担当やしうちはともかくルビアなんかあたったら大惨事やで。攻撃受けてくれる前衛がおらんくなったら敗走待ったなしや。うちもメルーも魔物相手にまともに肉弾戦できるほど強ないで。」

「その理論なら誰が欠けてもこのパーティは成り立たないぞ。ルビアにメルーのバックアップでダメージを与えるんだろ?メルーも倒れたらバックアップ不足で死ねるし、そもそもゼラチカが倒れたら意思疎通が乱れる。一日しか準備期間がないのに下手に前衛とかに押し出すよりかは最悪何もしなくていい遊兵に据えるべきじゃないか?」


その言葉にその場の3人がヘイズの顔を凝視した。当の本人は何かおかしいところがあるのかと首を傾げている。


「なんや・・・遊兵なんて言うもんやからよっぽど自信あるんかおもたらそーゆーことかいな」

「最悪動かなくていいは考えなかったな・・・」

「てっきり私達のリズムに合わせる自信があるのかと思った」

「やったこともないのに自信も何もあるか。せいぜい明日は後ろでポーションの用意でもしているさ」

「英雄のイメージが崩れるなぁ」

「英雄はグレンであって俺じゃないだろ」


肩を竦めるヘイズに気分を害した様子は無かった。力はあれども過信することなく雑務も積極的にしようとする姿勢に3人の好感度が上がったことをヘイズはしらない。英雄という非現実的で人間離れした存在から程遠い人間みのある姿を見たことも要因の一つだ。


「ほんなら一回模擬戦してみよか」


ゼラチカの後について行くとグラウンドの端に先生が立っている。彼女はこちらを認めて少し微笑んだ。


「せーんせー!泥出してーやー」

「マッドゴーレムです!こほん・・・何体ですか?」

「とりま2体!」

「はい」


魔力が土へと潜り地面から湧き出すようにゴーレムが2体現れた。通常の人とは魔力の質がなんだか違うき気がする。言葉で表せないが、こう、きめ細やかな・・・現実みがあるような・・・生々しい?


「ヘイズ?」

「すまない」


ルビアに肩を叩かれて我に帰る。他の3人は既に戦闘体制を整えていてヘイズの方を見ていた。急いで抜刀する。銃を使うよりかは味方に当てる危険性が低いように思えたからだ。


「ルビア、頑張って合わせるから好きに動いてくれ」

「おうよ」

「射線には、気をつけて」

「善処する」

「それ遠回しの拒否やで?まあええわ、今回うちは指示せんから好きに戦ってえや」

「了解した」

「話し合いは終わりですね?それでははじめ!」


コアが胸元に埋められているゴーレムが動き出す。体は構成する物質がある限り再生し続け、赤いコアはゴーレムの動力源で壊せば止まるが硬度が高い。その代わり衝撃に弱く打撃を何度も与えれば砕け散るものだ。そう本に書いてあった。真偽の程は知らない。


「っし、こい!」


ルビアが剣を振るってゴーレムの足を切る。それはすぐに修復されたが2体の注意を引くには充分なようだ。ルビアはまともに攻撃を受けることを避けながら時折その赤いコアに柄で攻撃をしていた。微々たる差だが剣身で叩きつけて刃こぼれしたり、無駄に時間がかかるよりは有効な手段だろう。ゼラチカは全体を把握しながら時折ルビアに変わり攻撃をひきつけている。危ない場面も何度か回避していた。なんだ、割と前で戦えるじゃないか。背後にいるメルーは何度か魔法を放ち、ゴーレムの一部を粉砕したりコアに直撃させていた。威力もさることながら精度もいい。本当に入る隙がない。チームワークはとても良い方だろう。問題点をあげるなら前衛不足で司令塔のゼラチカが加わるを得ないため指示が途切れることと物理のダメージソースであるルビアが守ることに専念しているせいで火力を出せていない所、そして群れには対処出来なさそうな所か。全体的に火力不足な面が目立つ。もう一人前衛がいればゼラチカはもっと指示に集中できるし、ルビアを攻撃に加わらせることが出来る。・・・俺はお誂え向きか。


「入らないんですか?」

「・・・入る余地がないです」


剣を構えたまま突っ立っている俺は明らかに戦力外だ。そんな俺に質問した先生が同情を込めてこちらを見ている。突然日程を変更したのはあんただろ。それに集団戦なんてしたことがないからどう中に入ればいいか分からない。何もしないわけにもいかないので粗雑なタイミングで剣を構えて戦闘の中に突っ込んだ。許せ、不慣れなんだ。

勢いのままに後回しにされていたマッドゴーレムの頭を砕く。一時的とはいえ視界を遮られたマッドゴーレムは犯人を探すように頭を揺らす。その頭に向けて銃で発砲すれば首がぐりんとこちらを向いた。ちょっとしたホラーだ。


「ヘイズ!?」

「1体引き付けておくぞ」


ゴーレムの注意を引きながら戦闘の場から少しずつ離れていく。これで完全に分断されたはずだ。俺は攻撃を回避することに専念してパンチやキックを避け続ける。その様子をゼラチカはしばらく見ていたがルビア達の指示に集中することにしたようだ。その判断力は指揮官向きだろう。


「さっさと倒すで」

「あいよ!」

「ん」


さっきよりもより勢いが増した3人を尻目に攻撃を避け続ける。あまり複雑な動きは出来ないのか短調な攻撃ばかりで避けるのは簡単だ。避けた腕が地面にめり込む。グラウンドの穴はどうやって修復するんだろうか。


「ヘイズ無事?」

「問題ない」


時折かかる声に返事をしながら代わり映えのない戦いを続けていると横から何かが切り込んできた。気づけばもう片方のマッドゴーレムは既に倒されている。


「早いな」

「そうだろ!?」


邪魔にならないようにルビアの背後へと一足飛びで下がる。俺が引いた瞬間を突くようにメルーの魔法が鋭くゴーレムへ飛んでいった。

ちょうどコアのど真ん中。氷の槍に貫かれたゴーレムはそのまま機能を停止させた。


「終わりです。やはりこの班最大の強みは連携ですかね」

「反省会すんでー」

「ありがとうございました」

「6日後は頑張ってください」


再びグラウンドに4人で腰を下ろす。3人は余程疲れたのかその場に足を投げ出して座っている。息も上がっていた。


「うちはせやなー、もうちょいルビアに攻撃するように指示しとったら早めに終わったんとちゃうかな。あと何回かメルーのバフ切らしてもーたわ。まだまだやな」

「俺は立ち回り的には問題なかったと思ってんだけど、やっぱ火力たんねーわ。あとゴーレム2体だと防戦一方になっちまう。もうちょい身軽な武器にした方がいいかな?」

「それでも私を守れる自信があるのならそうしてくれて構わない。私は精度と威力の代わりに連射速度を落としてたから最終的に倒すのに時間がかかってしまった。ゴーレム相手なら精度と連射速度を重視すればよかった」

「ルビアの場合は単に相性の問題もあるからなぁ」


3人の顔がこちらを向く。次は俺が言えというわけか。しばらく悩んだ後に口を開く。


「俺は・・・やっぱり周りに合わせて動くことを覚えることが先決だな。ルビアがもう少し自由に動けるような立ち回りをしたい。1回戦いを見せてもらったから今度はもっと上手く合わせられる、と思う。」

「1人でマッドゴーレムを引き付けてったんは流石に肝が冷えたわ・・・次から気ィつけな?」

「善処する」


それから少しだけ俺を入れた戦闘を重ねて、やはり明日は裏方に徹することになった。終わりのホイッスルが鳴って、生徒たちがぞろぞろとやってくる。気づけば既に日が頂点に達していた。

それぞれ先生に礼を言ってからその場を去っていく。専門棟に行く人もいればバイトに行く人もいるのだろう。ルビアやゼラチカとも別れてバイト先に向かおうとしたところで声がかけられた。


「おいそこのお前」

「・・・なにか」


朝、こちらを見ていた貴族だ。後ろに2人ほど護衛?を連れてこちらを指さしている。気持ち悪くていっそ晴れやかとも取れる笑顔でこちらに向ける目は剣を見ていた。


「おお!なんと嘆かわしいことだ!あろうことか支給された剣に勝手にエンチャントする輩が現れ、それを誇示しようとは!その剣はこのフラゼンツ帝国の第2皇子であるこのセルンツィア・リル・フラゼンツが回収しよう!」


大袈裟な仕草でもって俺の剣帯から剣を抜いて、その剣をしげしげと眺めていたが直ぐに眉が潜められる。


「おい、魔石はどこだ」

「ない」

「ないだと?そんなわけがないだろう。何処にある!」


なるほど朝のあのパフォーマンスをエンチャントによるものだと思っているようだ。自分でやったと言っても信じてくれなさそうで面倒になってくる。


「気になるなら持っていってもいいが、代わりの武器をくれ」

「ふん・・・皇子たるこの私に物を乞うとは命知らずか。だがしかし丸腰も不憫だな。いいだろうこれをくれてやる」


そう言って投げわたされたのは弓と矢だ。支給品のものでとくに学園内で所持していても問題のないものである。まあいいかと弓矢を背中に担ぐと真正面から舌打ちが聞こえてくる。


「余裕か、またいい。せいぜい6日後は足掻くんだな」


俺の剣を自分の剣帯に指しながら自称皇子は2人をつれて何処かへ消えていった。使う武器が剣から弓へ転向って手続きは何かいるのだろうか・・・。少なくとも6日後まではこの弓矢が俺の武器になるらしい。

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