芽生えた感情は何でしょうか?
暖かい。
優しく私を包んでくれる何かに顔を擦り付ける。
ドクドクと少し早い心臓の音が聴こえ、安心感を覚える。
そこで、私の意識が覚醒した。
重い瞼を動かすと、目の前にはピンクの花。
ああ、私のジャージの柄だ。
しかし妙にパツパツなのだ。
不思議に思って、左右に引き伸ばされた花柄に手を這わせる。
「ひゃぁっ⁉︎」
頭上で謎の声が発せられた。
ゆっくりと目線を上に動かす。
「あ、朝からだっ大胆だな!!」
真っ赤な顔に深緑の瞳が揺れる。
あっルークさんやーん。
なんでこんなとこにいるんですかー?
なーんて頭の中はお気楽だったが、身体は正直だった。
気がついたら、私は彼をグーで殴っていた。
…これは私が悪いのだろうか。
でも私はソファーで寝た…はずだ。
じゃあ何でベッドで寝ていたって話だが。
ソファーでテレビを見ながら、頬をさするルークさん。
殴ってから一言も喋らない。
子どもかよ!!
いや私からしたら子どもだが。
弟みたいだとか思ったが。
まあ私もいきなり殴るのはよくなかったと思う。
うん。暴力はよくない。
そう自分に言い聞かせておく。
じゃないと大人な対応が出来ない大人げない人間なのだ。
保冷剤にガーゼを巻いて、彼の元へ。
手に持った保冷剤の冷たさと、緊張で熱くなる顔。
自分の体温のアンバランス加減にはびっくりだ。
彼の目の前に立ち、私が彼を見下ろす体勢となる。
見上げた彼の顔は…痛々しかった。
ムッと閉ざされた口に、睨みつける瞳。
しかし、それよりも先に赤く腫れた
頬に目がいく。
「…ごめんなさい。痛いですよね。」
保冷剤を彼の頬に優しく当てる。
ピクッと彼が震え、眉間にシワが寄った。
痛かった…だろうか。
力加減が分からない。男性に触れているような錯覚。どうしようもない罪悪感。
どれが原因か分からないが、手が震える。
どうか、どうか彼に気づかれませんように。
「冷やしていれば、少しはマシになる…と思います。」
保冷剤を彼にバトンタッチしようと頬から離そうとする。
が、手首を掴まれて離せない。
私を掴むのは彼の手。
「お前は…ずるい。」
その一言を吐き出すように言うなり、頭をお腹に当ててきた。
そのまま腰に腕が巻かれ、しがみつかれてしまった。
「…ずるい。」
男性に触れられてるはずなのに、不思議と怖くはなかった。
あの湧き上がる不快感はない。
代わりにどうしようもない何かが溢れかえってくる。
「叫んだり、殴ったりしないのだな。
それでも…嫌か?」
「い、や…じゃない…です。」
嫌ではないのだ。
何故か暖かくて心地よい。
男性にこんなに触れているのは久しぶりだ。
「じゃあこれは?」
彼は立ち上がり、私を抱きしめた。
頭に手が当てられ、無造作に撫でられる。
ドクドクと血の流れが速くなる。
あまりの近さに声が出ない。
「だめ…か…?」
耳元で囁かないで。
そんな泣きそうな声を出さないで。
硬直した私から熱が、彼が離れていく。
あぁ、待って違うの。
嫌いなわけじゃないの。
そんな不器用な笑顔で見ないで。
貴方を傷つけたくない。
私は彼に抱きついていた。
離れて欲しくなかった。
まだ、もう少しだけあのぬくもりが欲しかった。
「…いかないで。」
ピ ン ポ ー ン
ピンポンピンポンピンポンピンポン
「は、はーい!!今行きます!!」
何事もなく彼から離れ、玄関へ向かう。
どうしたんだ、私は。
おかしい。なんだこの顔の火照りは。
どうして心臓が煩いの。