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思い出すは、君の名  ~愛した姫の名で生まれ変わり、前世の誓いを果たす~  作者: 呂兎来 弥欷助
2・選んだ恋

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【5】新しい感触

 リュウの足がゆっくりになると、庾月ユツキはゆるりと歩みを止めた。

 つられてリュウの足も止まり、視線が庾月ユツキへと動く。


「指輪……見てみない?」


 雑貨屋のとなりの宝飾品見せに庾月ユツキも気付き、両手を組むほど喜んだ。




 店内にはショーケースが整然と並んでいた。正面より右側のショーケースに指輪が並んでいる。


 庾月ユツキはパッと繋いでいた手を離した。

 中央や左側のネックレスやイヤリングなどには目もくれず、一直線に正面へ向かっていく。


 リュウは慌ててついていく。



 庾月ユツキに追いつき、ショーケースの前に着けば店員がすぐにきた。


「どんな物をお探しですか?」


 誕生日プレゼントを選んだときを思い出し、リュウは少し照れて庾月ユツキに聞く。

「どんなのがほしい?」


 庾月ユツキは『ん~』と悩んで、パッと花の咲くように言う。


「ペアリングがいいわ!」


 店員は『かしこまりました。お持ちいたします』と一礼。後ろのショーケースへと行ってしまった。


 ──確かに、結婚指輪とは……言ってなかった。


 リュウが少しガッカリしていると、

「『結婚指輪』って伝えると、派手な物になりそうだったから……いつも付ける物なら、シンプルなデザインがいいと思って……」

 ポソリと庾月ユツキが言う。


 一転、顔が火を噴きそうになった。


 ──伝わってた!


「それにね……値段で、出されたくないのよ……」


 こういう店では、庾月ユツキの方が品物も、伝え方も知っている。


 なのに、ポソポソという様は恥ずかしそうで──傍から見れば、付き合い立てのカップルに見えるかもしれない。

 リュウは当時のことを思い出し、懐かしくなる。


「そういうところ……とっても好きだよ」


 ふいに庾月ユツキはキュッと口を閉じ、リュウを見た。


「付き合う前、『どう思っているのか、全部取り払って考えて』って、言ってくれたよね。それと似てる」


 正直、リュウはこれまで指輪に興味を持ったことがない。だから、どんな物がいいと言われても、選べる自信がなかった。


 でも、庾月ユツキが選ぶなら──どんな指輪だって気に入るとリュウは断言できる。


「好きなのを選んでね。絶対に俺も気に入ると思う」


『じゃあ』と目を大きくした庾月ユツキは、

「留の色の石を、入れてもらおうかしら」

 と楽しげに言った。


 だからリュウは、

「俺は……紫の色の石を入れてもらおう」

 と返す。


 クロッカスはリュウにとって特別な色だ。初めてその色を持つ物に選べて、リュウはこの上ない幸せを感じた。




 庾月ユツキが選んだ指輪は、シンプルだった。

 表面はツルンとしていて、少しねじれのあるくらいのペアリング。


「フラット状にちいさな石を表面に入れられるかしら?」


 リュウ庾月ユツキが聞いてきて、

「できますよ」

 と店員が答えてくれたから、ふたりは事前に話していた色をお願いする。更に、

「指輪の裏面には、文字を入れられますよ」

 と言うので──リュウ庾月ユツキにある提案をした。


 庾月ユツキが目を輝かせてくれたから、そのまま店員に伝える。


「では、宝石と文字を入れる時間が少し必要ですので……ご用意は九十分後くらいになります」


 ふたりは伝票を受け取り、『お願いします』と一礼。そして、再び町に出る。




 いくつかの店をまた歩きながら見て、『柚子は何色が好き?』とリュウは聞く。


「黒が好き」

 間髪なく返され、リュウは少し照れる。


「それなら……ショートケーキとかチーズケーキみたいに白っぽいデザートとかは引き立つし、モンブランくらいの色味までなら品が出るね」


 話しながら、目にとまった店で黒い皿を手に取る。


「あくまでも食器は脇役だから。食べる物を映えさせる存在じゃないと」


 好きなことはいくらでも言葉が出てくるもので、一度具体的に想像すると言葉があふれてきた。あ~でもない、こ~でもないと思わず饒舌になる。


 手に取った皿だったらどうだろうと一通り確認していると、リュウは違和感を覚えて止まった。


 ──視線を感じる……。


 商品から視線を移動させると、庾月ユツキと目が合った。


「ん?」


 首を傾げる。

 すると、どうしてか庾月ユツキは息を呑み、左右に首を振った。


「な、何でも……あ、ねぇ、そのお皿! ちょっと私も見たいわ!」

「うん、いいよ。ちょうど手触りも、これがいいかなって思ってたとこ」


 渡すと、ニコニコとしながら上下左右と皿をよく見始める。


 ──そんなに見たかったのかな?


 気に入った皿をまじまじと見てくれている様子は、何だかうれしい。


「私もこれがいいと思うわ」

「よかった。じゃあ、試しに一枚買って、じぃちゃんに見てもらおうか」


『そうね』と笑う庾月ユツキは、どこか照れていて。


 ──やっぱり、柚子のときの庾月ユツキって、ちょっと幼いんだよな。

『それもかわいいんだけど』と、幸せに浸りながら会計を済ませる。


 買った皿は、庾月ユツキがよほど気に入ったようで──上機嫌に皿を受け取っていた。




 手を繋いで歩き、指輪を買った店に寄って受け取る。『夜に部屋で付けよう』と約束をして、アヤに戻る途中、ふと過る。


 ──そういえば、付き合っている間……こうしてデートしたことなかったな……。


 実は祖父は、交際に反対だったのか。

 それともこれらの時間は、祖父なりの結婚祝いなのか。


 どっちかと繰り返し考え、リュウの結論は──『祖父は意地悪をする人ではない』だった。




『どんなデザートが乗るんだろう』と話しながらアヤに着き、

「いい皿を見付けてきたよ」

 と、祖父に報告する。


 庾月ユツキが自慢げに包みを開けた。


 皿を見るなり祖父は、満足そうな表情を浮かべ、

「おお……いいじゃねぇか」

 と、全方位から皿を眺めている。


 祖父の反応を見て、リュウは信頼に応えられたと実感が湧く。

 一方の庾月ユツキは『ふふ』と笑い、食堂の片付けに向かった。


 リュウ庾月ユツキの背を見送りながら、

「じぃちゃん……ありがとうね」

 この三週間分の礼を言う。


「ん?」

 とぼける祖父に、『何』とは言わず『充分受け取った』と感謝を返す。


「いい結婚祝いもらった」


 リュウがにこりとすると、祖父は照れくさそうにした。リュウは気付かないふりをして、庾月ユツキと同様に片付けへと向かう。




 指輪の裏面には『RYU』と、ふたつとも入れてもらった。

『R』と『YU』を繋げて、『りゅう』と読めるようにして。


庾月ユツキ』と結婚したから『柚子』とは入れたくなかった。

 でも、『庾月ユツキ』と入れてとは言えないから、互いの初めの文字だけを選んだ。


 庾月ユツキがそう気付いたかは、わからないけれど──。


「ふたりの名前の意味なのに、『りゅう』って読めるようになるなんて……すてきだわ」


 うっとりと言ってくれたから、リュウは提案してみてよかったと喜びを堪えきれなかった。




 仕事を終え、部屋で落ち着いたころ、リュウ庾月ユツキと向き合う。


庾月ユツキ、手を出して」


 戸惑うように庾月ユツキは左手を出す。

 リュウはそっと手を取り、薬指にしっかりと指輪をはめた。


「一ヶ月近くも……待たせてごめんね」


 庾月ユツキは首を左右に振り、はにかんだ。そして、リュウの左手を両手で包む。


 やさしく触れられ、急激に緊張する。そのせいか、動作のひとつひとつがゆっくりと見えた。


 左手が引き寄せられ、包みから開けられたように露わになる。

 上部にあった庾月ユツキの手が、残されたもうひとつの指輪を取った。


 指輪に庾月ユツキが口づけをして──心にされたような、淡い気持ちが広がっていく。

 指輪はリュウの薬指へと吸い込まれていって。スッと金属が指を滑っていく感覚に、時間の感覚が戻ってきた。


「ありがとう。……いいね、この新しい感触」


 恋を自覚したときのような、恥ずかしさが湧いてくる。


 ふたりして照れて笑い合い、互いに見せ合う。左手をふたりで並べてみたり、かざしてみたりして、色んな角度で眺めては喜び合った。




 結婚して間もなく一ヶ月になり、若葉の芽吹く朗らかな季節になった。


 朝の身支度を整え、いざ仕事に──とリュウが思ったところで、異変に気付く。

 庾月ユツキがベッドにちょこんと座ったままでいる。


庾月ユツキ? どうしたの?」

 珍しいとリュウは声をかける。


 だが、庾月ユツキはちいさい声を出したくらいで、顔を上げない。


 リュウは座る庾月ユツキの前に行き、両膝を床につける。少し屈んで覗き込み、視線を合わせた。


「体調悪い? ゆっくり休んでていいよ?」

『無理することないからね』と続けたところで、庾月ユツキが肩に両手を回してきた。


「わっ……」


 思わず声が出てしまった。しかしリュウは焦らずに、庾月ユツキの背に手を回す。

 心配しながら、ポンポンと軽く叩き始める。


 ──落ち着いたらいいな。

 その矢先、ポソリとか細い庾月ユツキの声が降ってきた。


「ごめんなさい」


 リュウは『気にしないでいいよ』と明るく返したが、

「ごめんなさい」

 と、庾月ユツキは繰り返す。


 さすがにおかしい。


 リュウはもう一度問いかける。

「どうしたの?」

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