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思い出すは、君の名  ~愛した姫の名で生まれ変わり、前世の誓いを果たす~  作者: 呂兎来 弥欷助
2・選んだ恋

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【3】誓いの言葉

 リュウは受け取った背広のような物を見、庾月ユツキの手元を見る。


 ──白い、ドレスみたいな……。


 もう一度、自身の手にある物を見、瞬間的に理解する。


 ──これって……結婚式の衣装だ!


 リュウが息を吸った瞬間、

「今日はお前たちが主役だ」

 祖父が背を叩く。


 衝撃を受け、リュウの視線は祖父に移る。


 胸がいっぱいで言葉が出ない。


 祖父は力なく笑い、

「近くの部屋で着替えて来い」

 と、やさしく送り出してくれた。




 食堂を出たリュウは咄嗟に衣装を両手で抱え、隠す。


 横目で庾月ユツキを見ると、レースの付いた真っ白な衣装を茫然と見ていた。


「柚子」


 呼びかければ庾月ユツキは、我に返ったかのようにリュウを見上げる。


「急いで着替えよう」

『持とうか?』と聞くと、肩をすくめて小刻みに首を横に振った。


 ドレスを見慣れているはずの庾月ユツキが、見とれていた。それが、じんわりと心に響いてくる。


 ──鴻嫗トキウ城で用意されるドレスには及ばないだろうけど……やっぱり、ウエディングドレスが着たかったんだな。


 キュッとドレスと抱き締める庾月ユツキに、つい頬がゆるむ。


「こっちだよ」

 リュウはすぐ近くの部屋を開ける。


 ハッと庾月ユツキは反応して、サササッと入っていく。


 ──うれしすぎて声が出ない……みたいな……。


 話しのうまい庾月ユツキにしては珍しい。

 でも、とても愛らしい。




 リュウの開けた部屋は、祖父やリュウが急な体調不良や怪我の手当などの際に使う、緊急用。ベッドがひとつと、薬が置いてあるくらいでシンプルな休憩所だ。


 庾月ユツキはベッドの上に、ドレスを置いている。


 その背を見て、リュウは『そうだ』と閃いた。


 ポケットから小箱を取り出す。


庾月ユツキ


 名はふしぎだ。

 庾月ユツキは、一瞬で『庾月ユツキ』の表情に戻った。


 リュウにしかわからない差だが、リュウには大きな差で──じんわりと手に汗がにじむ感覚を覚える。


「いつ渡そうか、迷っていたんだけど……」


 小箱を見せ、庾月ユツキへと近づく。


 庾月ユツキの視線は小箱に動き、大きく開いた。手が口元へ動いて、次の瞬間にはリュウを見上げる。


 リュウ庾月ユツキの手を取り、小箱をていねいに渡した。


「何がいいのか、色々考えたんだけど……この間の、きれいな庾月ユツキが忘れられなくて」

「開けていいの?」

「うん。できれば今、付けてほしいな」


 口元にある手を、庾月ユツキがおそるおそる小箱に動かして。リュウにも緊張が伝わるくらい震えそうな手で、小箱をあけた。


 中を見た庾月ユツキは、大好きな物を見たときのように一瞬で満面の笑みを浮かべ、うっとりと見惚れる。


「きれいな色だわ」

庾月ユツキって、黒も似合うと思って」

リュウの色ね」

「うん」

「それで選んでくれたの?」


 ドキリと一拍、鼓動が跳ねた。


 伝わったらうれしいと思っていたが、まさか直球で聞かれるとは。


「うん」


 恥ずかしさのあまり顔を覆いたくなる。

 つい視線が泳ぐと、庾月ユツキの笑い声が『ふふふ』とちいさく聞こえた。


「とってもうれしい……ありがとう。ねぇ、着替えたら付けてくれる?」


 リュウの口元は、表情を整えようとしても言うことをきかない。


「うん……ああ、急いで着替えなきゃね」


 照れをごまかすように、上着を脱いでシャツを着ようとすれば──すぐとなりで、庾月ユツキも上着を脱ぐ仕草が──視界の端に見えた。


 着替えると言ったから当たり前なのに、リュウは妙な気持ちになる。


 昨夜の光景と、知らず知らずのうちに重なっていき、緊張感に包まれそうになっていく。

 突発的にリュウは九十度回転して、庾月ユツキに背を向けた。


 とても心臓に悪い。


 リュウは急いで着替える。




 幸い、庾月ユツキリュウの様子に気付かなかったのか。


 着替え終わり襟元を整えていると、背にピッタリと──庾月ユツキがくっついてきた。


 リュウの背がシュッと伸びる。


「アクセサリーを付けてもらう前に、背中のファスナー閉めて?」

「うん」


 ──もう少しくらい、うまく話せたと思ったんだけど……。


 頭が働いていないわけではないのに、なぜか言葉が出てこない。


 もどかしい気持ちを抱えながら半回転する。すると、庾月ユツキも合わせて半回転していたようで。

 ドレスの開いた庾月ユツキの背があった。


 ──背中に、触れてしまいそう……。


 ちいさなファスナーの金具をつまむ。

 肌に触れないようにと思えば、また緊張してきた。


「こうして誕生日プレゼントをもらえたのが……本当にうれしいわ」


 庾月ユツキの言葉はふしぎだ。

 リュウの緊張を、一瞬で解く力がある。


 キュッとファスナーを上げきり、抱き締める代わりに囁く。

庾月ユツキ、こっち向いて」


 クルリと振り向いた庾月ユツキのドレス姿は、いつまでも眺めていたいほどきれいで──『姫』だなと、しみじみ感じる。


 ドレスひとつで『姫』に仕上がっている庾月ユツキを、飾れるのがまたうれしい。


 リュウ庾月ユツキの持つ小箱から、ゴールドの金具をつまみ取る。


 ──ネジをゆるめて……耳たぶに、やさしく……。


 付け方は店員に聞いてきた。教えてもらった通りに二回再現する。


 ──想像した以上だ。


 庾月ユツキのクロッカスに、ゴールドの金具と黒色のアクセントは実に見事。一気にいつもよりも大人の女性になる。


「うん、よく似合う」


 少し屈んで、愛おしいと刹那唇を重ねる。

 姿勢を戻し庾月ユツキを見れば、驚き、頬を染めていた。


「きれいだよ、庾月ユツキ


 抱き締めるのが恥ずかしくなってしまって、右手でふんわりとした庾月ユツキの髪に触れていたら──庾月ユツキが胸に飛び込んできた。


リュウのかっこよさに……しびれちゃったわ」




 少しゆっくりしてしまった。ふたりは急いで戻る。

 駆け足で食堂に入ると、多くの人が集まっていた。手を繋いだまま、ふたりは立ち止まる。

 すると、何かが弾ける音がいくつも聞こえてきた。


 あちこちからテープ状の紙や、小さい紙が舞っている。


「おめでとう!」

「おめでと~!」


 祝福の声を聞いて、我に返ったかのように──弾ける音は、クラッカーの音だったと気付く。


 たくさんの拍手も聞こえてきた。

 大勢の人からの拍手に、息を呑む。


 恐らく、祖父が宿泊客を呼んだんだろう。即席のような状況だが、祖父が用意してくれた立派な結婚式だ。


 となりを見れば、庾月ユツキリュウを見ていて──自然と互いに笑みが浮かぶ。


「俺たち……今日結婚したんだね」


 必要な書類の記載は、鴻嫗トキウ城でしてきた。けれど──。


「すごくうれしいわ」


 鴻嫗トキウ城でリュウ庾月ユツキは暮らすわけではなかったから。

 庾月ユツキが大々的な挙式をする機会は、失われたわけだ。


「ありがとう」


 それに、目立つわけにもいかなかったから──そもそも『挙式』をしてはいけないと思っていた。

 だからリュウには、幾重にも申し訳なさがあったのだが──。


「私こそ……ありがとう」


 庾月ユツキは感謝を返してきてくれた。


 グッと胸が熱くなる。

 目元まで熱くなってきたけれど、リュウは笑顔に変換する。




 庾月ユツキの手を引き、母が踊っていたと聞くステージへと歩き始める。


 祖父がリュウたちの動きに気付いたのか、壇上した。


 周囲からは、また一段と大きな拍手が湧き上がっている。




『ありがとう』と周囲に礼を言いながらステージに辿り着く。


 庾月ユツキに付き添って、ステージへの階段を上がる。


 祖父の前で立ち止まり、

「じぃちゃん、ありがとう」

 と礼を言えば、庾月ユツキが一礼していて。リュウは一息呑み、庾月ユツキと同じように一礼をした。


「え~、いかなるときも……リュウ、柚子、ふたりは互いを愛すると誓うか?」


 ぎこちない祖父の問いかけが聞こえ、リュウはすぐさま頭を上げる。


「はい、誓います」

「私も、誓います」


 庾月ユツキは同じように頭を上げていて。

 リュウ庾月ユツキを見たときにはもう、リュウをしっかりと見ていて。


 少し息が苦しくなったが、そんな緊張感にリュウは笑ってしまった。


 庾月ユツキと体を向き合わせ、短いヴェールを上げ、やや前傾になる。


「いつか、離れて暮らすときがきても……変わらず庾月ユツキを想い続けると誓うよ」


 こっそり言った流れで誓いのキスをしようとしていたのに、想定していたよりも早く鼻も唇も触れたから──リュウは驚いて目を開ける。


 すると、庾月ユツキがいたずらをしたような笑みを浮かべて、こう言った。

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