表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
思い出すは、君の名  ~愛した姫の名で生まれ変わり、前世の誓いを果たす~  作者: 呂兎来 弥欷助
出会いと再会

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/12

【11】思い出すは『君の名』

 ()はピクリと一度大きく目を見開いた。そうして、キュッと唇を締め直す。


 ──こんな風に想いを寄せている人が、庾月ユツキのそばに……いたんだ。


 じんわりと胸が痛い。でも、自然なことだと安易に共感してしまう。


 ()庾月ユツキと一番近い存在だったはずだ。年も近く、庾月ユツキが生まれたころから、()はそばにいたんだろう。


 ふたりで、長い時間過ごしてきたに違いない。

 鐙鷃トウアン城で庾月ユツキが暮らしていた時期があったなら、尚更。


 ──庾月ユツキみたいな魅力的な子が、ずっと近くにいたら……好きにならない方がおかしいよね。


 逆に()を見ていれば、疑問に思うほどだ。これだけ近しい異性が昔からいたのに、と。庾月ユツキはどうしてリュウを選んだのか。


 ()は誠実な人だろう。剣ではなく、それを支えるベルトを握る人なのだから。


 身につけている剣は誰のためか。それまで伝わってきてしまって、リュウは思わず視線を逸らす。

 そのとき、()がおもむろに口を開いた。


「俺は、幼いころから『鴻嫗トキウ城』に関して、深い知識を与えられて育ちました。……叶わないと知っていました。願ってはいけないと思っていました。俺の身分では、庾月ユツキは届かないと……想ってはいけない存在だったのです。俺からは言ってはいけない……そんな、遠い存在の人です。庾月ユツキは」


 声が沈んでいる。

 とても好きだとヒシヒシと伝わってくる。


 他人事に思えず、再びリュウの視線は()に戻ってしまう。


 庾月ユツキを想う気持ちは、『わかる』と安易に同調してしまう。


 尚且つ、もし逆の立場だったら──とまで、考えてしまう。


 ──俺は……貴族として育たなかったから……。


 庾月ユツキと、付き合ってみるだけでもいい。そう思えたのかもしれない──と自らを振り返る。


「幸せにしてください」


 ()リュウを見上げたから、リュウの時空が少し歪んだ。




 結婚すると気持ちを固めるとき、互いの気持ちを庾月ユツキと洗いざらい話した。


 アヤに残ると言ったリュウに対し、結婚の『妥協案』を庾月ユツキがいくつか出した。


 そのひとつ目が、『鴻嫗トキウ城を継ぐまで』庾月ユツキアヤで暮らすこと。


 しかし、『城を継承するときが来たら、帰らなくてはいけない』。


 庾月ユツキが更に言った。

 ふたつ目は──『娘が生まれたら、長女は後継者として連れていかなくてはならない』こと。


 庾月ユツキがいつ城を継承をするのか──いつまで一緒に過ごせるのか。期限は庾月ユツキにもわからない。


 子宝に恵まれても、一人娘なら──リュウは、愛する妻子と離ればなれになる。


 それでも、ふたりは約束をした。


 たくさんの幸せを作っていこうと。

 離ればなれになっても、『夫婦』で、『家族』でい続けようと。


 そして──必ずいつか、また一緒に暮らそうと。




「約束します」


 ()が頭を深く下げた。


「お願いします」


 リュウは驚く。


 ──いや、これは……庾月ユツキへの想いだ。


 リュウはしっかりと受け止める。


「頭を上げてください」


 ()がゆるやかに元の体勢に戻っていく。


「夢みたい……なんです」

 リュウは思わず笑みがこぼれる。


「こんなに多くの家族ができるなんて、想像したことがなくて。……胸がいっぱいです」


 ()が『家族』と認めてくれたのかはわからない。けれど、リュウ()がいてくれたことにも、感謝の気持ちでいっぱいになった。


「戻りましょうか」

 リュウが言うと、()は初めて微笑んだ。

「そうですね」


 悲しげな笑みだったけれど、今の()の精一杯の笑顔だろう。


 ──すごくやさしい人なんだろうな。


 振り返らずリュウは来た道を戻る。


 贅沢な眺めを『二度と見ない風景』として刻む。リュウの横に()は並ばないだろうと、速度を落とさないよう気を付ける。


 ()とふたりきりにした、父の意図がわかった気がした。

 父は、どちらの息子にも分け隔てない。


 これは、リュウにしかできなかったことだ。

 リュウをきちんと受け止めてくれていた父だからこそ、もうひとりの息子の恋をきちんと終わらせようとした。


 父の信頼がじんわりと伝わる。

 勝手な想像以上の父を感じて、リュウは少し笑ってしまった。


 ()がどう思おうと──リュウはもう、彼が『弟』として愛おしい。


 彼がどう思うかわからないから、決して口にはしないけれど。




 室内に戻ると、庾月ユツキが駆け寄ってきた。

「ふたりで何を話してきたの?」

 クイクイとリュウの腕を引っ張る──が、口を滑らせるわけにはいかない。


 すると、

「『庾月ユツキは身長がコンプレックスだから、背の高い人でよかった』って話してたんだよ」

 と、彼が後方からリュウを追い越していった。


「え、やだ! レキったら! ……そんなことを言ったの?」

 驚き叫んだ庾月ユツキは、彼を追いかけていく。


 スルリと離れた庾月ユツキを目で追っていけば──ふたりは同じくらいの身長で。仲のいい様子を、つい眺めてしまった。


 ──身長のコンプレックスは……レキくんの方なのかな……。


 好きな子をからかうなんて、バレバレな言動をとっているつもりはないんだろう。


 庾月ユツキ庾月ユツキで、気付いていそうにない。

 かえって庾月ユツキの反応は、レキへの信頼だ。


 ──でも、あの庾月ユツキの態度は……『兄妹みたい』な感覚なんだろうな。

 仲睦まじい光景は、リュウには『双子』のようにも見える。


 きっと彼は、庾月ユツキの気持ちをわかっていたんだろう。立場が足らないとか何とか色々言っていたけれど。


 ふと気付けば、庾月ユツキがまたリュウの方へとやってきていて──。

「ねぇ……リュウもやっぱり背の低い子の方が好き?」

 いつになく弱々しい瞳で見上げてくる。


 まったく聞こえなかったが、レキは更に庾月ユツキをからかっていたのだろうか。


「身長は関係ないけど……庾月ユツキは充分『俺より背の低い子』でしょう?」


 答えるや否や、庾月ユツキが抱き付いてきて。『わぁ!』と思わずリュウは声を上げてしまった。


 父の家で、しかも家族の目の前で。それに、レキのいるところで。この状況をどうすればと、半ばパニックになったが──。


 ──あれ? こんな状況、どこかで……。


 支える手の置き場に迷う。だが、この場にいる皆に認めてもらった婚約者だと、迷いを払拭する。


 庾月ユツキの背中にそっと手を置き、もう片方の手で頭をなでる。


「初めて会ったときから、確かに年齢がわからないくらい身長はあったけど。でも、もし庾月ユツキが年相応の身長だったら……返事を考えるより先に、年齢を聞いていたかも」


 リュウが笑ったからか、庾月ユツキの表情がパッと晴れた。


「あら……身長が高いのも、悪いことばかりじゃなかったのね」


 庾月ユツキがクスクス笑いだすと、次第に周囲から拍手が聞こえ始めた。




 夕刻、リュウは祖父とアヤへ帰る。

 庾月ユツキはこのまま鴻嫗トキウ城に残り、数日間生家で過ごす。

 

 リュウにはわからない、色々な手続きがあるのだろう。


 夕刻になる前に祖父と合流しようとすると、庾月ユツキが──父まで見送りにと、一緒に来てくれた。


 祖父との合流前に、リュウは着替えようとしたが、

「一着くらい、そのまま着てっちゃえよ」

『大丈夫、大丈夫』と、父が押し切ろうとする。


 庾月ユツキに視線を向ければ、父と同じく『大丈夫』と言いたげにニコニコしていて──リュウは着替えそびれてしまった。




 鴻嫗トキウ城のホールの手前に祖父の姿が見え、リュウは手を振る。


「じぃちゃん!」

「おお、リュウ!」


 ふと、視線の端で父が動いた気がした。チラリとリュウが父を見ると、父は気まずそうにリュウを見る。


「ん?」


 父はごまかしたつもりかもしれないが、リュウにとっては確信だ。


 忘れもしない。

 五歳で初めて父に会ったときも、父は同じ反応をしていた。


「やっぱり……父ちゃんってさ、じぃちゃんが俺を呼ぶと、反応するよね」

 リュウがそんなことを言ったときには、もう祖父との距離は近く。あとはまた、さよならだと思っていたのに。


「だって、俺もヨシさんに『リュウ』って呼ばれてたもん」


 父の意外な返答に、リュウは思わず目を見開いた。


「そりゃお前が……名前聞いたときに、『りゅう』って言ったからだろうが」

「違うの。あのね、俺は『瑠既リュウキ』って言ったの。ただ、『』がヨシさんに聞こえなかっただけだって!」


『はぁ』と父がため息をつく。


「まったく、それで……孫に名付けちゃうんだから」

「仕方ないだろ」

「『仕方ない』じゃないよ。あ~あ……俺にちゃんと話してくれたら、俺には……付けたい名前があったのに」


 たんだんポソポソと父は言ったが、リュウにはとても重要な内容で。つい、耳が大きくなっていた。


「え。俺……違う名前だったかもしれないの?」


 考えたこともない展開に、リュウは思わず食い下がる。

 すると父は、リュウを横目で見た。


ヨシさんが付けたんだ。だから『リュウ』って名前だったろ、きっと」

 

 言いにくそうだけど答えてくれた──と思った矢先。

 父の視線は祖父に移って、

ヨシさんが俺を拾わなかった限り?」

 と笑う。


 祖父も一緒になって笑い──祖父と父の、知らない時間をリュウは垣間見た気がした。


 ふと今度は、父がリュウに向き合った。


「うちの家系はさ、名前の最後に『き』を付けるって……まぁ、決まりがあるんだけど。俺の名前はさ、お祖母様からもらったんだよ」


リュウ……」

 庾月ユツキがポソッと言って、リュウは思わず『え?』と聞き返す。


「そ。お祖母様の名前が『リュウ』で。周囲は『留妃リュウキ』って呼んでた」


 父は自慢げに続ける。


「で、俺が生まれて。『瑠既リュウキ』って名付けられたわけ。お祖母様の名前に『王』と『既に』だぜ? 『生まれながらに王』って、この代々姫が継いできた城の長男に付けたって……すごくね?」


「うん……すごい……」

 父とたくさん話せたこの二日間で、名前負けしていないとリュウは感嘆する。


「でも、まさか……お祖母様の名前が、こうして息子に巡ってくるとは思わなかったけどな」


「でも、だから私『リュウ』と聞いて、思わず駆け寄ったの」


 照れている庾月ユツキを見て、リュウは出会ったときの不自然さを思い返す。

 確かに、庾月ユツキは明らかに『名前』に反応していた。


「すてきな人に出会えてよかったわ」


 庾月ユツキがにこりと笑うから、

「俺も、この名前でよかった。庾月ユツキに見付けてもらえたから」

 心の底からリュウは感謝を述べる。




 その後も四人での談笑は続いたが、船の時間は待ってくれない。


 父と庾月ユツキに『またね』とあいさつをして、用意された馬車に乗る。




 ふいに、祖父がこんなことを言った。


「いいのか、嫁さんと離れて」


 祖父は自責しているのだろう。


 だから、リュウは思いっきり幸せオーラを出す。


庾月ユツキのことを信じているから」


『わ~、アツアツだなぁ!』なんて祖父がからかってきても、リュウは『あはは』と笑う。


 そうして子どものころのように祖父とじゃれて、道中を過ごす。




 港街に着き、今度は船に一直線で乗り込む。

 リュウは手元の乗船券をしみじみと見てから、離れゆく街並を見送る。


「じぃちゃん」


『ん?』と祖父が足を止める。


「ありがとう。庾月ユツキとの……結婚を許してくれて」


 しんみりとリュウが言ったからか。大きな手はリュウの頭をガシガシとなで、

「何言ってんだ」

 と笑った。


 風が鼻をくすぐって、リュウは涙声になりそうだった。

 だから、そのまま祖父にしがみついて、リュウは笑い声でごまかした。




 庾月ユツキは数日遅れてアヤにくる。


 これまで家族と離れて暮らしてきた分、しっかりと家族と過ごしてほしいと願う。




 庾月ユツキと結婚するまでのカウントダウンは、あとわずかだ。

第一章はここで終わりですが、第二章もあります。


引き続きお付き合いいただけましたら幸いです。


次回の更新は4/2(木)の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ