9.ひとつお節介を焼いてみたんだが
「え?私に頼み?なんでしょう?」
「昨日そこの幽霊に聞いたんだよ。条件はあるけど、少しの間なら輪廻の順番待ちの魂をこっちに呼び戻せるんだろう?タマちゃん、あんたなら」
と、頼んでる途中で
「お任せください!『岩津友武さんっ、どうぞこちらにいらしてくださいっ、笹森薫子ちゃんがお待ちですよっ!』」
と、力強くタマちゃんが声を張り上げた。すると、幽霊から1歩分ほど離れた場所にレトロなデザインの学生服を着た細面の青年が現れた。紛れもなく友武さんだ。
「……よく俺の頼みがわかったな。っていうかどっちにしろこうするつもりだったのか」
「ええ、せっかく誤解が解けたんですからね」
しかし、肝心の幽霊は顔を強張らせると、くるりと回って背を向けてしまった。そんな幽霊に友武さんが話しかける。
「会いたかったですよ、薫子さん」
「……私はお会いしたくなどありませんでした」
心にも無いであろう幽霊の言葉につい、横から口を挟んでしまう。
「昨日、『双方が再会を強く願っている場合に限って』魂を呼び戻せるって言ってたのはお前だろうが」
「余計なことを!……今更、あわせる顔などあるわけがないでしょう!」
そんな頑なな態度の幽霊に友武さんは後ろから歩み寄り、肩に手を置いて話しかける。
「ごめんね。もっと早く待ち合わせ場所に行くことができなくて。そして、僕が早くに亡くなってしまったせいで長いこと誤解させてしまって」
いずれも友武さんに責任は無いと思うのだけど、100年を超えるの恋人の苦悩を想えば一言謝らずにはいられなかったのだろう。
「でも間に合って良かった……薫子さん、こちらを向いてもらえないか」
「……」
「輪廻の輪に乗るまでの残された時間、僕と過ごすのは嫌かい?」
「……嫌なわけがないでしょう!」
幽霊は振り向いて友武さんにしがみついた。
友武さんの背に隠れて表情は見えないが、幽霊が強く掴んだせいで友武さんの服に寄った深い皺が、幽霊の想いを語っているように俺には思えた。
それから友武さんが俺とタマちゃんの方に振り返って言った。
「挨拶が遅れてしまったけど友政兄の弟の友武といいます。僕の不始末でずいぶん面倒をかけてしまったようで申し訳ない」
「いえいえ、貴方に不始末なんかありませんよ」
「ああ、俺が手を貸したのも成り行きだしな」
「それでも礼を言わせてもらえないか。正直、こうして薫子さんと再会できないまま、輪廻の輪に乗ってしまうのだろうと諦めかけていたんだ。君達のおかげでこうして会うことができた。ありがとう」
「どういたしまして」
「まあ、気持ちはもらっとくよ」
俺が答えた後からゆっくりと二人の輪郭が薄くなっていく。友武さんは俺達に軽く手を振っっていた。
すると、友武さんの陰から幽霊がそっと顔を出し、礼のつもりか軽く頭を下げる。その直後に二人は消え、部屋にはタマちゃんと俺が残された。
「お幸せにね、薫子ちゃん……」
「やっと『トモ様』と再会できたんだ。仲良くやっていきなよ幽霊……いや、薫子さん」
お互いに独り言ちたタマちゃんと俺は顔を見合わせて笑いあった。