第74話 夜の雑談と神隠しと
結局瑞奈ちゃんの意見によりそのまま一晩預かる羽目になってしまった。
お母様が直接相手のお家に菓子折りを持って出向いて事情説明を行ったらしいのだけど、相手は終始平伏したまま顔を上げてくれることはなかったそうだ。
お母様曰く「身分の違いはあれど恐れることはないのだけど」とのこと。
ちなみにお母様は存在感が強いため学校にも出入り禁止にされている。
「それほどまでに妾を恐れなくても良いと思うのだがのぅ」
「まぁお母様は存在感があるので。身長高いし胸大きいし美人だし」
大御所女優オーラのようなものがあるといえば良いのだろうか? まぁそんな感じである。
普通の人は遠巻きに見ても近寄ってみようとはしないだろう。
「だから私が代理で行くのよ。暮葉ちゃんも弥生ちゃんもね。瑞奈ちゃんは普通に育ってね〜」
「きゃ〜」
瑞奈ちゃんは今葵姉様に抱かれてご機嫌である。
葵姉様、子供たちにも大人気なのはいいんだけど、男の子の性癖とか壊しそうでちょっと心配。
「はは。3人とも元気だね。今日はお客様もいるようだし。というかこっちにみんなが集まるのも珍しいような」
宗親兄様がお茶を入れて戻ってきた。
それぞれコーヒー、紅茶、緑茶とオレンジジュースを出している。
ちなみにお母様は甘酒だ。
「宗親お兄ちゃん、ありがと~」
「いえいえ」
これには幼女瑞奈ちゃんもにっこりである。
イケメンの顔をじっと見ながら花の咲いたような笑顔を披露する様は実に絵になる。
宗親兄様ってまぁまぁ天然タラシみたいなところあるからなぁ。
「くれはちゃんのかぞくってなんかわたしのかぞくとぜんぜんちがうね〜」
不意に葵姉様の腕の中の瑞奈ちゃんがそんなことを口にする。
そうかな? 人の家族あまり見ないからなぁ……。
「それぞれの家族に特色があるのは確かよね。うちはまぁちょっと変わってるかも? でもみんな違ってみんないいものよ」
「たしかに。うちは幸い全員が同じ方向向いてるからね〜。ほかよりはやっぱり特殊かも」
ボクの家の親兄妹は基本的に本業とは別に副業でクリエイターをしている。
プログラムやモデリングの長男【宗親】、イラストや衣装などの長女【葵】、人気美人配信者の次女【弥生】、ぼんやり系配信者の末っ子三女【暮葉】だ。
母の【天都】は芸能会社の社長だしVtuber事務所【夢幻酔】の社長でもある。
「くれはちゃんはうたっておどれるの~?」
「それはさすがに無理。ボクはそういうの得意じゃないんだよね」
いつか神楽殿で踊らされたことはある物の、基本はそれくらいだ。
アイドル系Vtuberみたいなことは一切できない。
まぁたまに2.5次元配信的なものはやったりしてるけど。
またそのうち人間の視聴者用に【妖精郷】の動画でも撮ってこようかなぁ。
「そういえばこの前こっちの【狐の社駅】に人間が迷い込んだらしいわよ? 現地住民の神様がどうにか人間界へ送り返したらしいけど」
「あ、この間話題になっていた謎の異界駅の話? ネット上で話題になってたよね。一面真っ暗で祭囃子の音がする誰もいない駅に着いたって」
「あぁ、あの話ね。私も見たよ。たまに電車に乗ってるときにこっちに来てしまう子がいるんだよね」
今兄様たちが話題にしている狐の社駅とは妖精郷の人里離れた秘境の山に存在する駅の名前だ。
駅にある文字は人間界の文字ではないため人間には読めず、人間から見ればそこの住人の姿は見えないため無人の恐ろしげな駅に映るだろう。
その上如何にも曰くがありそうな【狐の社駅】だけが読み取れるのだから腰が抜けるほど驚いても仕方がないと思う。
こういった妖精郷の異界駅に人間が迷い込んでしまう原因の1つが車内での居眠りだ。
まぁ眠るだけならみんな着いていそうなものなのだけど、運悪く並行する妖精郷へ向かう電車と並走してしまい、さらに運悪く波長が合ってしまったりした場合、魂だけが一時的にその妖精郷行きの電車に乗車してしまうのだ。
結果的に目が覚めると見知らぬ異界駅に到着した格好になる。
大抵は現地の神様の助けで肉体に戻って事なきを得るんだけど。
「偶然何かしらの要因で彼らがこちらに来てしまうのは避けられないからのぅ。見かけたらそっと帰り道を示してあげるのがよかろう。未だ神隠しなどでこちらに来てしまう子らも多いからのぅ」
お母様の言うとおり、うっかり神隠しでこちらの世界に来てしまう人もいる。
でもそういう人ってなんだかんだで普通の人だったりするんだよね。
ケモミミ好き! って人がこっちにこれた試しはないような気がする。
「妖種系Vtuberにお願いして注意喚起してもらう?」
「それは逆効果じゃないかなぁ。こっちに来たいって人増えちゃうでしょ」
「それもそっかー……」
何はともあれ、不意な転移や遷移、神隠しなどにはご注意を。
もし困ったら現地の住人に声を掛けて脱出させてもらってね。
あ、でも声を掛けちゃダメな人もいるから、そこはまた別の機会に。




