第一一話 這い寄るナイフ
「ごちそうさまでした」
「……ん、ごっそさん」
今日の最後の晩餐になるかもしれない食事を食べ終えると俺たちは少しの休憩を取っていた。
桜も軽く腹を指で叩いて満足そうな顔を浮かべている。
――――……ったく、本当にその能天気な顔は変わってねえな。
彼女の表情に口角を上がりそうになるのを抑える。
昔のように言えたならよかったが、そうはいかないだろう。
コイツには、今コイツの人生があって俺みたいな奴と関わられたら迷惑でしかないんだろうから。俺は鞄の中身を漁った。
「……よし」
俺は鞄からガラケーを取り出す。
二つ折りにされた携帯を開くと、圏外と表示される。
俺は携帯を手に持って電波を探すことにした。
「? どうしたの? たかくん携帯なんて出して」
「連絡手段取れんならそうすんだろうが」
「あ、それはそうだね」
床に屈んだり、黒板より上の方にと悪あがきする俺に不思議そうに桜は見つめた。
桜はポンと手を叩くと俺は舌打ちする。
「どうしたの?」
「…………やっぱり、圏外になる」
「そっか……」
「お前も、見染神社にいたんだよな」
「うん、そうだよ」
桜は静かに頷く。
俺はガラケーを片手で閉じて、顎に手を当てて考える。
希咲町は、田舎ではある方だろうがこんな廃墟のある場所なんて一つもない町だ。
顔無狐と名乗ったアイツがただの人間で俺たちは誘拐された、とか……他にも肝試しで無理やり連れてこられたとか、こじ付けっぽくても納得はしようがあった。
でもは前回の時にいたけむくじゃら、あんな化け物がいるなら話が別だ。
しかし、今回は桜は見ていないはず。つまり今は話せない……なら、試してみようと思うのはもう一つあるな。
「なぁ、唯之宮」
「何?」
「俺の手首に見て、なんか変な模様見えるか?」
俺は桜へと左手首の模様を見せる。
桜は席から立ち上がって俺に近づいてくる。
遠慮なしに俺の手に両手で触れてきて、じっと見てくる。
「……おい」
「うーん、何も見えないよ? もしかしてたかくん、習字の墨で落書きしたりとかしたの?」
「んなもったいない真似すっかボケ」
距離感バグってんのかお前は、と一言言ってやりたくなった。
前回の時も、今回も本当に桜と久しぶりに話せているから距離感が掴めない。
前の時は、俺がコイツの髪を触っただけでも照れてたくせに……なんかムカつく。
桜はそんな俺の心中を察すこともなくのほほんと俺に聞いてくる。
さりげなく、美少女な自分の顔のよさを利用してか首をこてんと傾げながら俺に聞いてきやがった。
「じゃあ、マジックで落書きしてたの?」
「だー!! もういい! 手ぇ放せ! そういうことにしろ! 勝手に」
「あ……ごめんね」
「…………っち」
俺は乱暴に腕を払うと桜は笑う。
顔を背けて桜の顔を見ないようにすると背中に視線が刺さってくるのを感じた。
「たかくん、怒ってる?」
背後から、彼女が声をかけてくる。
……さっきから何余裕ぶっとんだコイツは。
口にするのは嫌だったが、言わないと納得しないコイツのために助言を言ってやる。
「……女子に腕を触られて平然してる男子がいると思ってんのかお前は」
「だって、たかくんは小学校以降から話してくれなくなったでしょ? だから、その……話したくて、たまらなくなっちゃって」
「……そうだったな」
桜の顔は見ずに月明かりで見える角度で俺の左手首を見る。
そこにはやはり、奇妙な模様の入れ墨のような模様があった。
日本の、というより海外のおしゃれな感じなヤツ。
これはいったい何なんだ? 本当に。
俺が気が付いたら手首にあったが……やっぱり意味が解らない。
『谿コ縺励※繧?k』
ノイズめいた声が耳を通り過ぎる。
嫌な予感がして俺は桜の方へと振り返った。
「……っ!!」
「だからたかくん、私――――――」
桜の後ろに紺色のセーラー服を着た女子が、彼女にナイフを振りかざそうとしている瞬間だった。
「逃げろ、桜!!」




