灰色のキャスター付きパイプ椅子
職員室のドアをあけると、無数の机が綺麗に置かれていた。
ある人の机の上は、本がたくさん置いてあったり、ある人の机の上には、学校で配るであろうプリントが無造作に置かれていたりしていた。
「あら、どちらさま?」
黒縁メガネの小太りの女性が僕に話しかけてきた。
「えっと……鈴木です」
小太りの女性は、右手でメガネの縁をクイッと動かして僕をマジマジと見た。
「あなたが鈴木さんなのね。どうもどうも。私は小向です」
小太りの女性は、その場で軽く会釈をした。
「鈴木さんの席は……あそこ、あそこ」
小太りの女性は指をさして、僕の座る席の場所を教えてくれた。身長が少し足らないのか、背伸びをしていた。
僕は、言われた場所に向かって歩いた。
自分の席に座るまで、周りの先生方が僕をチラチラと横目で見る。
あまり、若い先生は居なさそうだ。みんな、40代、50代。20代の僕はとりわけ不思議な存在に見えなくも無い。
自分の席の前に着いた僕は、何も置かれていない机の上に、肩に背負っていたデイバックを置いた。
そして、灰色のクッションと灰色のパイプで出来たキャスター付きの椅子を少しだけ手前に引いて、そこに腰掛けた。
僕が一息をつくと、隣の席の先生が戻ってきて僕に声かけてきた。
「おはようございます。新任の鈴木先生ですか?」
僕は、おもむろに振り返る。
すると、驚いたことに僕とあまり年齢の変わらなさそうな女性が立っていた。
僕は、嘘かと思って一旦、自分の机の上に目を戻した。
机の上には、僕が背負ってきたデイバックが置いてある。
「そ、そうです」
僕は、返事をしたが、なぜか尻すぼみに声が小さくなっていった。
「結構お若い人でびっくりしました。この学校結構若い先生少ないんですよ。やっぱり、商業科って人気無いのかなぁ」
若い女性の先生は、もっている教材を胸に抱き寄せ、物思いに遠くのほうを見た。
身長は割と大きく、僕と同じくらいある。
肩まである少し茶色の髪、茶色のメガネ。薄い緑色のカーディガン。
高齢の先生方の中では、少しだけ異彩を放つ存在だろう。僕なんて、すぐにでも慣れてしまいそうなくらいにくたびれている気がしなくも無い。
「これから、よろしくお願いしますね」
「は、はい」
女性は、僕に軽く挨拶をして僕の隣に座った。
そして、座る動作を横目で見ていた(特別見る気があったわけではないのだけれど)。
どうして、女性はあんなにも優雅に席にすわるのだろうかと僕は思った。音も立てずに、ゆっくりと、そして柔らかくあのセンスのない灰色の椅子に。
一瞬だけ見とれていた僕であったが、思い出したかのように席の上に置いたデイバックを開けて、筆記用具を取り出した。




