クリスマス -後編-
カフェラテの甘さは、不思議である。
もともと苦いコーヒーを、ミルクと砂糖で甘くする。もともと甘いものを甘くするのではなく、もともと苦いものを甘くするのだ。特に意識することなく、ミルクと砂糖を入れるが、意識し始めるとなんだか不思議なことをしていることに気がつく。そこまでして飲みたいコーヒーという飲み物は美味しいのだろうか。
別にこの人かっこよくはないけど、なんかフィルターの2枚や3枚を通してなんとかして好きになりたい。コーヒーみたいに苦味のある人だけど、実はカフェラテのような甘さがある。
僕は、カフェラテの上で弾けるミルクフォームを見ながら小難しいことを考えた。目の前には、カフェラテ以上に甘い人が居る。僕のカフェラテ理論なんて、通用しない。彼女は、既に甘い。甘いものを甘くするのだ。
「イチローくん?」
橋本は、ぼけっとしている僕の顔の前に手をゆらゆらとかざして僕の意識をこの世に引き戻した。
「な、なに?」
僕は、はッとなって目が覚めた。寝てはいなかったが、意識はこの世になかった。目の前に転がる、砂糖が入っていた小さな紙の袋に手が伸びた。僕は、その紙袋を結んだり解いたりしはじめた。
「橋本は、好きな人とかいないの?」
なぜか、僕は強気で、いつもの自分なら聞かないような内容の話をし始めた。町中は、カップルばかりであることが僕を強気にさせたのだろうか。
「いないよ」
橋本は、顔を真っ赤にさせて返事をした。僕は、いないという言葉を聞いて僕は落ち着きを取り戻した。僕ではない。しかし、なぜか他にいないということになぜだか安心した。
「イチロー君は?」
僕もいないと返事をした。橋本の真っ赤になっていた顔が、ゆっくりと元の綺麗な肌色になっていくのがわかった。橋本は落ち着きを取り戻していくのがよくわかった。
橋本も同じような気持ちなのかもしれないと思った。でも、僕はこれ以上の関係は今の所望んではいなかった。振られるのが怖いとかそういう類の問題ではなくて、単純に橋本とあんなことやこんなことをする想像がわかなかっただけである。
僕らは、飲み終えたコーヒーカップを返却棚において、お店を出た。
橋本は、マフラーを首にぐるぐると巻いて、「さむい」と言った。僕は、寒くなかった。どんなに意地をはったり、意味不明な理論をこねくり回してもこの感情の前では誰しもが無意味なのだと思った。
「またね」
橋本は、手を振って家に帰っていった。僕も手を振ってその後ろ姿を見送った。橋本の姿が見えなくなると、僕は急に走りだした。叫びたい気持ちを抑えて(近所迷惑を考え)、一心不乱に走った。
鈴木一郎15歳。恋という感情が芽生えた、寒い寒い冬の出来事であった。




