クリスマス -前編-
物事の始まりはいつも突然だ。
僕は、決して商業高校に入りたかったわけではない。
僕は、食堂でただただAランチからEランチを毎日、日替わりで3年間食べたかっただけだ。
でも、現実は違った。たくさんの仲間と出会い、彼らから良い影響を受けた僕は前とは違う場所にやってきた。居場所は食堂には最初からなかった。僕の居場所があったのは、学校の隅っこの隅っこにある古びた教室の一室だ。今でも、掃除をしたとはいえお世辞にも綺麗であるとは言い難かった。
人は、いつだってモラトリアムな時期がある。体は大人でも心は子供。僕らは相反する心と共に成長していき、心がやがて追いついていく。心身ともに追いついて初めて大人になる。高校生や大学生、就職したての数年間は特にこんな感じなんだろうか。
僕は、昔よりは賢くなったのかもしれない。簿記を通じて社会の仕組みを学んだ。大きなことを言っているつもりはなくて、本当に簿記は僕に社会を教えてくれた。簿記は全てを正確に描写する。嘘をついたとしてもいつかほころびが出る。簿記は嘘をつけない、真面目なヤツなのだ。
でも、賢くなることが全てなのだろうか。僕らは何のために簿記を学んだんだろうか。僕は、そろそろ自分の目的を決めないといけないのかもしれないと思った。先生は、いつか言っていた気がする。
「いつかは、選択肢を選ばなければならない」と。
そんな猛スピードで駆け抜けた1年であったが、それももう終わりが近づいている。とても長かった。大人になると一年は短くなるというが、僕にはまだまだ長かった。小学生の頃、僕は一生小学校に通っているんじゃないかと思うくらい、あの6年間は異常な長さであったが、それに匹敵するかもしれない。
僕は、難しいことを難しい顔をしながら繁華街を歩いていた。街はクリスマスイルミネーションで色づいて、クリスマスソングが街に響き渡っていた。しかし隣には、なぜか橋本がいる。そう、僕は橋本と二人で歩いていた。橋本は昨日の学校帰りに「見たい場所があるから連れてってよ」と僕に言ってきたのだ。僕は、特に断る理由もなかったので、その頼みを承諾した。
「わぁー、トナカイの着ぐるみがいるー。あったかそー」
橋本は、無邪気にトナカイの着ぐるみのほうへと近づいていき、トナカイに抱きついた。あのトナカイの中に入っているのが、大学生であるとするならば、若い若いうら若き乙女に抱きつかれていることになる。今晩、彼はきっと眠れないだろう。いろいろな意味で。
「暖かかったよトナカイ。イチロー君もどう?」
橋本は、またしても無邪気にトナカイを僕に進めてきたが僕は気が乗らなかったので断った。決してトナカイマニアでもないので。
僕らは、橋本が見違っていたビルの展望台からの夜景を見た。橋本は飛び跳ねて僕に抱きつく勢いの興奮度であったが、僕は遠目からそれを観察した。橋本は「ありがとう!こんなに夜景が綺麗だとは思わなかったよ」と僕に感謝の言葉を述べた。
帰りに駅前のコーヒーショップでゆっくりして帰ることにした。橋本が何か喋りたそうだったのだ。
「一年間お疲れさまでした」
「いえいえ。こちらこそお疲れさまでした」
僕は、橋本に軽く会釈をしてコーヒーをすすった。しかし、僕は本当に鈍いようだが、ようやくこのあたりで気がついた。ここまでの流れを、全くの赤の他人が人間観察番組等で閲覧していた場合、僕らはどのように見えよう。そう。クリスマスという名の聖夜を楽しむ恋人同士にしか見えないはずだ。恋人に年齢は関係無い。高校生といえど、カップルは成立するのだ。
僕は、あらぬことを考えたせいか急に緊張してきてしまった。そして、自分の鈍さにもほどがあると自分を哀れんだのだった。




