簿記2級
僕らはお昼を食べたあと、2階の先生の部屋の横の部屋に集まった。僕は、先生の部屋に向かういながらお昼に食べたしらす丼のことを思い浮かべた。しらすというものは正直好きではない。しかし、なぜかここで食べるしらす丼はとても美味しかった。なぜだろう。あのつぶらな瞳すら美味しそうに見えた。僕も大人になったのだろうか。
「遅かったな」
先生の泊まっている横の部屋は、例によって少々広い物置だった。僕らの勉強スペースは物置が最適なのかもしれない。
物置から引っ張り出してきたであろう足は短いが、広い机と書けるのか心配なほどはげかかってるホワイトボード(マジックは先生が買ってきたようだった)。そして少々カビ臭い匂い。しかし、先生が持参してきた蚊取り線香のにおいでカビ臭いのは軽減されていた。
「とりあえず、その机の前に座ってくれ。プリントを人数分置いておいたから、プリントの前に座るようにしてくれ」
先生の言う通り、僕らは机の前に座った。
「では、少々簿記検定2級について説明しよう。まず、2級から科目が分かれる。商業簿記と工業簿記だ。商業簿記は3級の内容がグレードアップしただけで、特段やることは変わらない。仕訳を意味を理解しながら毎日解く。仕訳の集計をしっかりやる。集計したものを適切な項目で回答する。それだけだ。問題は工業簿記」
確かに、工業簿記という単語は初耳だった。そもそも簿記に種類があるのだと驚いた。
「たしかあれは、部活の初日だった気がするが、会計の機能みたいなことをみんなで話し合ってもらったことがあったろう。それが多分役に立つはずだ。」
僕は、部活初日のことを思い浮かべてみた。だいぶ埃かぶっていた部室を掃除して、綺麗にしたところでみんなで話あったのだ。そして、会計は「報告機能」というのがメインな働きをしてくるのだと。いやいや、やはり初めて学ぶことがある場合は埃の部屋じゃないとねッ!と今にも先生がいいそうで僕は怖かった。
「そう。会計は報告機能を有しているという結論で終わったはずだ。しかし、そこから一歩進んで、報告のタイプにも2種類ある。それは外部報告と内部報告だ」
鮎川はとても頷いていた。何回も「なるほどなるほど」と言っていた。
「別に、君たちが習っていた簿記は、外部だ内部だと限定したものでないということはお伝えしておこう。しかし、工業簿記は基本的には内部報告に特化している。経営管理目的の簿記ということだ。例えば、製品一個あたりの原価を計算、というのが一番わかりやすいかもしれないな」
橋本が「なんかおもしろそー」と言った。確かに、意味のわからない社長の引出金なる仕訳を覚えるよりも楽しそうだ(簿記3級に出てくる謎の仕訳である。簡単に言うとレジのお金を社長が私的利用した時の仕訳だったような気がする。)
「2級くらいになってくるとようやく簿記が実務的になってくる。その分、机上の勉強じゃなくて、動いて覚える必要があるというわけだ。そのために、今回は勉強と並行してこの旅館で働いてもらう」
先生は先生なりに僕らを教育する方法を考えているようだった。
「では、2級の攻略法だが・・・商業簿記は、3級と同じで平気だ。工業簿記はとにかく、図を描け。イメージを描くことによって、正答率が上がるものだと思っていい。とにかく、作図が上手い奴が点数が高いと思え。あと、作業を思い浮かべられる人間。」
こうして、僕らの2級の挑戦ははじまった。
しかし、思う。アルバイトは何をするんだろうか。食器洗い……では済みそうにないな。




