JKと始める夏休み
──その後。
メイの手作り絶品チーズインハンバーグに舌鼓を打っているときの食卓で、俺はその事実を思い出した。
「あーそうか。だからメイ、今日は制服じゃなかったんだな」
「そそ」と肯定の返事をするメイ。
――〝夏休み〟だ。
それは学生にとって一番はっちゃけられる時期だろう。三年にもなるとそうはいかないだろうが、メイのような高一にとっては最高の自由時間に違いない。
メイは金髪を軽く払い、肩を出した涼しげなフリルのトップスを掴んで見下ろしながら言う。
「んー、それともやっぱ制服の方がよかった? おにーさんてそういうフェチ? うわぁだから前からあたしのことジロジロ見てたんだ? はぁ~しょーがないなぁ。だったらたまに着てきてあげるから元気だしなってば」
「別に落ち込んでねぇし勝手に制服フェチにすんなや!!」
「アハハ冗談だってばー! でも夏休み中も学校いくことあるしさ、そんときは制服で来たげるからお楽しみにー♪」
「だから別に楽しみにもしねぇよ」
キャピキャピはしゃぐメイの方が一段と楽しそうに見えるのは、やはり夏休み初期特有のハイテンションというところだろうか。私服姿だとますますキラキラなギャル感増すなこいつは。
彼女は「ぷはー」と麦茶を一杯飲み干してから言う。
「それでねおにーさんっ、夏休みだし、来れるときは朝から来ちゃってもいい?」
「いや朝からうちきてどうすんだよ」
「家いてもヒマだしさー、涼しいうちに宿題を教えてもらおうと思いまして候!」
凜々しい顔を作って仰々しい語尾をつけるメイ。侍JKかお前は。
「そういうことか。まぁいいけどな。メイにはいつもメシ作ってもらってるし候」
「ホントー!? やったありがとおにーさんっ! 朝と昼もごはん用意したげるから、ギブアンドテイクってことで、ね♪」
「どう考えてもそっちの負担がでかくてギブとテイクが釣り合ってない気がするが、メイがいいなら俺は構わんぞ。てかメイもいろいろ忙しいんじゃねぇの? ほら、塾行ったりとか友達と遊び行ったりとか、家族で出掛けたりしないのかよ」
「そういう予定ももちあるよー。勉学に青春、JKはいつだって忙しいの! なのにそんないそがしー中でもおにーさんのとこに通いつめる優しくてカワイイ愛嬌満点なメイちゃんを崇め奉るよーに!」
「感謝奉り候」
「アハハハハ! おにーさんやっぱ意外とノリいーよね!」
ケラケラと笑うメイ。こいつのことだから友達も多いだろうし、きっと良い夏休みを過ごせるだろうな。ひょっとしたら、気になる男子と遊びにいったりなんてするのかもしれない。
……つーか、そういう相手もいるんじゃないのか?
「なぁメイ。勉学も大事だろうけど、青春を優先してもいいと思うぞ」
「は? ナニソレどゆこと?」
「高一の夏休みを楽しめってこった。あとこっちきてもいいけど、最近は単発のバイトとかあっから、来るときはサプライズじゃなくて事前に連絡してくれ」
「りょ! どっかイイお仕事先見つかるといーんだけどね~?」
「まぁ辞めたばっかですぐ再就職ってのもな。バイトからやりたいことが見つかるかもしれないし、いい機会だと思って焦らず探すさ。どうせ今の俺に失うものなんてねぇしな!」
「そうそうその調子! 開き直っていったれ~ってね! ――んふふっ」
「な、なんだよ?」
「んーん。前向きでいいじゃんって思って。エライエライ♪」
テーブルの向こうから身を乗り出してきたメイは、その手で俺の頭をよしよしと撫でた。
なんだか普段からかわれているときとは別の恥ずかしさがあったが、メイが嬉しそうなので邪険にすることもしない。
既になんとなくわかっているが、面倒見の良いヤツだろうからこういうことも普通に出来てしまうんだろう。だからって年上の男にするかとは思うが。
妙に気恥ずかしくなった俺はさっさと話を変える。
「あ、あーそういやメイ。例の一発で落ちた親父さんは大丈夫なのか?」
「んー? パパならいつもどーりウザいメッセージすっごい送ってくるけど、とりまおにーさんとこ来るのはヘーキみたい。夏休みだし、ママが説得してくれてるからかな。ま、でもいずれおにーさんのことチェックするから覚悟してろみたいなこと言ってたけどね」
「マジかよ。そのときはさすがにニセ彼氏だってバレるぞ」
「そのときはそのときじゃん?」
「ずいぶん楽観的だなぁ」
「それ若者の特権~! それよりさぁ、今週中にお掃除しちゃおーね?」
「うわマジすか」
「マジマジ。どうせ仕事が忙しくて~とかおやすみはダラダラして~みたいな理由で片付けしてなかったんしょ?」
図星をつかれて「うっ」となる俺。誤魔化すようにハンバーグとごはんをパクついたらメイはおかしそうに笑った。
「お部屋の乱れは心の乱れってね♪ おばーちゃんも言ってました。それこそ“いい機会”なんだからさ、お部屋スッキリ心もスッキリ、的な! そっちの方が運気上がりそうな気ぃするじゃん?」
「言わんとすることはわからんでもないし、面倒でサボってたのも事実だからなぁ……はぁ。しゃーねーな。んじゃやるかぁ」
そうしてとうとう重い腰を上げた俺に、メイは「エライエラーイ!」とまた頭を撫でてくる。
「やめろやめろハズイ! ってかその体勢だと胸元見えるんだって! 前も言ったろ!」
「ぷぷっ慌てちゃってカワイー♪ お掃除ちゃんと頑張ったらぁ、そっちの方もスッキリさせてあげよっか~?」
などと言ってトップスを掴み、ニヤニヤしながら胸元をチラッと開けて見せつけようとするメイ。
だがしかし、鋼の心を持つ俺系男子は呼吸を整え冷静に返した!
「そういうお前こそ──顔、赤いぞ」
「へっ?」
すると、本当にぐんぐんと紅潮していくメイ。すぐに胸元を隠してしまった。
俺は大いに笑って言う。
「ははは! ウソウソ! 急に指摘されて照れちまったんだろ? ギャルったって所詮はただの高校生だよなぁカワイイもんだぜ」
「む、むぅぅ~……っ! ドーテーのくせに生意気なっ! ホントは見せてもらって嬉しかったくせに! どうせあそこおっきくしてるんでしょスケベ!」
「どわぁ!? やめろ近づくな! 確認しようとすんな離れろ!」
「うるさいうるさい! からかっていいのはあたしの方なんだからおにーさんは素直にからかわれろー!」
「むちゃくちゃ言ってんじゃねーよアホか!」
なんてドタバタな夕食をとった俺たち。くだらんやりとりのせいで思いきり汗をかいてしまった。
ああ、そういやエアコン問題もあったしな。メイが来るならさすがに真夏に汗だくで勉強させられねぇしな……余裕あるうちに新しいエアコン買っとくかぁ。




