サプライズメイちゃん
合い鍵を渡した後も、メイは毎日のように放課後になるとうちに寄って晩メシを作ってくれ、あれこれだべり、アイスを食べ、時にはシャワーを浴びたり好きなドラマを見たりと、もはや我が家のようにくつろいで帰っていく。
そんな日々が俺にとってもメイにとっても当たり前のようになって、気付けばメイと出会ってから二週間ほどが経っていた。
――7月下旬。
ある夏の月曜日。一日家を空けて暗くなった頃にアパートへ帰ってくると――
「夜でもあっちぃなぁ……ん?」
俺の部屋。朝出るときには間違いなく鍵を掛けたはずの部屋から光が漏れている。それに、開いた小窓からなにやら美味そうな匂いが漂ってきていた。
ドアノブを掴むと、やはり鍵は掛かっていない。俺が閉め忘れていたという可能性はもはやない。
ゆっくり扉を開いてみれば――
「――あ、おにーさんおっかえり~♪」
すぐそこのキッチンで料理をしていたエプロン姿のメイが、笑顔で俺を出迎えてくれた。ジューと肉が焼ける音に一瞬で腹が反応する。
「ただいま、ってやっぱメイ来てたのか。何も連絡なかったよな?」
「んふふー。せっかく合い鍵もらったしサプライズー的な? おにーさんがバイト帰りにお腹空かせてるかと思って。それとも何か食べてきちゃった?」
「いや何も。正直ちょっと期待してたっていうか、最近はこのパターンを考えて外食とかしてねぇんだよな」
「えっマジ? 期待させちゃってた? そんじゃ~責任とらないとねっ♪ お腹ぺこりんこでおけ?」
「おけ。めちゃぺこりん」
「アハハハ素直! んじゃもうすぐ出来るから手洗いうがいして待ってて…………あーっ!!」
とメイがいきなり大声を上げるもんだから、靴を脱ぎながら「うおっ!?」とビビる俺。
「きゅ、急になんだよ?」
ちょっとバクバクしてきた心臓を抑えて尋ねる。
するとメイはなんだかがっかりしたように「はぁ~~~~~」と大きなため息をついてから、両腕をキュッと胸元に寄せて可愛らしく首を傾けながら上目遣いのポーズをとると――
「ごはんにする? お風呂にする? それとも……あ・た・し?」
キランと効果音がついたりエフェクトで星かハートマークでも飛びそうなウィンクをしてきた。
「……は?」
俺が遅れて反応すると、メイはすぐにまたがっかりモードな表情に戻る。
「っていうヤツあるじゃん? サプライズついでに今日おにーさんにそれやってさぁ、顔真っ赤にして慌てるとこ見たかったのに忘れてたーって思ってー! ほらもーやっぱ遅かったじゃーん! あーあフツーに出迎えちゃったよーなにしてんのあたしー」
またため息をつくメイに、一拍を置いてツッコむ俺。
「いやアホか! 普通でいいって! てかどこからそんな情報得てんのさすがに古くね!?」
「ママが男の人はそういうベタなの好きだって言うからさー。パパはそれで一発で落ちちゃったらしいし、じゃあおにーさんも? みたいな?」
「母親直伝のスーパー身近な情報だった! てかメイの母親清楚っぽかったのにそういうタイプなん!? そもそも俺に試そうとすな!」
「まーでも本気でやるとあたしもハズいし? てかおにーさんちお風呂ないし? それであたしを選ばれても困っちゃうし? っておにーさんドーテーだからそれはないか~!」
「うるせぇ! さっさとメシ作ってください!」
「アハハハ丁寧な亭主関白とか笑うんだけど!」
結局そんな感じでいつもの空気感になる俺たちであった。




