王都ファーレット
馬車の旅は順調に進んだ。
時折魔物は出たが、周りの甲冑を着た騎士達が瞬く間に殲滅していた。
その動きは一糸乱れぬもので、日頃から訓練しているんだろうなぁと感じさせるものだった。
そして二週間後、無事王都ファーレットへと着いた。時刻は昼過ぎだ。
外から見たファーレットは二十メートルはあろうかと言う高い壁で囲まれていた。
その壁のところまで行き、ずらーと並んだ検問の列の横を通り過ぎ横の入り口から悠々と街の中に入った。
なんか悪いね。
街は活気に溢れていて五歳の時の鑑定の儀を思い出す。
あの時は祭りが開催されていてこれほどの活気だったが、この街は今は平時だ。
それでこの活気とはさすが王都と言ったところか。
馬車は進み貴族街へと入ったようだった。道は綺麗に舗装されており、両脇にある店などは品がある。
というか硝子が使われてる!?
俺の目は前世のようなショーウィンドウに目がいっていた。
そんな技術があったとは。驚きである。
他にも自動扉があったりと文明がかなり発達しているようだ。
俺が街並みに驚いていると馬車は住宅街へと入っていた。
そして、その界隈で一際大きく豪華な館の前で馬車が止まった。
馬車の扉が開けられる。
「到着致しました。どうぞ中へ」
ルロードが相変わらず丁寧な所作で手を館に指し示す。
俺たちは馬車から降り、館の中に入る。
すると中には通路の両脇にメイドが二十人ほど並んでおり、一斉に頭を下げた。
その光景に怯んでいるとルロードが先を促してくる。
俺は多少萎縮しながらメイドの通路の中を進む。
先の階段の前に以前手紙を持ってきた執事が立っていた。
「お久しぶりです。今回は王都へ滞在中のお世話を取り仕切らせて頂きます。どうぞよろしくお願い致します」
胸に手を当てお辞儀をしてくる。
確かステファンだったか。
俺は恐縮していた体を動かしお辞儀した。
「こちらこそよろしくお願いします。それにしても凄い待遇ですね……」
俺が引き攣った笑みで言うと、ステファンがそれとは対照的な柔和な笑みで答える。
「ネロ様は国賓ですので。これくらいは当然です」
「そっそうですか……」
これは息苦しくなりそうだ……
部屋に案内され、一息つく。
ふー解放された。
先ほど部屋に入るとメイドが一人付き従ってきた。
えっ入ってくるの!? と思い尋ねると、お世話をする為にお側に控えるとのこと。
俺はそれは大丈夫ですと固辞し、用があれば呼ぶということで話がついた。
部屋は三十畳はありそうな広さで、ソファやベット、机、その他調度品に至るまで全てが高級そうだった。
ちなみに師匠とミルフィとは部屋は別だ。
久しぶりに一人で寝れるというのは良い点だったかもしれない。
いや、三人で寝るのが嫌ってわけじゃないよ。でもほら、やっぱり一人で寝たい時もあるじゃん。そんな感じ。
見た目からして柔らかそうなベットにダイブする。
うーん、フカフカ。
気持ちええ〜。
登城と晩餐会は明後日だ。
つまり、明日はフリー。
街の散策と行きたいところがある。
明日は楽しませてもらおう。
そう考えてるうちに俺は旅の疲れもあり、いつの間にか眠りについていたのだった。
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夜、ご飯だとメイドが起こしにきた。
俺は眠たい目を擦りメイドの後をついて行く。
部屋に入ると長いテーブルに師匠とミルフィがすでに座っており、その目の前には豪華な食事が用意されていた。
俺がミルフィの横に座るとすぐさま食事が運ばれてきた。
ちなみに師匠は対面に座っている。
ミルフィが目の前の食事に今にも飛びつきそうな勢いで目をキラキラさせている。
「ネロ、ネロ。もう食べていいの?」
ミルフィが小声で聞いてきた。
「ちょっと待ってね。ステファンさんもう食べていいんですか?」
俺は部屋の隅に控えていたステファンに尋ねた。
「はい、お好きなタイミングでどうぞ」
ステファンが笑顔で答える。
「いいって。食べよっか」
そう言うとミルフィはがっつくように食事に齧りついた。
そして、顔を盛大に綻ばせる。
師匠も食事を口に運び嬉しそうな顔をしている。
「ネロ! これすっごく美味しいよ!」
「うむ、上手い。ネロも早く食べるといい」
ミルフィと師匠が促してくる。
「うん、わかった」
俺は目の前の骨のついた肉をフォークで切り分け一口。
!?
うっ美味い! 舌の上でとろける。また、肉にかけられたソースも濃厚で舌を喜ばせる。
これは前世でも味わったことのないレベルだ。
凄いな国賓。ここだけは感謝だ。
その後、パンに手を伸ばし食べるとこれもふわふわで美味い。
この世界に来てからは硬い黒パンしか食べていなかったので、感動した。
付け合わせのサラダも美味かった。このソースなんだろうな。食べたことない味だが美味い。
目の前の料理を食べ終えると、デザートが運ばれてきた。
それはショートケーキだった。
食べてみると甘さ控えめだが生地にも味付けがしてあるのか、しっかりとした味わいだった。
控えめに言って美味かった。
これも前世のデザートに引けをとらない。
満腹になり至福の表情で食後の紅茶を飲む。
そしてなんと! ここには風呂があった!普段は濡れたタオルで体を拭くだけなので、これは嬉しかった。
久しぶりの風呂を満喫し部屋でゆっくりする。
うむ、貴族とはこういう暮らしをしているのか。
全くけしからんな。
俺はそんな感想を抱きながら自室へと戻り、明日への期待に胸を膨らませながら満足げな顔で眠りについたのだった。
翌朝、早々に支度を済ませ街へ繰り出す。
当然、師匠とミルフィも一緒だ。
まずは俺達が寝泊まりしている恐らく貴族街の店を外から眺め楽しむ。
中に入る勇気はない。だって高そうなんだもん。武不相応に見られるじゃん。
それから、庶民が集う市場のようなところへ。様々な露店が立ち並び魚や果物、肉などが売っている。
活気があって見てるだけで楽しくなってくる。
その後、屋台が立ち並ぶところへ足を踏み入れる。焼きとうもろこしに唐揚げ、ポテトフライなど前世で見たことのあるものから、何の肉か分からないものの串、魚が入った緑色のスープなど異世界ならではのものもあった。
俺はなんの肉か分からない串を買ってみた。食べると少し硬いが野生味のある味で美味かった。
ミルフィは焼きとうもろこしを食べ、師匠はポテトフライを食べていた。
二人とも満足そうだった。
特にミルフィなんかは初めてのこういうところとあってか先ほどからテンションが鰻登りだ。
何か見つけると俺の名前を呼んで、見て見てとはしゃいでいる。
さて、腹を少し満たしてしまったがもう昼時だ。
行きたかったところへ行こうと思う。
平民街の一角にその飲食店はあった。
こじんまりしているが、それなりに繁盛しているようだ。
中に入りテーブルにつく。
メニューを見てオーダーする。
俺は魚を揚げた料理、師匠がパスタ、ミルフィがハンバーグだ。
しばらくして料理が運ばれてくる。
どれも美味そうだ。
俺は魚料理を口に運ぶ。
味はシャケに近いかな。美味い。
他の二人も美味しそうに食べている。
「ネロここに来たのは……」
師匠が俺に話しかけてくる。
「はい、お察しの通りです。すいませーん!」
俺は店員さんを呼んだ。
「はい、なんでしょう?」
「ここにミリアという子が働いていませんか?」
「あっはい、働いてますけど、お知り合いですか?」
「はい、家族なんです。よければ少し会いたいんですが……」
「あっそうなんですね! わかりました、呼んできますね!」
店員さんが小走りで厨房の方へ駆けていく。少しして、厨房から前掛けをしたミリアが出てきた。以前より大人っぽくなっていて懐かしさと共に時の流れを感じた。
「ネロ! それにカガミさん!」
ミリアが俺達を見るや、ぱぁと花が咲くような笑顔で近寄ってきた。
「久しぶりミリア」
「久しぶりだな」
俺と師匠が声をかける。
「こんなところまで来てくれるなんて嬉しい! 何で王都に?」
「ちょっと野暮用でね。今は冒険者をしてるんだ」
俺がミリアの問いに答える。
「そうなんだ! ネロ、なんだか逞しくなった?」
「そう? あんまり変わらないと思うけど」
「ううん、変わった。凄くカッコよくなったよ」
ミリアは笑いながらそう言った。
「そうかな、ミリアも大人っぽくなって綺麗になったよ」
「そう? ありがとっ」
ミリアがまた笑みを作った。
それから俺達は料理の感想などを話した。美味しいと言うとミリアが嬉しそうにしていた。
ミルフィも当然紹介した。
ミルフィは少し緊張しながらも、よろしくお願いしますと言って握手していた。
「いつまで王都にいるの?」
ひとしきり話し料理も片付いたところで、ミリアが問いかけてきた。
「明後日の朝には帰るかな。カサンドラでそろそろ用事が舞い込んでくるかもしれないから」
そう、もうそろそろドミニクが言っていた三ヶ月が経つ。
S級冒険者になることの説明を受ける為にカサンドラには戻らないといけない。
「それじゃ明日は空いてるの!?」
ミリアが嬉しそうに声を弾ませる。
「いや、明日は俺は一日用事があるんだ」
「そ、そう……」
見るからにミリアが落ち込んでしまった。
そこで俺はすかさずフォローを入れる。
「しっ師匠とミルフィは空いてるよ!」
「本当ですか?」
ミリアが師匠に問いかける。
「ああ、空いているよ。私でよければ付き合おう」
「やったー! よろしくお願いしますね! ネロはまたの機会に。絶対だからね!」
ミリアが俺に顔を寄せてくる。
「うん、必ず」
そうして指切りをした。
店を出て、今度は武器防具を見に行った。王都には店として構えているところから、テントで販売しているところなどがあった。
まずはテントで販売しているところを物色する。
武器防具以外にも様々な魔道具が置いてあった。
その中に綺麗な装飾のされた防御力を上げる指輪があったので師匠とミルフィにプレゼントした。
二人は大変喜んでくれた。
師匠が将来女泣かせになるんじゃないぞと冗談混じりに言ってきた。
俺は、そんな風にはならないと言って笑い飛ばした。
……ホントにならないよ?
それから店として構えてるところを見て回る。
その中で良さげな刀があったので自分用に買った。
と言ってもそんな高価なものではない。
俺の力だとすぐ壊れてしまうし、今は成長期だ。すぐに刀が体の大きさに合わなくなる。
良いものを買っても勿体無いだけだろう。
これは、予備みたいなものだ。
ミルフィと師匠は防具を買っていた。
そして、買い物をひとしきり終え帰路へとつく。
館に入るとすれ違ったメイドが頭を下げてくる。これ慣れないなーと思って部屋へ行きゆっくりしてると飯になった。
昨日と変わらず美味い料理を平らげ風呂へと入る。
そして、フカフカのベットへ。
なんて心地良いんだ。
でも、明日は城へ行かないといけない。
気を引き締めていこう。
そう思いながら目を閉じている間に、俺はいつの間にか眠りについていたのだった。




