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0と1の世界でブラックシープ共は夢に溺れる  作者: 西順
第一章 異分子の台頭

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何でこんな事に

「何でこんな事に……」


 ここエイトシティの冒険者ギルドから行けるFランクダンジョンは2つある。1つは初心者向けのスライムダンジョンで、もう1つが、武器や魔法、スキルを実戦形式で試せる闘技場だ。


 闘技場自体はどのランクにもあるのだが、ウィンザードたちがミリー嬢との話に割り込んできた為に、ギルドのランクアップが行えず、今回はFランクダンジョンの闘技場を使う事となったのだ。


 闘技場にはモンスターが出現しない為、出入りの為に敵を倒さなければとか、死ななければと言った出入りの制限がない。だからだろう。闘技場の戦闘エリアを囲う観客席に、それなりの数の冒険者が観戦している。


「何でこんな事に……」


 もう1度呟く僕の眼前、15メートル程先には、ウィンザードが立っていた。僕と闘う為に。


 何故こんな事になったかと言えば、ウィンザードたち蒼炎の翼は、昨日のうちにCランクダンジョン内の隠しダンジョンに挑戦したそうだが、途中で詰んで死に戻ったらしい。それで僕がチート? と言う卑怯な手段でこのダンジョンを攻略したのだろうと、ケチを付けにきたのだ。エイトシティ上位のAランクパーティなのに、暇なのかな?


 そんな初めて聞いた手段で、攻略なんて出来る訳ない。なので僕は否定した。ミリー嬢も否定した。ギルドとしても、そう言う行為はオーブで判定出来るそうだ。それでもウィンザードたちは喚き散らした。その五月蝿さにクロリスがキレて、光の矢を撃ちまくったら大人しくなったけど。


 すると今度はクロリスのお陰でダンジョンを攻略した。と判断したウィンザードたちが、それは卑怯だ。クロリスをこちらへ渡せ。ゼフュロス(おまえ)は俺の言う事を聞く為に存在しているんだろうが。といちゃもんを付けてきた。これには僕もイラッとした。


 クロリスが仲間なのが卑怯だと言うのに、自分たちがクロリスを仲間に引き入れるのは卑怯じゃないのか? そもそもクロリスは僕の道具じゃないんだ。僕の一存でウィンザードたちに譲渡なんて出来ない。クロリスの力を借りたいなら、クロリス個人と交渉してくれ。と説明した。


 これに口角を上げたウィンザードたちはクロリスに、僕といるよりも、自分たち蒼炎の翼といる方が有益だ。と説いた。自分たちがこのエイトシティのトップだと喧伝し、Fランクで死ぬような僕といるのは、損をしている。とクロリスを説得した。が、クロリスからはにべもなく断られた。


「あなたたちの1人でも、私の種族名とレベルを当てられたなら、1度だけ手を貸してあげても良いわよ」


 それでも食い下がるウィンザードたちに、このようにクロリスは譲歩の姿勢を見せたが、クロリスの種族名もレベルも、ウィンザードたち蒼炎の翼の誰も、いや、この冒険者ギルドにいる冒険者の誰もが当てられなかったのだ。


 これはクロリスが自パーティに『隠蔽』のスキルを使っているからであり、しかしクロリスの『隠蔽』よりもレベルが高い『看破』や『鑑定』のスキルを持っていれば、誰でも見抜ける道理だった。しかし誰も見抜けなかったと言う事は、この冒険者ギルドで、クロリスが一番レベルが高い事の証明だった。まあ、最先端レベルのユニークモンスターだから当然だけど。


 これにも「NPCなんかに忖度するなよ!」とか、「プレイヤーが楽しめる環境作りをするのが、お前らの仕事だろ!」と訳の分からない妄言を喚くウィンザードたちは、僕には半狂乱じみていて怖かった。


 そんなウィンザードたちを収めたのは、またもクロリスだった。クロリスは、何をトチ狂ったのか、ウィンザードが僕に勝てれば、『怨霊蠱毒の壺』で入手したアンデッド特攻の武器を、ウィンザードたち蒼炎の翼全員に配ると言い出したのだ。これにはウィンザードたちよりも、周囲の冒険者たちの方が沸き立った。そりゃあ、52万Mもする武器なら、誰だって欲しくなるだろう。それが耳に入ったウィンザードたちは、そのクロリスからの申し出を受け入れたのだった。僕の了承なしに。


 ✕ ✕ ✕ ✕ ✕


「じゃあ、試合は1本勝負で良いな。回復系、バフデバフ系のアイテムの使用禁止、決着は死亡か、どちらかが負けを宣言した場合のみだ。どちらが勝っても負けても、恨みっこなしだぞ」


【剣聖】のウィンザードは、自身の得物である、蒼白い剣身に魔術文字の描かれたブロードソードをこちらへ突き付け、そう宣言した。


「言ったわね。これだけの証言者がいるのだから、もう覆す事は出来ないわよ?」


 それで何でクロリスが、「言質取った!」って顔しているのかなあ? ……はあ、もう良いや。僕は腰に巻き付いているグレイを握り、剣モードへと変形させる。


「ほう? それがあのダンジョンを攻略するのに有用な剣か?」


 蛇腹剣なんて珍しいからだろう。獲物を狙う肉食獣の如く、ウィンザードの眼光が鋭くなった。


「まあ、似たようなもの? あ! グレイはあげないよ! 仲間だからね!」


「はっ! 剣と妖精さんが仲間ってか? いよいよ頭おかしくなったな」


 このウィンザードの発言に同意するように、下卑た笑いが観客席から起こる。


「大丈夫……そうね」


「残念ながら、嘲笑は聞き慣れているからね」


 少し心配してくれたクロリスに、自嘲気味な笑顔を向ける。


「なら良いわ。さあ、始めましょうか」


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