職業選択の自由
「すみません、お待たせしました」
「別に待っていないわよ。ゼフの相手だけしている訳じゃないのよ?」
『怨霊破壊の剣Lv1』を換金した後、他の冒険者からじろじろ見られながら、僕はミリー嬢の待つ受付カウンターまで戻ってきた。
「じゃあ、基礎レベルから、標準レベルへの変更の手続きね。ギルドカードをオーブに翳して」
ここでもオーブだ。ギルドカードも色々出来るけど、オーブも大概だよなあ。これらの仕組みや素材などはシャムール様が生み出したらしいので、やはりシャムール様凄い。などと思いながらカードを翳す。
「はい。入金と個人レベルの変更は終わったわ」
早い。何と言うか、感慨に耽る時間もなかったな。
「それで、他はどうするの?」
「他?」
「これだけ貢献度があれば、ギルドランクを上げられるし、職業はどうするの? 【冒険者】カンストでしょう? 【冒険者】は返上して、他のギルドに加入する?」
ああ、そう言うのもあるのか。確か、冒険者は冒険者ギルドに加入しているのが絶対で、他に2つのギルドに加入出来るんだっけ? あれ?
「最終的に就ける職業って4つですよね? その場合、どうなるんですか?」
僕に質問に、「ああ」と声を漏らしてから、ミリー嬢は説明を始めた。
「個人レベルが基礎レベルだと、冒険者ギルドの他に2つ加入が出来る状態ね。それで基礎レベルを標準レベルに上げると、冒険者ギルドの他に3つに加入出来るようになるの。応用レベルだと4つね。ダンジョンに潜るには、冒険者ギルドに加入している事が絶対だけど、ダンジョンに潜らないなら、冒険者ギルドから脱退して、余分にもう1つのギルドに加入する事も可能よ」
へえ。そうなっているのか。ダンジョンに潜るには、冒険者ギルドに加入している事が必須だけど、職業を【冒険者】にしていなければいけない訳じゃないから、標準でも、戦士ギルドで【剣士】に、魔法師ギルドで【火魔法師】になったりして、ダンジョンに潜る者も少なくない。
「最先端レベルだとどうなるんですか?」
僕の質問に、ミリー嬢は眉をひそめ、こっちを手招きする。それに釣られて顔を近付けると、
「最先端レベルに関して、公では口にしないようにね」
と耳をくすぐるような声で窘められてしまった。
「それと、最先端レベルになるにはユニーク職業に就く必要があるわ。ユニークだから、自分だけのギルドを立ち上げる必要があるの。これが5つ目のギルドね」
とひそひそ声で説明してくれた。つまり、最終的には冒険者ギルド以外に5つ、冒険者ギルドを脱退すれば、6つのギルドに加入出来るのか。まあ、ギルドによっては、選択出来る職業が、1つじゃなく幾つもある場合もあるから、5つ6つのギルドを全部埋める事になるかはその人次第だけど。
「それで? どうする?」
元の姿勢に戻ったミリー嬢が尋ねてくる。
「ギルドランクも上げますし、確か、冒険者ギルドでなれる職業って、他にもありましたよね?」
「ええ。【冒険者】の次の【探究者】ね。その上に【探検家】と言う職業もあるわよ。他にも特殊職があるわね」
そんな職業もあるのか。まあでも、
「【探究者】になります」
僕が決めていた事を口にすると、驚くミリー嬢。クロリスやグレイからも、何で? って顔を向けられた。
「別に、冒険者ギルドでダンジョンを攻略するに当たって、【冒険者】系統の職業に就いていないといけない義務はないのよ? 冒険者ギルドに所属している必要があるだけで、職業は【剣士】でも【戦士】でも【魔法師】でも【治癒師】でも、それこそ【テイマー】でも良いのよ?」
「それは知っています。でも僕は、冒険者として頑張っていく。と決めているので」
これにクロリスとグレイは納得したが、ミリー嬢は何とも言えない複雑な表情をしている。
「【テイマー】になれば、クロリス殿やグレイ殿の能力を引き上げる事が可能になるのよ?」
そう言う事ね。
「いえ、クロリスもグレイも、『従魔』と言うよりも、『仲魔』と言った感じなので、【テイマー】になってふたりを扱うと言うのは、不遜かなって」
「ふう〜ん。分かったわ。あなたの人生だもの。あなたの好きにしなさい」
僕の言葉に納得してくれたらしいミリー嬢が、オーブを操作して、僕を【探究者】にしてくれた。こっちも1万M掛かった。
「これで、ゼフは今日から標準レベルの【探究者】よ」
ステータスウインドウの職業欄が、【冒険者】から【探究者】に変わっているのを見て、思わずニマニマしてしまう。いやあ、【冒険者】系統とはいえ、やっと僕も別の職業に就いてしまった。しかも【探究者】のレベルは50だ。これは【探究者】が【冒険者】の上位互換だからだろう。しかもジョブチェンジに伴い、新たなスキルまで獲得している。
『マッピングLv1』:歩き回るだけで、ステータスウインドウに地図が生成されていく。生成される地図は視界に依る。
『多段加速Lv1』:歩数によって加速していくスキル。歩数はLv依存。Lv1は3歩加速する。1歩毎に1.1倍、1.2倍、1.3倍と加速していく。
『強制停止』:行動を強引に止めるスキル。STR依存なので、STRが低いと、止まれずに身体が流れる。
『食いしばりLv1』:HPを超える攻撃を受けた時、1日に1回だけHP1で生き残る事が出来る。LUK依存なので、本当に生き残れるかは運。
いやあ、一気に4つもかあ。流石は【冒険者】の上位互換である【探究者】だ。それに『お荷物』と『空回り』のextも外れている。う〜んまだステータスが下がるのか? ここに更にあと2つ職業に就けるから、総合レベルは上がるとしても、先々を考えると不安で少しだけ気持ちが重くなる。
「先に言っておくけど、標準レベルでレベルを上げられる職業は、主職業と兼業だけで、副職業は上げられないから注意してね。副職業の職業レベルを上げようと思ったら、主職業か兼業のどちらかと変更する必要があるからね」
とミリー嬢からの諸注意。
「そうなんですか?」
それは知らなかった。
「ええ。職業を変更出来るのは、所属しているギルドか、ジョブクリスタルと言う使い捨てのアイテムだけだから、そこにも注意してね」
へえ。これは本当に注意だな。ジョブクリスタルなんて持っていないし、あと2つは、ダンジョン攻略系の戦闘職と、ダンジョン外でも有用な生産職にして、冒険者ギルドで切り替えながらダンジョン攻略していくのが良いかな。
などと考えていると、周囲が一層ざわついてきた。何だろう? と見回すと、ギルドの入り口にウィンザードたち蒼炎の翼が現れたところだった。そんな蒼炎の翼は、僕を見付けると、今にもイライラが爆発しそうな顔を見せながらこちらへ向かって歩いてくる。




