第12話_伐採します
リリのあまりに圧倒的な説得により彼女を仲間に迎え入れることになった。
とは言っても最初から全てを共有するようなことはなく、様子を見ながら徐々にということでとりあえずは落ち着いている。
シュウたちは魔王との遭遇という予想外にも程があるトラブルに見舞われたがこの森へやって来た目的を果たすことにした。
神樹の伐採である。
ちなみに森に入ってからモンスターを見かけなかったのは予想通り、リリが鳴き声が鬱陶しいという単純な理由で到着早々全力の威圧を放ったため本能的に気配に敏感なモンスターは隠れてしまったらしい。
おかげで森の奥へはスムーズに進むことが出来ている。
「そういえばリリは最初この森のどの辺から入ったの?」
「真ん中」
「真ん中?」
「空から見たら大きな木が沢山あったから降りてみた。それがこの奥」
「あぁ、リリも飛べるんだ」
「・・・?あなたも?」
「まぁね」
どうやらリリもシュウ同様飛行魔法が使えるらしい。
原理まで同じかは不明であるが。
と、話を聞いていたティアナが会話に参加してきた。
「仮に森の中心で威嚇を放ったとしても周囲の森も含めて影響があるなんて凄いんですね」
「そうでもない。多分シュウ君でも出来る」
「出来ないことはないけど多分やらないだろうね」
「何故?」
「そんな範囲でやったら無駄が多いじゃないか。適切な範囲内にのみ向けたほうが効率的だしね」
「・・・むぅ」
ティアナによって褒められて少し伸びた鼻がシュウによって叩き折られる。
だがシュウの言っていることは事実であり、下手な威圧は余計なトラブルを引き起こしかねないのだ。
シュウの指摘通りなのでリリも反論はないようである。
「俺達と一緒に行動したいのなら魔力の使い方も覚えてもらうからね」
「わかった」
まさか魔族と行動を共にすることになるとは思わなかったので今後色々と考えなきゃな、と考えつつもシュウたちは森の奥へと進んでいくのであった。
◇◆◇
「大きい・・・」
ティアナが思わず、といった様子で呟いた。
その目線は水平方向ではなく遥か上空を見上げている。
呟いたのはティアナだけだったが他のメンバーも目線は同じ方向に向いていた。
正確に言えばリリ以外の全員が、である。
リリは森の真ん中に降り立ったということを言っていたので恐らくこの場所は既に見た後だったのだろう。
その景色は幻想的でありながらシュウ達を圧倒している。
「凄いな・・・」
「こんなの見たことないっすよ・・・」
「これは予想外じゃのう・・・」
「大きいですぅ」
全員が見上げているのは別に空に何か浮かんでいるからではない。
一行はリリと出会った場所から更に森の奥へ進んでいた。
相変わらず凛とした空気を漂わせる森であったがモンスターも出てこないのでトラブルもなく順調に進むことができていた。
歩きながらリリに対して自分たちと一緒に行動するに当たり様々な注意点を挙げていたのだが、以外にもリリは一切文句を言わず受け入れていたのでこちらもトラブルにはなっていない。
変化が現れたのは森を進み始めて少し経った時であった。
勿論それまでも森のなかだったのであたり一面木々が生い茂りどこを見ても視線の中に木が入っていたのだ。
しかし空も見えないほどの密度で木が生えてはいなかったのである程度視線を上に向ければ木が見えない状態になる。
それが今までとは違い木々の密度が上がったのである。
別に木の生えている面積あたりの本数が増えたわけではない。
いや、むしろある程度減っている可能性すらある。
普通であれば密度が減るような状況で増えた理由は単純で一本一本の木の太さが尋常ではなく太くなっているのだ。
それまではシュウ1人で抱き込むようにすれば多少余裕を持って手を回すことが出来るような木しか無かった。
それが恐らく5人ほど必要になるくらいまで太くなった上に、太さが増えた分高さも伸びており、少なくとも5倍以上になっている。
その高さに対してシュウたちは驚いていたのだ。
ダンから言われたことが確かであればこれが『神樹』なのだろう。
「これを採って帰るのか・・・。確かに普通だったら尋常じゃない労力が必要だろうね」
シュウの言っていることは当たっており、普通であればモンスターが跋扈するこの森を超えて来て更にこの木を伐採、運搬するとなれば必要な人員が多くなり神樹の希少価値をより高いものにしているのだろう。
これをシュウたち自身が持っていくことで『飛行艇』の製造費が大幅に抑えられるという話も納得できる。
普通に見ることが出来る木で杉など大きく育ちやすいもので平均20メートルくらいだとすれば『神樹』は100メートルに届きそうなのだ。
地球にもそのサイズの木はそれなりの数存在するのだがシュウは見たことがない。
何故ならばそんなサイズの木は森の奥深くに一本だけ生えている、程度のものでありこの森のように見渡す限り一面が同じ高さを誇るなどありえないのだ。
「ちょっとここで待っててね」
シュウは気になることがあったので仲間たちに断りを入れると飛行魔法で空に飛び上がった。
いくら木の高さが普通では無いと言ってもシュウの魔法にかかれば到達出来ない高さではないため楽々木の高さを超えて見晴らしのいいところまで上昇できた。
そこから改めて周りを見渡すとシュウ達が最初に入った森、リリと戦った森が変わったという実感を得られた付近からの森、そして木の高さが伸びたこの辺りの森を観察する。
しかし最初の森と空気に変化があった森では一切違いを見受けられなかった。
別に木の種類が変わっったわけではなく、体感する空気が変わっただけなので当然であろう。
そして今いた場所の森である。
これは木々の高さがいきなり変わったため境界線がはっきりと分かる。
しかしこのはっきりと分かる、というのが問題なのである。
というのも森の奥に進むに連れ徐々に木の高さが変わってくるというのであれば環境の変化による成長状態の変化ということで説明が付けられるのだが、本当に突然高さが変わるのである。
そのため上空から見るとその部分だけ緑の台のようになっており異様さが際立っている。
「ね、気になるでしょ?」
「リリか」
シュウが考察しているといつの間にかリリがシュウの隣に浮かんでいた。
彼女もシュウと同じように空をとぶことができ、上空から見てこの森が気になって降り立ったそうなのだがシュウでも同じことをしたであろう。
「一見するとサイズが違うから別種の木に見えるけど同じ木の高さが変わってるだけに見えるよね」
「そういえばそう」
「同じ種類の木で生えている場所で大きさがここまで変わるってありえるのか?」
「でもこれが現実」
考えてもシュウは元々ただの男子高校生だったので樹木に対して造詣が深いわけもない。
しかし仮に地球上の植物学に精通していたとしても異世界であるこのヒースの樹木にその知識が当てはまるかと言われれば怪しいのだが。
「考えててもしょうが無いしサンプルを少し採って帰ろうか」
「うん」
そのまま考えていて無駄に時間を消費するよりまずは目的である『飛行艇』用の神樹を1本伐採し、ついでに何かに使うかもしれないので更に1本、比較用に外周にある森の木もそれぞれ1本ずつ伐採して帰ることにした。
日本であれば勝手に木を伐採したりすれば問題になるのだがこの世界では人の手が入らない場所が数多く存在し、この森もその1つであるため所有権の問題は最初から存在していない。
更に1本くらいずつ周囲で伐採しても自然環境に悪影響を及ぼすこともないだろう。
さしあたってやることが決まったためリリと一緒に地上に降りる。
仲間たちはシュウが上空に上がった場所からあまり動かず周囲の木を見上げていた。
「皆おまたせ」
「おまた」
「おかえりなさい。気になることというのは解決しましたか?」
「いや、ここで考えててもしょうが無いからとりあえずサンプル用のも採って帰ろうと思う」
「分かりました。では早速切りましょうか」
「魔法でサクッとやっちゃうから皆は少し離れててね」
「了解っす!」
シュウは刀を抜くと仲間に離れるように指示を出す。
ただ斬りつけるだけでは刀という大きさ・形状から考えて一刀両断というのは難しそうなので『風刃』を使って一発で切り倒すつもりなのだ。
仲間が離れたのを確認したあと腰だめに刀を構え魔力を練り上げる。
充分な魔力を刀に込め、振りぬくと同時に風魔法として撃ちだすのが『風刃』である。
その威力はまさしく飛ぶ斬撃というに相応しく、込めた魔力に比例して撃ちだす刃の大きさと飛距離が増していく。
切れ味はそれほど変化しないため今回込める魔力は木の太さを切り抜ける程度の量である。
何度も使っている魔法なので必要な魔力の量は体感的に把握しているため今更間違えるようなシュウではない。
充分だと思ったところで魔力の充填を止め魔法として撃ち出せるように準備する。
準備が完了したため刀を構えたところから横薙ぎに振りぬき『風刃』を放った。
放たれた魔法は目の前の木程度の太さであれば充分切り倒せるだけの威力を持って進んで行く。
そして木の表面に着弾しそのまま太いだけの木など余裕で切り抜ける、と全員が思ったところで予想外の事態が発生した。
ギィィン
まるで巨大な金属の塊を鉄パイプで殴ったような鈍い音を響かせつつ表皮ですら傷つけることなく『風刃』が消滅したのである。
「は?」
あまりの事態にさすがのシュウも呆気にとられ固まってしまう。
それは他の仲間達も同じで、シュウの魔法がまさか太くて大きいだけで周囲の木と同じだと思っていた物に一切の傷も付けられないとは思っていなかったらしい。
伐採作業は一筋縄ではいかないようである。
タイトル「伐採します」
伐採できるとは言っていません




