第09話_少女の事情です
「主殿よ、説明してもらえるかの?」
早速攻撃開始の号令を出したカエデから質問が飛んできた。
彼女は未だ戦闘態勢を解いておらず、いつでも攻撃を再開出来るように警戒していた。
「むぅ・・・」
それに対して少女も警戒心を露わにしており多少ギスギスした空気が漂っている。
「ほら、2人とも。いい加減警戒を解いて、さ」
「しかし攻撃を仕掛けてきたのはそっちからだろうに。我らに非があるとでも?」
「武器を出したのはそっちが先・・・」
「・・・はぁ」
シュウが何とか宥めようとするが2人は一向に話を聞いてくれない。
一方ティアナたちはそんな様子を見てやや毒気を抜かれてしまったようだ。
今はこの話の流れがどこに向かうのか観察することにしたようである。
「彼女の言うとおり武器を出したのはこっちが先だったんだ。そこは素直に認めようよ」
「それはいきなり森の奥から出てきた者を警戒するなという方が無理じゃろうが」
「うーん、それはそうなんだけど・・・」
「それに主殿に攻撃を、それもはっきりとダメージがあるものをしてきたのじゃ。これはもう反撃されても文句は言えんじゃろう」
内心カエデの言い分の正しさも分かっているためどうしようかとシュウが困っていると意外なところから助け舟が出された。
「あー!分かったっすよ!!」
「フィア?何が分かったの?」
3人のやり取りを少し離れたところから見ていたフィアがいきなり大きな声を上げた。
突然の大声に全員が反応し、代表として一番フィアの近くにいたティアナが聞く。
「フィアさん、一体何が分かったのですか?」
「カエデちゃんが意地になってる訳っすよ!」
カエデがピクリと反応を示す。
「意地、ですか?」
「そうっす!いつものカエデちゃんならもっと冷静に状況を観察してると思うっす。でも今回は頑なにあの子への追求をしているじゃないっすか」
ピクピクと反応を続ける。
「それがどうしたのですか?言っている事自体は間違っていないと思うのですが?」
「それっすよ。いつもならカエデちゃんは見ている側でうちかティアナさんが追求してるじゃないっすか」
「・・・あ」
ティアナもいつもとの違いに気づいたようである。
今回は自分の言いたいことを的確にカエデが言い表してくれているため自分は一歩引いたところから見ることが出来ているのだ。
確かにいつもとは違う。
カエデは最早プルプルと震えている。
「ではカエデさんが意地になっている原因とは?」
「さっきカエデちゃん自身が言ってたじゃないっすか。シュウさんにダメージのある攻撃をあの子がした。つまりシュウさんにも危険があるってことっす。つまりカエデちゃんはシュウさんのことを思って「もうやめるのじゃーーー!!!」」
最後まで言わせまいと前方にいたはずのカエデが文字通りフィアへ向かって飛んで行く。
カエデの飛びかかりをモロに受けたフィアはゲフゥッと女の子が出してはいけない声を出しつつ地面へと押し倒され、手で口を塞がれる。
自身の心情を的確に暴露されかけたカエデは珍しく赤面しつつ必死でフィアの口を塞いでいるが無常にも彼女の頑張りは無に帰すことになる。
「あぁ、わかりましたぁ。つまりカエデさんはシュウさんのことが心配で心配で堪らなかったんですねぇ」
「あぁぁぁ・・・」
リエルによって紡がれた言葉はカエデの心境そのものであり、それを当事者であるシュウに知られてしまったため羞恥により崩れ落ちるほかなかった。
そしてそのシュウであるが何とも居た堪れない、恥ずかしいような嬉しいような気持ちになっておりどうすれば良いのか分からなくなっている。
こうなると一番困るのは少女である。
自分が追求を受けていたと思ったら突然内輪の話にシフトし、それが何とも甘酸っぱいような空気すら醸し出しているとなれば自分はどうしていいのか分からなくなってしまったのだ。
別に少女のことを気遣ったわけではないが、このままズルズルと脱線していても仕方ないためカエデの言葉をフィアが引き継いだ。
「それで、です。何故シュウは戦闘は終わりだと?」
「ん?あぁ、うん。それはね、この子からは敵意を感じないんだ。それに多分この子まともに戦った経験がないよ」
シュウにより発せられた事実は少し離れたところでじゃれあっていたフィアとカエデすらも動きを止めるには充分すぎる衝撃を持っていた。
なにしろシュウ以外ではまともに攻撃を当てることすら出来なかった相手が戦闘経験に乏しいと言われれば首を傾げて当然だろう。
しかし、そうでしょ?とシュウが視線を向けた少女が肯定するように頷いているのであればそれは紛れもない事実なのだろう。
「どうしてシュウはそう思ったのですか?」
「んー、だってあれだけの魔力を纏えるのにフィアの攻撃についていくことが出来なかったじゃないか。というか全員の攻撃にほとんど反応できていなかったし。それに俺に対する攻撃だってただまっすぐ体当たりしただけだったし」
指摘されてティアナは少女との戦闘を最初から思い返してみた。
カエデの魔拳に始まり自分の魔法、フィアの連撃にリエルの一撃・・・そのどれに対しても防御らしい防御はとっていない。
結果として『障壁に阻まれた』のであり『意図的に防御した』のとは違う。
もし圧倒的な防御力を持つ障壁に防御を任せ自身は攻撃する形の戦闘スタイルだったとしてもこちらの攻撃の合間に一切の反撃の予兆すら見せないのはおかしいだろう。
そうなるとシュウの意見が信憑性を帯びてくる。
「では何故最初に手を出してきたのでしょうか?」
「それは彼女が言うとおりこっちが武器を出したから驚いんたんじゃないの?ねぇ?」
「・・・ん」
シュウの問いかけに小さい声でだが確かに答える少女。
それにしても驚いたという理由だけでこの世界にはほとんどいないレベルで魔力を操り襲ってこられたのでは溜まったものではないのだが。
しかしこれでお互いの誤解も解けたようなので更に提案を重ねてみる。
「とりあえずこっちもそれなりの被害を受けたし、さっきの手刀で幕引きにしたいんだけど・・・」
「・・・むぅ」
少女は自分も悪いことは分かっているようだが、この提案にはどうやらすぐには頷けないらしい。
「・・・じゃあどうすれば納得してくれる?」
「・・・あなた」
「え?」
「あなた、強い」
「えーと・・・うん?」
「あたしの魔力を散らした。あたしに攻撃した」
「攻撃、というかチョップ?」
「ちょっぷ?」
「あ、こっちの話」
「・・・あなたは多分あたしより強い。だから・・・」
「うん?」
「あたしと一緒にいて?」
空気が、凍った。
少女の説明回になる予定だったのですが・・・カエデが思ったよりヒロインしてました。




