第08話_強者です
『神樹』の生えている森の入口で緊張感が高まりつつある。
第三者が見れば十代半ばの少女を複数の同年代の男女が囲んでいるため何か事件の前触れなのかと勘ぐられそうだが事実はまるっきり逆である。
何故なら向き合う2組の表情を見比べれば強張っているのが数的に有利なはずの男女であり、少女の方は余裕がある、というか感情をあまり露わにしていない。
そしてこの場で唯一の男であるシュウは内心この場をどう切り抜けるか悩んでいた。
(どうする?このままでは被害が大きくなる・・・。かと言ってこのまま切り抜けるにも相手が悪そうだし・・・)
はっきりと言えばお互い無傷で切り抜けることを考えている。
というのも目の前の少女の攻撃力は正直脅威でしかない。
だがどうにも悪意や害意というものが感じられないのだ。
あくまで情況証拠でしかないが目の前の少女が魔族らしいのだが、どうにも以前に会った魔族とは受ける印象が違う。
なんというか、子供っぽさが全面に出ているような気がするのだ。
なので何とか可能な限り穏便に収めたいと思っている。
そんなことをこの状況で考えてしまっていた。この油断が一切できない状況で、である。
「ッ!」
考えている内容が内容なのでほんの少しだけ表面に態度となって出てしまった結果、先手を許してしまう。
少女が爆発的な勢いで地面を蹴り、一瞬でシュウに肉薄する。
仮にこれがティアナたちだった場合、反応ができるのは辛うじてフィアとカエデくらいであり、恐らくそのフィアたちも無事では済まないだろう勢いがある。
だが幸いにして対象がシュウだったためギリギリではあったが対応できた。
最初の一撃の時とは違い、シュウは魔力を高濃度で体に纏わせている状態であるため防御の面でも格段に性能が上がっており、更に身体能力も強化されているので受け流すように動いてダメージを最小限に抑える。
しかし、そういった動きが出来たにもかかわらずシュウはダメージを負う。
軽微なものとはいえ今の状況を考えると流石に無視できない。
身体的には万全と言っていい状態だった。
なのに攻撃が防御を貫通してきた。
つまりこの少女の攻撃力は少なくともシュウの防御力を上回っているという事実に他ならない。
今までの相手では考えられない状況である。
だが・・・。
「シュウ!?」
「大丈夫!」
堪らずティアナが声をかけてくるがそれに答えるシュウ。
これに関しては強がりでも何でもない。
少女の攻撃がシュウの防御を抜けたのは事実だが、シュウは別に防御特化というわけでもない。
攻撃力や機動力を上げようとした副産物として今の防御力を手に入れたのだ。
そして防御を抜けたといってもダメージ自体は軽いものであり、自身の持つ回復能力で普通にカバーできる範囲であり、いざとなれば回復魔法もある。
つまりまだ致命的な状況とは言えないのだ。
勿論油断していいわけでもないが。
「今度はこっちからいくのじゃ!」
シュウが攻撃を受けたという事実からカエデが宣言とともに動き出す。
メンバーの中で唯一魔法ではない遠距離攻撃法を得意とする彼女は自らの拳に魔力を纏わせ一気に振りぬく。
そしてその結果発生した拳圧はカエデのもとを離れ、彼女が狙いを定めた通り少女の方向へと飛んで行く。
飛んで行くのが純粋な拳圧であるため視認することは出来ず、初見ではまず回避も防御も難しい技である。
だが。
「なっ!?」
カエデは思わず動きを止める。
少女に間違いなく向かっていた拳圧は直撃することはなく、少女まであと少しというところでパァンという音とともに消滅したのだ。
その事実に多少驚きつつ続いてフィアが魔法を撃ちこむ。
「これならどうですかッ」
彼女の得意魔法は火属性なのだが、最近威力が上がってきており、森のなかで撃とうものなら本意ではないところで延焼してしまう可能性がある。
そのため今回使うのは風魔法だ。
風を編みこみ球状にして相手にぶつける、『風弾』と名付けた魔法である。
この魔法は相手にぶつかると編み込まれた風が開放され相手に襲いかかるという効果を持つ。
さらにフィアはカエデの『魔拳』が弾かれた物の正体をシュウが使うものと同じ魔力による障壁だと予想しており、仮に自分の魔法による一切の攻撃が通らないとしても風によって体勢を多少でも崩せれば、という考えでこの魔法を選択している。
その予想通りカエデの『魔拳』同様魔法が弾かれる。
そして編み込まれた風が開放され少女へと襲いかかった。
だが暴風と言っても過言ではない風の直撃を受けつつ少女は一切体勢を崩した様子を見せない。
その事実にティアナはまるで足から木の根でも張っているようだと歯噛みする。
一切の効果が無かったのだが風が鬱陶しいのか少女がティアナへと視線を向けた。
恐らく最初にシュウにやったのと同じ攻撃を仕掛けようとしたのだろうがそれは不発に終わる。
「やらせないっすよ!」
死角から回り込んでいたフィアが一気に肉薄し、剣を振るった。
それは一撃ではなく、一瞬のうちに三度振るわれたのだが、どれもキィンという甲高い音とともに弾かれてしまった。
だがティアナへと向けられていた意思を自分へと移すことに成功したのでフィアの攻撃は成功と言える。
自分へと向けられた攻撃の意思を持ち前のスピードで翻弄し狙いをつけさせず、隙を見つけて斬りかかる。
自分の攻撃が通らないことは百も承知であるが、フィアの狙いはそこではない。
フィアの攻撃速度が早いため数分も打ち合ったように感じるが、実際は数秒しか経っていない。
その僅かな時間で少女の元へ辿り着いた者がいる。
リエルである。
遠距離からの攻撃法も、フィアのような速度も持たない彼女はフィアの時間稼ぎのおかげで安全に少女のところまでやってこれたのだ。
そして少女との距離は彼女の間合いである。
遠距離攻撃法も速度も持ち合わせていないが、彼女にはメンバー随一のパワーが有る。
戦斧を構え、渾身の力で振りぬく。
「えーい」
気の抜けるような声とともに放たれたこの攻撃も少女へ到達する前に障壁により防がれる。
しかし圧倒的とも言えるパワーに関しては堪えきれなかったため、少女は戦闘開始から初めて自分の意志以外で動かされることになった。
今までの相手とは違いたったの数メートルだが吹き飛ばされたことに少女は空中で目を張り驚きの表情を見せる。
すぐに体勢を立て直し、着地すると即座に反撃を試みる。が、それは叶わなかった。
「皆の攻撃をまともに受けて無傷とかちょっとチート臭いよね」
聞くものが聞けば「お前が言うな!」と突っ込まれそうな言葉を発しつつシュウが少女の目の前へと現れたのだ。
シュウは思うところがあって刀を鞘に収め、素手の状態である。
だが魔力をまとっている状態には変わらず、そのまま拳を振り上げ少女へと向ける。
ついでに少女のまとっている障壁へと干渉し、その圧倒的とも言える防御力を突破し無効化しておく。
自身の防御の要が無効化されたことでその予想外の事態に少女は戦闘中という現状を考えると信じがたい行動を起こした。
ギュッと両目を閉じるという隙を生み出す行動を、である。
それを見たシュウは自分の予想が当たったこと確信し、フッと笑みを浮かべる。
握りこんだ拳をスッと少女の顔に近づけ、デコピンを放つ。
当然のように魔力を解除し、軽くである。
来ると思っていた衝撃が来ず、代わりにおでこに小さな痛みが走るのみとなった少女は「あう・・・」と小さく悲鳴を上げながらも不思議そうにシュウを見上げる。
そして全力の攻撃を撃ちこむものだと思っていた仲間たちも同じような視線をシュウへと向けている。
全員の視線を一心に受けるシュウは既に戦闘態勢を解いて宣言する。
「戦闘はお終い!君もいきなり攻撃してきたんだから、さっきのはその罰ね」
デコピンされたおでこを抑えつつ少女はやや涙目でシュウを見ていた。
少女の方も毒気を抜かれたのか既に戦闘態勢ではない。
シュウの突然の行動にティアナたちも戸惑いが隠せないでいるが一応の収束が着いたようだと一息つくのであった。
戦闘シーンはやはり苦手です。
この辺は後で手を加えるかもしれません。




