第27話_魔法解禁です
後半少しだけ不快に思われるかもしれない描写があります。
ご注意ください。
「フィア、そろそろ行くよ」
連続での攻撃を捌きながらもフィアの耳にはそんな言葉がよく聞こえてきた。
何を、などと考えている暇はない。
それまで両手を添えて行われてきたシュウの攻撃が突然片手になったことによる隙を利用して大きく回避を試みる。
何故突然シュウの攻撃が片手になったのか、それはもう片手の動きにより説明された。
「ちょ!?」
「よっ、と」
シュウの空いた左手が自分に向けられたと思った瞬間とてつもない圧力が近づいているのを感じたフィアは距離を話していたこともあり、辛うじて回避に成功した。
フィアの後方に着弾したそれは見た目こそ地味な痕跡しか残さなかったが直撃させた相手を戦闘不能にするだけの威力を持っているように見えた。
シュウが放ったのはカエデの魔拳を純粋な魔力に置き換え、更に拳を突き出さなくても掌から打ち出せるようにしたものである。
最初は『風刃』を使おうと思ったのだが、刃引きすれば切断が不可能となる刀と違って斬撃としての能力を充分に保持したそれを使うには少々危険が残る。
なのでこの場で即席で作成した非殺傷魔法『魔弾』を使用したのである。
初めて見た魔法でも対処できたフィアは流石だが、それでも驚きは隠せなかった。
「な、何すか今の!?」
「ん?『風刃』だと危ないから魔力を飛ばしてみた」
「飛ばしてみたって、そんなあっさり・・・」
ギリギリで躱せた魔法だが威力が半端ではない。
直撃を貰えばそのまま負けが決定するだろう。
会場中からもザワザワと今の魔法に端を発しているであろうざわついているのが聞こえている。
【えっと、ギルバートさん?今フィア選手の後方の地面が弾けたように見えるのですが?】
【まぁ、そのままじゃの。多分小僧が魔法を使ったのじゃろう】
【・・・】
ギルマスにあっさりと答えられた司会者は無言になってしまったがこれもしょうが無いだろう。
なにせ魔法など前日ギルマスと獣王が使ったくらいしか見ておらず、それも基本は魔法だが体術もかなりの要素を占める技だったので純粋な魔法は初めて見たからである。
厳密に言えばこれも魔法ではないのだがそれに気づく人物はここにはいないようだ。
「ここに来て初めての魔法とか・・・シュウさんひどくないっすか!?」
「躱せたんだからいいじゃないか」
会話を続けながらもシュウは2撃目の魔法を放つ。
一度見た魔法なのでフィアは最初よりは余裕を持って躱すことを出来た。
と、今度は会話をする暇など与えず連撃である。
片手から放たれているため多少は魔法と魔法の間に隙間はあるのがフィアにとっての救いである。
何故両手で撃たないかと言えば撃てないのではなく一応は武術大会という状況なので両手を武器から話すのは違うような気がしてのことである。
それでもかなりの威力を持った魔法であるためフィアは一切の気が抜けないのだが。
「おお、さすがは主殿。フィアの動きを読みながらその先に魔法を放っておる」
「でもそれを更に読んで躱しているフィアさんも凄いですね」
「うーむ。あれは呼んでいるというか反射的に反応しているだけに見えるのう」
「反射的、ですかぁ?」
「そうじゃ。目の前に魔法が来たからとっさに躱しているだけに見えるの」
「でも、シュウの魔法は目に見えないものだと思うのですが?」
「そこがフィアの凄いところじゃな。どうやっているかは知らんが魔法を察知しているらしい」
「フィアさん凄いんですねぇ」
観客席ではリエルがのんきに感想を言っているがそれを近くで聞いているアラン達にしてみれば堪ったものではない。
闘いながらかなりの速度で放たれる見えない攻撃をただの反射で連続で躱し続けるなど到底自分たちには出来ないと思っているためである。
観客席に様々な感情を抱かせつつも試合は順調?に動きを見せていくのであった。
◇◆◇
シュウは魔弾を放ちつつ時々タイミングをズラして刀での攻撃を仕掛けている。
が、フィアも既にその動きに慣れ時に躱し、時に剣で防御している。
更に隙を突いて反撃までし始めているのだから驚きである。
「よし、じゃあもっと本気を出そうか」
「・・・出来ればもうちょっと遠慮してほしいなぁ、なんて」
「じゃあいくよ~」
「聞いてくれない!?」
更に本気をだすと言ったシュウは手始めに先程までと同じ魔法を放つ。
しかしその射出速度は今までよりもかなり早かった。
これまでの速度に慣れていたフィアは多少警戒をしていたとはいえ、この速度差には面を喰らってしまった。
それでも流石というべきか辛うじてその魔法を躱しすぐにシュウからの追撃に備える。
だがそれは既に遅かった。
先程までは魔法を使ってから刀での攻撃まで僅かだが時間があったのだ。
それが今は既に刀がフィアに振り下ろされようとしている。
これにはフィアも目を見開き体が硬直してしまう。
今まさにフィアに直撃しようとしているシュウの刀だがすぐに我に返ったフィアが回避行動に移る。
ギリギリのところで致命的な直撃を避けたフィアだが、完全に回避することは出来ず、左腕に刀が当たってしまう。
刃引きしているので切断こそされないがフィアの左腕にはこの試合中にはまともに動かせそうにない痺れが生まれている。
「クッ・・・」
「さて、左腕はこれで動かせないと思うんだけど降参する?」
「ま、まだまだっす!」
シュウが降参を促すがフィアは右手に剣を構え、まだ戦闘継続の意思を見せる。
それを見てシュウは満足し、自分も刀を構える。
両手で構えているのを見るにもう魔法を使うつもりはないらしい。
さすがに魔法まで使われてはフィアもお手上げ状態になるのだが、それだけは回避できるらしいのを見て安心した。
だが状況は決して甘いものではなく、片手しか使えない状態でシュウの相手をするなど、ただ敗北する未来しか見えない。
それでも継続するのはただ負けるのは嫌だ、という意地のようなものである。
観客もそんなフィアを見て最早ここから逆転できるとは思わず、ただこんな状況になっても諦めないフィアに尊敬の眼差しを送るのみであった。
勿論ここで手を抜くシュウではなく、先ほどと同様の早さで斬りかかる。
片手が使えない上に元々腕力がそれほど強いわけでもないフィアは一撃ごとに剣を大きく弾かれつつも防御していく。
もしシュウが本当にフィアを制するつもりであれば隙の大きいフィアの動きを見逃すはずもなく即座に勝負が着くだろう。
それをしないのはシュウがフィアを嬲る目的があるとすれば自然なのだが、勿論シュウにそんなつもりはない。
シュウはこの日の朝、全員でミーティングをしていた時から考えていたことがあるのだが、それが正しいかどうか確かめるにはこの状況は絶好のチャンスと見てフィアを試しているのだ。
そんなシュウの考えが観客全員に伝わるかと言われれば否であり、一部からはシュウに対して非難的な目線が送られ始めていた。
「・・・シュウは何をしているのでしょうか?」
「フィアさんが可哀想ですぅ」
「何か狙っておるようじゃが・・・。あのままではフィアが潰れてしまうぞ・・・」
【これは・・・試合を止めたほうがいいのでしょうか?】
【まだ致命的な攻撃は出ておらんから大丈夫だと思うが・・・。いつでも試合を止める準備はしておいたほうがいいのう】
会場中がざわつき始めるのを感じながらもシュウは攻撃を止めない。
フィアも必死で防御をしている。
何度攻撃を弾いただろうか。
会場中から最早試合を止めろという空気が出てくる中異変に気づき始める者がいた。
「・・・む?」
「カエデさん、どうかしましたか?」
「いや、今のフィアの動きじゃが・・・何か変じゃなかったかの?」
「変、ですか?片腕が使えないのでは動きが変になるのはしょうが無いのでは?」
「私も特に何も感じませんでしたけどぉ・・・」
「むぅ・・・。ぬ、またじゃ」
カエデのようにフィアの動きの違和感に気づいたものはまだ少ない。
だが確実にその数は増えつつあった。
それはつまりフィアの動きが徐々に変化しているということである。
シュウの攻撃を防ぐ際にフィアの剣が弾かれる動きが少し小さく、むしろシュウの刀が逆に少し弾かれているようにも見える。
その僅かな気づいている者達はここから試合が再び動く予感がしているのであった。
フィアが大ピンチですが何やら変化が起こり始めたようです。




