拍手まとめ5
☆バスタオル
「あれ?」
仕事が終わり屋敷へ帰宅途中。
明らかに町に浮いている違和感しか持たない人物を見つけた。
その人はメイド服に身を纏っているマッチョ。
もうこれだけで遠目から見てもどこの屋敷のメイドなのか、きっと周りもわかるだろう。さもいつもの日常のように、周りの人々も二度見する事はない。
――珍しい! こんな所で出会えるなんて!
ふと斜め左手にある菓子店から、出てきた彼女を発見。
少し遠いためか、こちらに気づかないようで、
「ランさん!」
私はそんな彼女へと慌てて声をかけた。
柿茶色の肩下まである髪を片側で三つ編みにし、純白のヘッドドレスと、漆黒のワンピースを身につけている彼女こちらに気づくと微笑んだ。
「あら、奥様ぁ!」
「お菓子屋さんに用ですか?」
別にお菓子屋さんに入る事は誰しも珍しくはない。
けれども、ランさんはメープルという老舗菓子店の元有名パティシェ。
そのため、それが不思議に思えてならない。
いつも菓子類は私のおやつを含め、自分で作っているのだから――
「えぇ。ここ、弟子の店なんです。それでちょっと試食を頼まれちゃって。そうそう。お土産頂いたんですよぉ~。新作の焼き菓子セット」
そういいながらランさんが片手に持っていた紙袋を持ち上げて見せてくれた。
結構大きく中身は色々と入ってそう。
「奥様の好きなマカロンもありますわ。後で、皆で食べましょうね。そして是非感想を下さいませ。伝えておきます」
「マカロン……っ!」
旦那様が何度か買ってきて下さった事があるけど、あれはすごく美味しい!
カラフルで見た目も可愛いし、さくっとした外側に中身はしっとりとしたクリームが何とも言えない。味もいろいろなフレーバーがある。
「ふふっ。奥様ったら可愛い。どんぐりを見つけた子リスみたいですわ!」
「また人をリス扱いしてー」
「あらあら頬を膨らませて、団栗でも詰めこんでいらっしゃるのかしら?」
「ランさんっ!」
「さぁ、参りましょう。今日は旦那様がお休みですから、きっと奥様のお帰りを、首を長くして待っていますわ」
クスクスとランさんは笑うと、私を促した。
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「あれ? 何か騒がしくないですか?」
屋敷の前へと辿り着くと、どうやら外が騒がしい。
無数の野太い声が木霊している。
そのため玄関にまっすぐに行かず、私とアイリスさんは洗濯もの等を干す場所がある裏手に回った。
「貴方達、何をそんなに騒いでいるのよぉ! ご近所さんに迷惑でしょうがっ!」
「奥様! ラン! ちょうど良かったー!」
そこに居たのは、旦那様とメイドさん達と。
アイリスさん達は、旦那様を囲むようにしている。
「みなさんお揃いでどうなさったのですか?」
小首を傾げながら尋ねると、全員視線は物干しざおへ。
シーツなどの洗濯物が干されているだけで、何らいつもと変わりがない。
洗濯籠には取り込んだばかりのタオルや布巾などが入れられてあった。
「実は、奥様愛用のバスタオルが無くなったんです」
「私のですか?」
「えぇ。途中で気づいたのですが、奥様のだけ1枚バスタオルがないんです」
「酷いんですよ、ヒスイさん。アイリス達は僕を疑っているんです」
旦那様は眉を下げながらこちらに来ると、私を抱きしめた。
それには困惑気味にアイリスさん達へと視線を向ける。
何か疑うべき事でもあったのだろうか?
「ヒスイさんの事をこんなに愛しているのに、犯人だなんて。本当に心外です!」
「まぁ! 違います。念のために確認したまでですわ。奥様のだけ無くなるという事は、奥様に好意のある人物による犯行ですので」
「僕ではありません。洗濯済みを盗むだなんてあり得ません! 洗ってしまったら、ヒスイさんの匂いが消えてしまうじゃないですか。勿体ない。僕は使用済にしますよ。それで綺麗に密封して保存します!」
「……アクセラ様をお呼びして」
アイリスさんの無慈悲な声が響き渡り、みんなまるでゴミでも見るように旦那様を見た。
「どうしてそんな汚らわしいものでも見るような視線を向けてきているのですか!? 疑いを晴らそうとしたのに、何故!?」
それ、危ない。危なすぎます。旦那様……
使用済みなんて、汚れているので駄目ですよ?
いっぱいタオルがあるので、そちらを使って下さい。
「とにかく僕ではありません。それよりも犯人を捜さないと。きっとヒスイさんのタオルを使ってあんなことやこんな事を……許せませんっ!」
と、旦那様が憤っていると、そこへムーンさんがやってきた。
「いたわよ! 犯人。しかもすごく可愛いの」
「えっ!?」
それには全員驚き、みんなで顔を見合わせた。
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「本当だ。可愛いーっ」
それは庭の奥に居た。ふかふかのタオルの上にいるのは、猫だ。
しかも、子猫も五匹!
けれども、大人数で押しかけたのか、親猫が威嚇してきて、今にも飛びかかって来そうで怖い。
「ちょっとー、私達は別にとって食おうなんて考えてないわよぉ。……というか、貴方(親ねこ)怪我しているじゃないの」
「あ、本当ですね。右足に傷が……」
でも、治療するにも威嚇してこれ以上距離が詰められない。
威嚇され、そのまま引っかかれてしまいそうだ。
「猫使い~! ほら、出番よ」
「あらぁ? 私の出番?」
と、ランさんが猫の前へと出ると、「怖くはないわよぉ」と言いながら猫へと手を伸ばせば、さっきまで毛を逆なでしていたのに、少しずつ大人しくなっていく。
ランさんは猫使いだ。いつでもどこでも猫と仲良くなれるのが特技らしい。
「この子、首輪しているわねぇ……」
たしかに首元にブラウンの首輪をしている。
そして何やらタグのような物も。
もしかしたら飼い猫なのかもしれない。
「ラン。そのプレートに触れますか? 住所等記載されているなら、飼い主に連絡を取りましょう。その前に、獣医に怪我と子猫を見せなければなりませんね」
「えぇ」
そう返事をしながら、ランさんが「大丈夫よぉ」と言いながら手を伸ばせば、見事プレートへ触れる事に成功!
そしてそれを凝視すると、「わかりましたわ」と告げた。
「良かったです。飼い主の方、きっと心配していますよね」
「そうですね。犯人が可愛い猫達で良かったです」
旦那様は優しく猫を見詰めながらそう呟いたのに私も頷いた。
☆悪夢から逃れる方法
最初は何を言っているのかわからなかった。
異国の言葉のようにそれはすんなりと頭に入らず、そのまま耳を通り抜けてしまう。
せっかく目の前に可愛い妻がいるというのに、その姿さえも現実的ではなく夢の世界にいるかのように曖昧なまま定まらず。
「実は私、好きな人が出来たんです。ですから、旦那様の元にはいられなくなりました」
淡い秋桜色のワンピースを纏ったヒスイさんは、そう僕を見据えて告げた。
金糸のような髪は、いつもと違い髪を編み込んで薔薇の髪飾りでとめている。
そしてその手には、大きく膨れ上がったボストンバッグが。
――どういう事ですか?
そう尋ねたいが、まるで見えない縄に縛られているかのように動けない。その上、唇が戦慄き音を奏でてはくれないのだ。
「ヒスイ。旦那様は俺だろ? あっちは元、旦那だ」
ヒスイさんは一人ではなかった。隣には寄り添うように肩を抱いている人が。
僕と違って強い意思を持っていそうな精悍な青年。
彼は甘く彼女の耳元でそう囁くように告げれば、「そうですね。離縁するので元です。愛しているのは貴方ですし」という返事が返ってきた。二人は顔を近づけながらクスクスと笑っている。
引き離さなければ。ヒスイさんの隣にいる目障りな存在を。
僕達は永遠に一緒。それは覆されてはならない運命。
あぁ、そうか。居ないんだ。
ずっと。ずっと僕達は共に。それは変わらないから、そんな男は最初から存在すらしてはならない。
だから、この男を――
「ヒスイさん。大丈夫ですよ。そんな男、最初からいないんですから」
だから安心して下さいね。そう唇が告げる直前。僕を真っ白い光が包んだ。
「……――ん」
ゆっくりと純白の世界から、意識がクリアになっていく。瞼を開ければ、そこにはヒスイさんが寝息を立てていた。
じんわりと背中に汗をかいていて、少し気持ちが悪く、今すぐ着替えをしたいが、それよりも隣で眠っているヒスイさんが幻覚ではないのかの方が先で、そのまま手を伸ばした。
ゆっくりと滑るように撫でていく。そのふっくらとした頬を。旦那様と呼ぶ可愛い唇を。
「……夢で良かったです」
ほっと胸をなでおろすけれども、そのまま再び睡眠をなんていかない。
あの悪夢が僕を夢の世界へと向かうのを拒む。
このまま眠ってしまって、朝起きたら可愛い妻がいなかったら?
僕は起き上がると、クローゼットへと向かい箱を取り出す。
カーテンの隙間からこぼれる月明かりにより、浮かび上がる。愛するヒスイさんを繋げておくアイテム。それは金色の鎖と、赤いルビーの手枷。
前回の三点セットはヒスイさんに没収されたため、密かに新調しておいたのだ。
「これで安眠できます!」
胸をなで下ろすと、そのまま再び寝具へ。
そしてそのままそれを可愛い妻の細い手首へと繋げた。
もう片方を僕へ。
これで安心。ぐっすりと眠れるだろう。
「ヒスイさん。僕はずっと貴方の傍に――」
屈み込むとそのまま口づけを落とした。
早朝、眠りから覚めたヒスイさんに速攻たたき起こされたのは言う間でもない。
そしてこの手枷もまた没収される破目になる。




