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☆兄妹水入らずで ☆アクセラの憂鬱な発信機回収

パソコンに入っていた番外編2本つめました。

☆兄妹水入らずで

☆アクセラの憂鬱な発信機回収(アクセラ視点)

☆兄弟水入らずで

「……え? 今、なんて言いました?」

膝の上に座っている可愛い妻が発した一言に、僕は頭を石で殴られたかのような衝撃を受けた。ぐらぐらと脳みそが揺れるようなそれに、吐き気すら覚えてしまう。

彼女の腰に回している手も、末端の管から血液が回らなくなってしまっているせいか、力無くするりと落ちた。そんな様子を気にすることなく、こちらに体を向けたヒスイさんは、雪を溶かす太陽のような強い輝きを放つ笑顔で僕に微笑んでいる。


「しばらく実家に帰りたいんです」

いま一度彼女から放たれた言葉は、二度目。

僕の凹んだ心にさらに抉るように突き刺さっていく。


――別居!? 原因はなんですかっ!? 


「もしかして駄目ですか?」

見ているだけで癒されそうな表情の妻。

一見すると怒ってないように感じる。

けれども内心では僕の至らぬ所に愛想を尽かしているのかもしれない。


……心当たりがありすぎて仕方がない。


ヒスイさんの寝顔をこっそり眺めているのがバレたのか!?

もしかして、ヒスイさんが僕に隠れて牛乳を飲んでいるのを盗み見していたのがバレたのか!?

それとも――

だめだ。数えきれない程、思い当たる。


彼女の居ない生活なんて考えられない。

至らぬ点があるならば、足首にしがみついても許しを請おう。

それでも駄目でヒスイさんに捨てられるなら、どこまでも追いかけ続ける。

そして捕えよう。二度と手放さないように――


……発信機、うやむやになっていてよかったです。探しやすい。


「地の果てまでも追いかけますから」

「……え?」

先ほどとはうってかわって、訝しげな表情でこちらを見詰めているヒスイさん。

そして何か思うところがあったのか、「あっ、そっか」と呟くと僕へと手を伸ばして頬に触れてきた。小さくて柔らかい手。

所々、がさついているけれども、それは彼女が水仕事で頑張って働いている立派な証だ。


「違いますよ。だから物騒な事を考えるのは辞めて下さい。実家に帰りたいのは、別居という事ではありません。ただ、兄さんも春には結婚してしまうので、その間にちょっと独占したかったんです。アリーさんのブーケ制作の打ち合わせもしたいですし」

「そういう事ですか。僕が至らぬばかりに、愛想を尽かしてしまったと思いましたよ。安心しました。どうぞ、兄妹水入らずゆっくりして来て下さい」

「はい!」

「では、そういう事でしたら、こちらからお兄さんに何か用意致しましょう。ヒスイさんがお世話になるのですから」

「気にしないと思いますが……?」

「僕のほんのささやかな気持ちですから、気になさらないで下さい」

「ありがとうございます! アリーさんとの打ち合わせも終わらせたいので、一週間ぐらいなんですけれども構いませんか?」

「えぇ、勿論。ゆっくりとなさって下さいね」

……は?

今しがた彼女が口にした台詞と自分の返事に疑ってしまった。

いっ、一週間!?


「いいんですか? 一週間も! 本当は駄目元だったんですよ。ブーケの打ち合わせだけでなく、私が使っていた家具とか、仕事の引き継ぎとか、他にも色々と話し合って決めなきゃいけない事があったんです。良かった……そんなに時間があるなら、結構決められます。ありがとうございます。旦那様」

「いっ、いいえ」

よくぞ言葉が出たと自分を褒めてあげたかった。

泣きたい。一週間もヒスイさんと離れてしまうなんて!!


――でも、強い束縛して嫌われたくないですし。それに、お兄さんとの時間も大事ですしね。


僕も大人だ。ヒスイさんより年上だ。ちゃんとしっかりした所を見せなければ!



おまけ1

アイリス「奥様がいないと寂しいわねぇ」

ラン「本当に。なんだか、屋敷が氷で出来ているみたいだわ。あーあ、マカロン目の前にして顔を輝かせる奥様が懐かしいわ。旦那様もきっと寂しいでしょうね」

ムーン「ちょっと~。旦那様さっき城に向かったわ。今日からあちらに泊るそうよ。一人で寂しいから、気分紛らわせるためにって」

アイリス&ラン「早っ! まだ一日目なのに!?」


おまけ2


ライト「……ヒスイさんが実家に帰ってしまいました」

アクセラ「別居ですかっ!? 一体、また何をやらかしたんですか!?」

ライト「またってどういう意味ですか?」

ニクス「やっぱり、愛想つかされたんですね」

ライト「やっぱりってなんですか。違いますよ。お兄さんの結婚式の件で一週間泊りに行ったんです。二人共縁起悪い事言わないで下さい」

アクセラ「姉上の様子が気になるからって、実家の外から眺めたりしないで下さいね。あと、その兄上が所持している鞄、中身確認させて下さいね」

ライト「……」





☆アクセラの憂鬱な発信機回収


今までやんちゃだった人が結婚してから人は落ち着くという話をたまに伺うが、ライト兄上は結婚してから暴走し始めた。

まさかの檻発言、それから屋根裏への忍び込み未遂事件、姉上への発信機騒動。

はっきり言って、危ない。危険すぎる。

弟として……いや、騎士として姉上を守らねばと胸に誓っている。

あの小さくて子リスのように愛らしい存在を――


元々兄上の結婚話は寝耳に水だった。

最初は突然降って湧いたそれに対して、家族に衝撃が走ったのは言う間でもない。

しかも兄上とは五つ年下の十七歳。俺よりも一つ下。

聞けば花屋を営んでいる兄を手伝っていると。

メサイアの件以来、研究だけに力を注いでいた兄上。

そのため「是非逢わせて!」とライト兄上へと詰めかける者が続出。

その中には、王妃の姿も。

リリアン様にいたっては、感涙。


それがあまりに鬼気迫るような感じだったのか、「結婚式が終わったらヒスイさんと挨拶に伺います」とばっさり皆の好奇心を切り裂いた。

だから全員が結婚式を心待ちにしていた。

そして、念願叶ってやっと式で兄上の横に並んでいる姉上を拝見する事が出来た。

とてもお似合いだったと思う。


緊張気味だった上に、余計な輩による中傷により顔が強張っていたが、そこは年上の貫録を見せ姉上を気遣う兄上。やっとメサイアの悪夢から解放され、幸せになれるとほっと一安心。


……あの時は。


その後穏やかに過ごしているかと思えば、兄上のヤンデレ属性が覚醒。

姉上に会うために天井裏へと忍び込もうとしたり、双眼鏡で覗いていたり、発信機を付けたり……

はっきり言って、大人しくして欲しい。

結婚したら落ち着くんじゃないのか?


「あー……やっぱり、発信機と受信機回収しなくちゃなぁ。絶対ごねるよな」

兄上の屋敷の玄関前に佇みながら、嘆息を漏らした。

あのメサイアの騒動後、結構バタバタとしていて回収出来ずにいた。

そのため時間を見つけてこうして兄上の元へと訪れている。


――姉上はご在宅だろうか?


本当は不在の時に伺いたいが、発信機も受信機も同時に回収したい。

発信機は恐らく姉上が肌身離さず持っているものに隠されているだろう。

だから一応それとなく探りを入れ、回収しようと思っている。

さすがに「発信機つけられているので、調べさせて下さい」なんて言おうものならば、兄上の好感度がますます下がってしまう。


そうならないためにも、波風をたてずに頑張らなければ!

そう堅く心に誓い、玄関のドアノッカーを叩けばすぐに見知った顔の従者が現れた。

いつもなら穏やかに出迎えてくれるのだが、今日に限ってなんだか表情が芳しくない。

来訪を拒んでいるかの様。


「もしかして取り込み中だったか?」

「……えぇ。旦那様がまた暴走を」

従者の声のトーンに、俺は出直したくなった。


なんて時に来てしまったんだ!!


「本当にすまない」

「いいえ。もう慣れました。……とは、流石に言えません」

屋内へと促してくれている彼の背がどんよりとした雲のように、重く見えてしまっている。

兄上は一体また何をしたのだろうか。

少し落ち着いて欲しい。幼少期、その類い希なる頭脳で神の子と呼ばれたのに、今ではすっかり見る影もなく……

反抗期も何もなかったのに、今では家族会議。


「ええっ!?」

「旦那様っ!?」

案内された室内へと通じる扉から、姉上とメイド達の驚愕の声が響き渡り、廊下まで流れて来ている。

そのため、騎士としての職業病でノックもせずにすぐさま扉を蹴り破る勢いで開けてしまう。

そこに飛び込んできたのは、佇んでいる姉上。

その足もとには、姉上の足にしがみついている兄上の姿が。

そしてそれを引きはがそうとしている、メイド達。


――一体、この状況は?


「アクセラ様?」

きょとんとした表情を浮かべた姉上を見て我に返った。


「申し訳ございません。ノックもせずに」

「いいえ」

「それよりもこの状況は?」

「あっ……その……」

言いにくそうに口をもごもごと動かす姉上は、眉を下げたまま、足もとの兄上へと視線を落とした。

それを庇うようにラン達が一斉に口を開いた。


「ちょっと聞いて下さい、アクセラ様。奥様が旦那様に頂いたネックレスの飾りが壊れてしまっていたので修理に出したんです! そしたら発信機付いているって言われてしまったのですわ」

「全く。油断も隙もありゃしない」

「奥様ってば、そのプレゼントを凄く喜んでいたんですよ! それで旦那様が先ほど犯行を認めた後に、『僕を捨てないで下さい!』と、こうなってしまったんですわ」

「……女々しいですね、兄上。それに自業自得じゃないですか」

「わかっていますよ! でも、結果的に発信機でヒスイさんが助かったんです!」

兄上は立ち上がると、不機嫌そうにそう口にした。


「結果論ですよ、それ」

「……アクセラ、何しに来たんですか? 見ての通り、今取り込み中なんです。僕の信頼関係修復しないとならないんですよ」

声音に棘が含まれ苛立ちが読み取れる。これはもう完全に八つ当たりだ。

だが、騎士としての役目は果たさねばなるまい。


「話題のそれを回収しに」

「……」

「発信機はペンダントですか。どちらに?」

「こちらに。紫色の石が発信機だそうです」

「あぁっ!! アクセラに渡したら返って来なくなります!」

「旦那様。往生際が悪いですわ。アクセラ様。その外されている紫の石が発信機です。ずいぶん小型化しましたねぇ」

と、アイリスが差し出してくれたのは、翡翠のネックレスだった。

確かに真ん中に紫の輝く石がはめられていたらしく、ぽっかりと穴が空いている。

これじゃあ、誰も気づかない。この件がなければ、一生知らぬままだろう。


――……なんて恐ろしいんだ……兄上……。これを自然とやってのけてしまうとは。


「はい。では確かに発信機は回収致しました。さぁ、残りの受信機を」

「……」

そっと兄上へと手を差し出すが、ぴくりとも動く気配がない。

全く、往生際が悪すぎる。

研究分野では成果を上げ、世界的にも知名度があるのにこの様とは。


「兄上。いくつですか? 観念して下さい」

「嫌です。これ軍流れ品なんですよ。これを手に入れるためにどれだけ待ったと思っているんですか?」

「軍流れっ!?」

その台詞に、声を上げたのは姉上だった。

目をまん丸くして兄上を見上げている。


「兄上。大人しく渡して下さい。好感度がますます下がるじゃないですか」

「ますますって、どういう意味ですかっ!?」

がしっと腕を掴まれ、体が小刻みに揺すられてしまい視界がブレていく。

姉上の不安げな顔や、メイド達のどん引き顔も――


「兄上! いい加減に……」

と、視線を向けたら血走った眼とかち合ったので、そっと目を逸らす。

怖い。無駄に頭がいいから、暴走してまた次の策でも考えられると厄介だ。

もうこれは一人では手に負えない。やはりまた家族会議を開こうと心に決めた。




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