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半強制結婚宣言っ!~女々しき王子と花屋の少女~  作者: 歌月碧威
最終章 偽りの終わりと青薔薇が囁く始まり
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過去に決別を

ヒスイさんと別れ朽ち果てた屋敷を捜索していくと、どうやらここには地下がある事がわかった。

もし万が一部屋に隠れて僕達の隙を見て逃げたとしても、外には騎士団がぐるりと方位している。

そのため逃げるのは困難だ。


僕とアクセラの前にはぽっかりと空いた洞窟のように地下へと伸びている穴を見下ろしていた。

おそらくきっとこの先にメサイアがいることだろう。


「兄上。やはりここは俺が……」

松明を持ったアクセラに、僕は苦笑いを浮かべた。

きっと心配してくれているのだろう。元とはいえ、以前は婚約まで進んだ相手だから。

「僕の事は気にしないで下さい。アクセラではメサイアとやりあうのは難しいかと思います。きっと彼女は僕達が捕らえる事を想定していますから」

「まさか! だったら何故逃げないのですか!?」

「頭の回転が速いんですよ。彼女。太陽の出ている時間帯ならともかく、今はこの森は危険ですからね。

僕なら大丈夫です。可愛いリスの女神の祝福を受けましたから。この頬は絶対に洗いません」

「……洗って下さい」

「さぁ、参りましょう」

僕はアクセラから松明を奪う様にして取ると、そのまま階段を降りていく。

冷たく深いそこは、このまま永遠に続いているように錯覚してしまう。


何故だろう? メサイアが失踪した時の自分を思い出すのは。

あの時もあの苦しみがずっと続いていくのかと思っていた。

もう二度と人を愛する事なんてしないだろう。そう思っていた僕に、現れた小さくて可愛い妻。

彼女の存在は、この闇を照らしてくれている松明の灯火のようだ。


「無事終わったら――」

ヒスイさんの事を思い出すだけで、心が温かくなれる。

彼女が居てくれるから、僕は過去と向き合う事ができるようになった。

ずっとどこかで引きずっていた。メサイアの事を。

でも、彼女のおかげで吹っ切る事が出来たのだ。


「無事終わったら?」

「僕は仕事を辞めて、ヒスイさんと二人で人里離れた新しい屋敷に住みます。そして、ヒスイさんと似た可愛い子供達と一緒に幸せな家庭を築きます。部屋も沢山ありますし、子供部屋には困りませんからね」

「……その件に関してですが、後でゆっくり伺います。それから発信機のことも。没収ですからね」

「お断りします。あれ、軍流れ品なので滅多に手に入らないので」

「本当にどっから手に入れているんですかっ!?」

「あっ、出口が見えましたよ」

うすらぼんやりと木の板が幾つも組み合わされた扉が見えてきた。

この先で彼女は待っているだろう。


「いきますよ?」

ドアノブへと手を伸ばしそれを引けば、飛び込んで来た室内の風景。

壁に掛けられている燭台に照らされ、目的の人物の姿が闇から浮かび上がらせていた。

やはり予想されていた事なのだろう。取り乱す様子もない。


「メサイア」

一人掛けのソファに座りながら、あの頃よく見た微笑みを浮かべている。

周りには本や書類などが散らばり本棚のような物もあるので、ここは書斎かそれに近い何かだったのかもしれない。

「待ちくたびれましたわ」

「僕の一番大切なものを傷つけましたね。貴方には責任を取ってもらいます」

「あら? それは難しいわ」

淡々と語る彼女は、自分が犯した罪をわかっているのだろうか。

僕はまだ王位継承権を放棄してはいない。従って、僕と婚姻関係を結んだヒスイさんは王族に籍がある。

つまりこの事件は国家間に摩擦を起こすような咎めるべき事件だというのに。


「だって、私を裁くことは出来ない。違うかしら?」

「何を……っ! お前は自分がした事がわかっているのか!? 己の私利私欲のために姉上を危険な目に合わせたんだぞ!!」

「アクセラ、やめなさい」

今にも切りかかりそうなアクセラの腕を掴み、止めた。


「兄上は頭にこないのですか!?」

「……きていますよ」

けれども頭を冷やしておかねばならない。

こちらの不利になるような事を言ってしまったり、してしまったら逆にあちらが有利になってしまう。


「ヒスイさんは僕の命よりも大切な人を傷つけたのですからね。腸煮えくりかえっています」

「でしたら何故!?」

「協定ですよね?」

そうメサイアに告げれば、彼女の口角が上がった。


――やはりそうか。


「犯罪者受け渡し協定。国交がない国同士で起こった場所にて起こった貴族の犯罪は、自国で裁くことを許可する。この協定に調印した国にヴァン王国も入っています。それからメサイアが国籍を持つジデン小国も。元々は罪を犯した貴族を国同士の争いに利用させないよう保護するためのものです。たしかにその協定により、貴方は自国で裁かれる。この国では極刑の王族に対しての犯罪すら……」

「兄上、なんとかなりませんか!?」

「それは不可能に近いですね。悔しいですが、僕には世界を覆すほどの力はないです」

「そんな!」

「しかも厄介な事に、恐らくメサイアはジデン小国の司法院にも手を回しています。しかも、かなりの上の人物と懇意にしているのでは? だから安心している。自分の罪が軽く済むのを」

「さぁ? どうかしら? でも、確かに私の身は協定で保障されているわね」

それが正解とばかりに、クスクスと手で口元を覆いながら笑っているメサイア。

やはりいくつかのルートを考えていたらしい。

頭の回転が速く、準備が良いのは昔も今も変わらないようだ。

昔はそこが好きだったが、今は厄介でしかない。


「ですが僕もこのまま引き下がるわけには参りません。あらゆる手段を取り、貴方に罪を償わせますから」

「出来るかしら? 一度外交から逃げ出した貴方に。そんな信頼があるの?」

「――っ」

彼女が言う通りだ。

僕はメサイアの件で傷心し、一度外交の仕事を放棄している。

そんな逃げ出した男を、他国が信用するかどうか……


「貴様っ! 兄上を侮辱するのか!」

「私はただ真実を口にしただけ。違う?」

「そうですね。メサイアの言う通りです」

「兄上!」

「……でも、やります。やってみせます。大事な妻へ恐怖を味わせた人間には、きちんと罪を償って貰いますよ。出来れば伯爵のように罪を認め、償って欲しいのですが。貴方は一筋縄ではいかないようですね」

「あの人認めたの? 予想より早いわね」

「えぇ。病室で認めたそうですよ」

「病室ですって?」

メサイアは目を大きく見開き、信じられないという表情を張り付けている。

彼女のそんな姿を見るのは珍しい。いつもの取り繕う笑顔が消えていた。

蝋燭の明かりのせいだろうか。心なしか顔色も悪いような印象も受けてしまう。


「もしかして知らなかったのですか? 彼は長年患っていた病の悪化により、入院中ですよ」

「まさか。そんなはずないわ。私達と一緒に居た頃は、健康そのものだったもの」

「それは心配かけずにいただけでしょう。薬をちゃんと飲んでいたそうですよ。今回は心労がたたったのではという話です」

「そうなの? 案外使えない男だったのね」

クスクスと笑う彼女だったが、声音は弱々しくその瞳に影が見える。


やはりこれは――


『メサイアさんは、気づいてないだけで伯爵の事が好きなのかもしれません』

ヒスイさんの言葉がふと心に浮かんだ。

だとしたらきっと彼女は、自分の想いに気づいた時に激しく後悔するだろう。

愛する者を自分の欲のせいで、罪人にしてしまった己の罪の深さを。

そんな彼との間に授かった大切な子供に対して顔向け出来ない罪を犯してしまったことを。


「……ありとあらゆる手段を使って貴方に罪を償って貰います。でも、一番重い刑は司法が決めた法律ではなく、貴方自身によるものでしょうね」

「何を言っているの?」

「わからないなら、そのままで結構です。教えて差し上げる義務はありません。ただ貴方が一番罪に苦しめられる方法は、自分の本当の想いに気づいた時ということ。その時になって罪の重さと深さに気づくはずです。さぁ、そろそろおしやべりは止めましょう。連れて行って下さい」

僕は騎士に合図すると、彼らの手によりメサイアは視界から消えて行く。

抵抗する気配も無くまるでエスコートされているかのような彼女の後ろに、昔の自分の残像が浮かんでいる。生気のないあの頃のままの姿で。それも今日で解放。


「さようなら」

誰にでもなく呟いた言葉は、冷たい地下室に広がった。




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