独占欲は君が小さくて可愛いせい
アルとの遭遇後、私達は気まずいまま再びパレードを観賞。
無論、楽しめるはずがなかった。
温かい太陽を浴びているのに、何故か感じるのは寒さ。
特に旦那様側から……
そして当初の予定通り、その重苦しいさを引き連れながら予約していた店へ。
そこは王族御用達の宝石店だった。
ニイゲルは島国なため、貿易が盛んに行われている。
そのため多岐に渉り交わった文化のお蔭で、宝石の種類も加工もヴァン王国ではなかなかお目にかかれないような細工が施されているそうだ。
そのような珍しい宝石類。
それらが夜空を輝く星々のように、存在感を力強くアピールさせながらディスプレイされている。
そんな中でも特に目を引くのが、旦那様が腕を組んで視線を固定させているモノ――……「檻」だ。
その中にはウサギの縫いぐるみが。
勿論、その首輪も宝石で作られていて、キラキラ。
さすがにそれはガラスケースにではなく、特設スペースへと飾られている。
――高そう。というかそれ以前にあれでは、動物達も落ち着かないなろうなぁ。
私が考える檻って鉄製や木製というような印象だけれども、それはプラチナと様々な宝石だけで作られたものだった。もうそれは檻というより、観賞用の芸術品。
恐らく家が購入出来るぐらいの金額だろう。
それを旦那様は興味があるらしく、時折角度を変えたりして眺めていた。
――もしかしたらペットでも飼おうと思っているのだろうか?
だが、それもどうやら違ったらしい。
何故か旦那様は腕を組みながら、彼の左手にいる私と檻を交互に見比べてしまったのだ。
「え? なんですか?」
「入らないかなって……」
「無理に決まっているでしょうが!」
「ですよね……」
「当たり前です。考えるまでもありません」
と告げれば、店員さんが旦那様に有利な情報を口にしてしまう。
「そちらの商品は特注も承っております」と話かけてしまったのだ。
その時の旦那様の瞳が輝いたのは、いう間でもない。
「特注……っ! サイズは最大どれぐらいまでなら制作が可能ですか?」
「旦那様っ!」
さすがにその質問は駄目ですって。買う気満々じゃないですか!
絶対に物騒な事を考えてますね? 私は絶対に入りませんよ。
というか私が入る檻なら、金額が跳ね上がりすさまじくなりますよ!?
……まぁ、旦那様なら支払い可能だと思いますが。
「わかっていますよ……」
「本当ですか?」
「えぇ。当然です。ヒスイさんに窮屈な思いはさせれませんので」
と一応旦那様はそう言って下さったけれども、諦めてなかったらしい。
人間、目を見ればわかるというが実際そうだった。
旦那様は即座に交わっていた綺麗なエメラルドの瞳をさっと反らしてしまったのだ。
「駄目ですからね。絶対に」
それにはすかさず念を押す。
「えぇ」
「物騒な事は考えないで下さいね」
「わかってますよ」
と頷きながらも、旦那様は顔を戻して檻へと視線を向けた。
……諦めてないじゃんか。
時間も限られているため、早速選ばなければ! と、私はそんな旦那様を置いて一人店奥へ。
三か月後に行われるパーティー用の装飾品を見繕わなければならないのだ。
するとそこには何故か万年筆を初めとした文具が並んでいた。
勿論それはサファイヤなどの宝石や、貝類を研磨して使用している物ばかり。
艶のある光沢でグラデーションがかかって、綺麗だ。
「奥様、何か気に入ったものでもありましたか? 遠慮無く申し出て下さいませね。店員に出して貰いますから」
それを眺めていたら、アイリスさんが隣へとやってきた。
「いえ。これを普段使いする勇気がないです……」
こういうのは、旦那様が使っていそう。
最近は慣れたけれども、日常品も「えっ!?」って驚くような上質なものばかりだ。
――そうだ! 新婚旅行の記念に旦那様にプレゼントしよう!
そうと決まればと、私は熱のこもった眼差しで物色し始める。
「あっ、これ……」
その中でも目を引いたのは、ペン軸がエメラルドで出来ている物。
旦那様の目の色と同じだからだろうか。つい気になってしまう。
――お値段は……?
おそるおそるそのペンがディスプレイされている周辺を見るが見当たらない。
これだけ値札が無いのかと思えば、全てに名札が存在していないようだ。
庶民の私には値段も見ずに購入なんて出来ないが、ここは一見さんお断りの予約客のみ貸し切り。
もしかしたら、これが普通なのかもしれない。
「アイリスさん。これおいくらぐらいですか?」
「あら? そちらの商品になさいますか?」
「いえ、私が使用するのではなく旦那様にです。旅行の記念に」
「まぁ! 素敵ですわねぇ」
と、感嘆の声を漏らすアイリスさん。
でも、予算を告げればすぐに眉を下げて肩を竦めてしまう。それを見て、私は嘆息を一つ漏らした。
「……やっぱり、こういうのって結構しますよね」
「えぇ。おそらく奥様がお考え以上に。金具も純金ですし……」
「そうですよね」
言葉尻が弱まり、気分が下がっている時だった。ふと視線を向けた先に、とあるものを見つけたのは。
――何故だ。何故これがここにっ!?
それはリスの形をしたインクボトルだった。
体は透明なガラス製で、つぶらな瞳は赤茶色の宝石がはめ込まれていてキラリと輝いている。
両手で団栗を持ち、頬袋は勿論膨らみ済みだ。
「あら。奥様そっくり」
「また人をリス扱いして! あれ? でも……」
これなら買えるのでは? そんな事をぼんやりと思ってしまった。
しかもインクボトルなら、日常生活でも良く使用する頻度が高い。
仕事でもプライベートでもどちらでも可。
でも、形がリス……
「丁度宜しいのでは? 旦那様、リスが大好きですし」
「え? 本当ですか?」
そんな話は一度も伺った事がない。
そうだったのか、旦那様がリス好き。なんだか意外。
「えぇ。と言いますか、奥様からのプレゼントならば何でも喜びますわ」
「それなら嬉しいですけど。あの、アイリスさん。これおいくらぐらいですか?」
と尋ねれば、「少々お待ち下さい」と店員さんに尋ねてくれた。
提示された値段は、予算内。これなら購入出来る。
なんとなくちらりと旦那様の様子を窺えば、相変わらず店員さんと檻の前。
どうやら諦めてないらしい。
――うん。やっぱりこれにしよう! どうしても檻を買うならば、これを飾って貰えばいいし。
という事で私はそれを購入する事に。
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「旦那様。いい加減になさって下さい」
先ほど購入した商品が入ったラッピング袋を手に、旦那様の元へと向かい声をかけた。
するとこちらを振り返り、私の方へと視線を向けてくる。
「ヒスイさん。これ、宝石も全て選ぶ事が出来るそうなんです。サイズもこちらのオーダー通りに。ですから、やはりこれを――」
「駄目です。諦めて下さい」
私は先手を打ち、旦那様の台詞を意図的に遮る。
それもそうだ。もうこの人は購入する気でいるのだから。そんなのは阻止だ。阻止。
「そもそも旦那様。何故そんなに私を閉じ込めたいのですか?」
全ての男を魅了してしまうぐらいの美人ならば、旦那様が不安になるかもしれない。
ほら、余所の男に奪われるとか……
でも私はそういうカテゴリーには入らないような人種だし。
「決まっているじゃないですか。ヒスイさんが可愛いせいです」
「は?」
「ですから、ヒスイさんが小さくて可愛いのが原因ですよ。しかも、アルさんに『また』って言われたんですよね? 誰かに貴方を奪われるのは嫌です。触れさせたくないし、見せたくもない。僕だってまさか、監禁・軟禁願望があるなんて思いもしてませんでした」
「ちょっと待って、旦那様! 危険な単語を口にしないでっ!」
今までは若干濁した言い方だったのに!
羊みたいになごみ系だったと思っていたのに、意外と中身はハードなんですか。うちの旦那様は。
「とにかく駄目です。もう檻の話は止めましょう。見るのも禁止」
「え……」
「いいですか、そんな事をしたら犯罪です。それに怖い話を読んだ時など、旦那様のベッドに潜り込めなくなってしまうじゃないですか。そしたら一緒に眠れなくなります。安眠妨害!」
それに自由も無くなるし。
「それは困りますね……貴方と眠るのは、幸せで満ち足りた気持ちになるので。やはり今回は購入を見送りましょう」
「本当ですか?」
「えぇ、勿論。貴方は自由に動いている時こそ、生き生きしていますし」
どうやら旦那様は諦めてくれたようだ。
私の背に手を添え、ティアラなどがディスプレイされている方向へと促しその場を離れ始める。
ただ、「今回は」という発言が若干気になるが。
「それ、何を買われたのですか? 言って下されば僕が支払いを……」
と旦那様が目線で指したのは、私が手にしているラッピングが施された紙袋だ。
「これは旦那様へのプレゼントです」
そう口にし足を止めると、私はそれを旦那様へと差し出す。
すると彼は大きく瞳を瞬かせた。どうやら予想外だったらしい。
「奥様からこの度の新婚旅行の記念だそうです」
「そんな、気を遣わずとも……」
「あら? こういう時はありがとうと素直に受け取るべきですわ。旦那様」
「ですが……」
おろおろしている旦那様を見て、私は項垂れた。
やはり迷惑だったのだろうか。値段も手ごろだし……
「すみません、貴方を悲しませるつもりは……嬉しいですよ。ですが、無理をなさらないで下さいね。
一緒に旅行出来ただけで僕は楽しいのですから」
旦那様はその紙袋を受け取るとはにかんだ。
その笑顔についこちらもつられると旦那様は瞬き、「かっ……」と言葉を漏らしたかと思えば、
こちらに腕を伸ばすと私の事を抱き寄せた。
「あぁ、どうしましょう。やはり可愛すぎて閉じ込めたい。檻は諦めましたので、足枷を……」
「えっ、ちょっと旦那様。ここお店っ!?」
っていうか、だから危ない発言辞めてーっ!
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そっと扉に耳を添え、私は寝室の様子を窺っていた。
あの後パーティー用の宝石を購入。
そして観光しながらみんなへのお土産も入手し、私達はヴィラへと戻ってきた。
すぐに旦那様がプレゼントを早速開けたいと、先ほど寝室へ直行。
――……どうかな? 気に入ってくれたらいいな。
と思っていると、室内からクスクスという笑い声が響いてくる。
最初は控えめだったのに、段々とそれは大きくなっていく。
そんなウケ狙いな物なんて買ってない。ただのリスのインクボトルだ。
何故笑うのだろうか。アイリスさん、旦那様がリス好きだって言ったのに。
お笑いの要素なんて何処にもないはず。
「旦那様……?」
私はゆっくりと取っ手に手を添え、扉を押した。
すると旦那様は寝具に座っていて、目尻の涙を指で拭っている所だった。
その手中にはあのプレゼントの品が。
「インクボトルありがとうございます。リ、リスの……」
そう口にしながら段々と言葉尻を弱め、私から顔を背け肩を震わせ始めてしまう。
「どうして笑っているのですか?」
「リスに似ているヒスイさんが……これを選んだ事が……」
「また人をリス扱いして! 旦那様がリスが好きだって、アイリスさんに聞いたんです。ですから、それにしたんですよっ!」
「え? リスが好きって、僕がですか?」
「え?」
目を見開き、きょとんとしている旦那様。その様子だと違うのだろうか。
「もしかして間違った情報ですか?」
そう尋ねれば旦那様は一瞬だけ顎に手を添え、何かを考えるような仕草を取りこちらを見据えた。
「……いえ、大好きですよ。最近好きになりました。小さくて可愛くて、甘やかせて何でも望みを叶えて差し上げたくなるぐらいに。時に怒ってくるのですがそれも愛しくて。かと思えば、恐怖に震えている姿も胸を打ちます。もっと早く気づけばよかったと後悔するぐらいに」
その声音には情熱が含まれている。そのため心なしか、旦那様の頬も色づいている。
そんなに興奮するほどリスが好きだとは知らなかったなぁ……
今度アリくんが来たら、旦那様のためにリスグッズでも注文しておこうと思った。




