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間章 寝言騒動と謎の四つのキーワード前編

ライト視点です。

数日前、僕に妻が出来た。

世間的には恋愛結婚だが、実は双方メリットがある偽装結婚。

異母弟に城に呼ばれたら、そこに彼女が居て流れでそうなった。

まぁ、あれは半分ニクスの策略っぽかったけれども――


名前はヒスイさん。

城下町でお兄さんが営んでいる花屋を手伝っていて、とても良く働いている。


最初彼女の年齢を聞いた時は、正直驚いた。まさか十七歳だったとは。

元々僕達は父上の血が強いのか、背が高い。

そのためヒスイさんとは身長差がかなりある。


僕達の差は、30~35センチぐらいだろうか?

その上ヒスイさんがまだ幼い印象を受けるので、年齢より下に見えてしまったのかもしれない。


二人の関係としては、偽装結婚だけれども良好。ただし、時々怒らせてしまう時があるが……


例えばお披露目パーティー時。

僕の髪にゴミが付いているのを、ヒスイさんが取って下さると仰ったのでお願いする事に。

その時ヒスイさんはつま先立ちになりながら頑張って手を伸ばし取ろうとしたのだけれども、その様子があまりに一生懸命で可愛くて思わず口元が緩んでしまったのだ。

笑うと失礼だと思い我慢。

でもヒスイさんの「脚立……」という呟きに、つい吹き出してしまい、結局「自分で取って下さいっ!」と怒られてしまった。


――実はあの時、傍に居たイレイザ兄さんも口元を手で覆っていたんですけどね。


まだ少女の面影を残したあどけない妻。

そんな外見なのに、見ず知らずの子供ニクスを助けたり、孤児院の仕送りのために自分の髪を切ったりと、心は大きく物怖じしない性格。

初めての夜なのに、「初夜ですがどうしますか?」と聞いてくるぐらいの肝が据わっている。

でも結婚式で見せたように少し気弱な部分もあり、「こちらが守ってあげなくては!」という気にもなってしまう不思議な女性。


その妻に以前婚約までいった女性メサイア……メアの事がバレてしまったらしい。

なぜ伝聞なのかと言えば、僕が直接ヒスイさんに伺ったわけではないから。

今朝アイリス達に叩き起こされ、メアの事を問い詰められてしまった。

話を伺えば、どうやら僕の寝言でヒスイさんに漏れてしまったらしく。


そもそも寝室が別々なのに何故? と思ったけれども、アイリス達による冷たい視線を受けながら、その質問をする勇気が絶無。

そのため味のしない朝食を摂り、そのままいつもより早めに出勤し逃げ出した。


メアの事は特に隠していたわけではない。

五年も前の出来事だから改めて言う必要はないと思っただけ。

たしかにメアの事は愛していた。彼女にプロポーズするぐらいに。

彼女もそれを受け入れてくれ、これから二人で幸せな家庭を築けると思っていましたから。


――それなのに彼女は何の前触れもなく僕の前から姿を消してしまった。


王子としての執務も仕事も何もかも放棄しメアの行方を捜す日々。

それでも彼女の行方が見つからなかった。けれどもそれも数か月後に急展開を迎える事となる。

異国より届いた手紙。

メアより届いたそれにより、彼女の安否が判明。

それには、とある貴族と結婚し妊娠しているとの旨が書かれていた。


あの頃の自分を思い出したくもない。

メアにより奈落の底へ突き落とされ、ますますこの性格に拍車がかかった。

そんな事があったのに何故今更? と自分で不思議に思う。

そもそも本当に言ったのでしょうか? 愛していると。


たしかにメアの事は今でも好きですよ。嫌いで別れたわけではないから。でも、愛しているかと言われれば……――


アイリス達によるとヒスイさんは気にしてない様子だったらしいけれど、それは僕達はお互いにメリットがあっての結婚だったためだろう。

そのため、僕も気にしなくてもいい……というわけにはいかない。

なんて失礼な事をしてしまったのだろうと、気になって気になって仕事も碌に集中できず、あっという間に昼休みを迎えてしまった。


「はぁ」

と深い溜息を漏らせば、ざわめきに満ち溢れている食堂にかき消された。

どうやら反対側の席にて一緒に食事をしていた同僚に拾われてしまったようで、声をかけられてしまう。


「ライト様。どうなさったのですか? 溜息なんてついて。そう言えば朝から様子が変でしたよ?」

同僚のイオが日替わりランチに走らせていた手を止め、こちらの様子を窺った。


「あぁ、イオ。少し考え事をしていただけですよ」

「もしかして奥さんと喧嘩ですか?」

「いえ、喧嘩では……あぁ、喧嘩なのでしょうか? 少々尋ねたい事があるのですが宜しいですか?」

「えぇ、勿論」

「例えばですよ? イオが寝言で他の女性の名前をうっかり言ってしまったらどうしますか? 以前お付き合いをしていた女性の名とか」

「えっ……」

イオは顔を引き攣らせ周囲を見回し始め、その後安堵の息を吐き出した。

どうやらその様子を見る限り、イオが付き合っている女性はこの研究施設内にいる模様。

恋愛は禁止されていないが、この職場は女性が少ないので相手が絞られてくる。

そのため内密にしているのかもしれない。


「怖い。怖すぎる。そんな事があったら、俺はすぐさま平伏し、許しを乞いますよ。

まぁあの人の事だから、そんな時間生む前に物の数秒で俺を動けなくさせそうですが。

解毒剤とかあるといいな」

……イオ。貴方は一体どのような女性とお付き合いしていらっしゃるのですか?

毒物・劇物に精通している方となったら、ますます絞れてきますよ。


「そうですね。体が動く状況なら、相手の好きな物をプレゼントして機嫌取る方法しかないんじゃないですか?」

「好きなものですか?」

小首を傾げ聞き返した。


――そう言えばヒスイさんの好きな物ってなんでしょう?


お互い碌に知りもしないで結婚してしまったので、あまり彼女の事を知らない。

これは少し話をする時間も必要だ。


「大丈夫ですよ。ちゃんと奥さんの事愛しているって伝われば、きっとわかってくれますって。

しかし寝言って怖いですね……」

「えぇ、本当に」

と頷きかけると、バサバサと羽を広げて青い鳥が飛んできた。

それは僕達のテーブルへと着地すると、こちらへと歩いてきた。

その鳥の首元には白いリボンが結ばれ、折られた長方形の紙が挟まれている。


「イレイザ兄さん……?」

それは異母兄の使い魔。

鳥がさっさと取れと言わんばかりに首をぐいっと動かしたので、「すみません」とすぐに取らせて貰った。

すると鳥は役目は終わったと、すぐに羽をはばたかせ開け放たれた窓へ向け飛び立って行く。


「一体何が……?」

それを広げて見て見れば、『対照的な男』『女難』『異国』『過去に囚われる』と四つのフレーズが書き込まれていた。

そしてその下に、「今朝、母上の占いでお前が出たらしい。時期が不明な上に、占いだから未来は変わる可能性もある。だが、念のために気をつけろ。よくない配置らしいから」と、有り難いのか有り難くないのかわからない忠告が書かれていた。


「どうなさったのですか? 顔色悪いですよ?」

「いえ……」

兄上の母――フェイ様の占いって怖いほど当たるんですが。

しかもよくない配置って……

このせいで午後からの仕事が益々重くなってしまったのは言う間でもない。





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