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2-4(狂泉の神託)

 母屋の広い廊下は静まり返っていた。

 主であるマスタイニスカの世話をするために詰めている妹もいる筈だが、姿はなく、気配も感じさせない。

「失礼します、お母さま」

 扉をノックし、声をかけるが返事はない。

 フランはそっと扉を開けた。

 室内は厚いカーテンで陽の光が遮られ、暗い。

 屋敷の主であるマスタイニスカは、シェルミは、眠っている。

 起きていたとしても数時間だけで、すぐに眠りにつき、今回は眠り始めてからすでに10日は経っている。

「お母さま」

 眠るシェルミの枕元に据えた椅子に座り、フランは、柔らかな枕に頭をうずめたシェルミに話しかけた。

「ニムシェに行ってまいります。すぐに戻りますからご安心ください。

 今日は子供たちを飛竜に乗せて、北の領地まで行ってきたんですよ。子供たちもたまには外に出ないといけませんし、北の領地のことも教えておいた方が良いですから。

 ハルナには、叱られてしまいましたけどね」

 シェルミは答えない。

 笑いを収め、フランはシェルミに顔を寄せた。

「こんなにお眠りになるのは、終わりが近づいているからなのですか?」

 声を抑えて問う。

「おそらくな」

 シェルミのではない声にフランが顔を上げると、友人がシェルミのベッドの反対側に立ち、シェルミの顔を覗き込んでいた。

 女にしては肩幅が随分と広い。

 背中に落とした藍色の長い髪は足元まで届き、豊かな胸は大きくはだけられている。ふたつの大きな瞳は青く透き通り、風に揺れる水面のように静かに波打っている。

 人ではない。

 薄く女の身体が透けている。

 旧大陸の南方に拡がる広大な森を支配する泉の神、狂泉である。

「久しぶりね、狂泉。どうしたの?」

「母上のお顔を見たかったのと、お前に話しておくことがあってな」

「何かしら」

『完璧な世界』のことか、とフランは思った。だが、違った。

「真っ暗な、壁のような未来が見える」

「そう」

「まだ遠い。だが、近づいている」

 フランが微笑む。

「姫姉さまにお会いできるのが楽しみだわ」

「娘たちに気をつけよ」

「え?」

 言葉の意味を問おうとシェルミから視線を外し、フランが顔を上げると、友人の姿は既になく、誰かがそこにいたことが嘘のような暗がりだけが重く漂っていた。

 フランが苦笑する。

「相変わらず勿体ぶるわね。神々は」

 そうではないことを知りながらベッドの上に片手をつき、眠るシェルミの額に軽く口づけて、「行って参ります。シェルミ様」と、フランは優しく囁いた。

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