帰省の前に
「ジル、あのね……」
「どうしたの? アリー。もしかして、帰省のこと?」
ジルに殿下との話を切り出せないまま1週間が過ぎて、気づけば冬休みの1日前になっていた。
「うん。そうなんだけど……」
「大丈夫だよ。クレイトン伯爵は帰ってきて大丈夫だと言っているんだ。何でも伯爵夫人であるミシェル夫人を連れて、湯治に行くと言っていたよ」
「ええと――私は一度、グロース帝国へ帰るけど、その後はテドラ国へ行きたいわ」
「……え?」
「だから、ジルも一緒に行かない?」
「待って、アリー。話が見えないよ。どういうこと?」
私はアーサー殿下が冬休みにトリウス先生の面会へ行くという話を聞いて、一緒に行ってみたいと言ったら、ジルと一緒にテドラ国に招待されたという話をした。
「待って。それ外交問題に発展してるんじゃ……。父上に許可を取らないといけないし――ああ、殿下には何て言えばいいんだ?」
「行くで、いいんじゃないかしら?」
「殿下……」
廊下で話をしていたら、殿下がいつの間にか後ろで話を聞いていたらしく、ジルへそう言っていた。
「大丈夫。公にはしないから、ただの学友として遊びに来て。もちろん、許可が出てからで構わないから」
「分かりました」
「楽しみにしているから――待ってるよ」
殿下は嬉しそうに微笑むと、スキップでもしそうな足取りで去っていった。後ろに控えていたイーリスさんが一歩前へ出て私達へ敬礼した。
「初めてできた友達で、殿下は浮かれているのです。お許しください」
「初めての友達?! まじか……」
「はい。護衛はわたくし共で、しっかりと致しますので、ご安心ください」
「ありがとうございます」
「それでは失礼いたします」
イーリスさんは殿下の後を追いかけて行った。ジルは私を見ると肩をすくめていた。
「初めての友達だって」
「よかったじゃないの。隣国での初めての友達がジルで……」
「俺だけじゃない、アリーもだよ」
「ええ、知ってるわ」
私達は顔を見合わせると、笑いあったのだった。
1巻-完-




