39
「え?鎌…?」
「鎌……」
アキとノアが思わず声を出した。
恐らく草を刈る農具の方ではなく、死神が持つアレをイメージしたのであろう。
今、ハルが抱きしめているのは、刃が両側にある戦闘用の大きな鎌だった。
「うん。鎌!」
ハルは薄ら笑っている。
「外側も切れるの。どっちを振っても切れるし、ちょっと魔力流せば色んな属性にできるの!最高じゃん!」
そう言って、まずは手元に火の魔力を流しこむ。
すると、みるみるうちに鎌は炎に包まれ燃え盛る。
使っているのは初級魔法すら発動しないレベルの細やかな魔力。
超低燃費なのである。
「自分の魔法じゃ怪我しないからね」
その目は揺れる炎を写しだし、怪しく光る。
ノアは苦笑いしつつ、ちょっと引いた。
「……ハル、それ絶対人に向けないでね」
「ちゃんとサイズ確認して距離とるようにな……」
お父さんからの注意も飛んだ。
「わかってるよー」といいながら、鎌をくるりと回してみせるた。
燃え盛る鎌を抱きしめ笑う、死神よりもヤバそうな恐怖の絵面となった。
その動きだけで周囲に緊張が走る。
次はヒスイだね。と言わんばかりに魔石を差し出す。
「ちょ……ハル、熱い。火消して……」
燃え移りそうになって慌てた。
「なぁエリックさん。家族として見てくれるのは有り難いけど、俺は拾ってもらった時から成人済みだし、ノアの従者なだけだぜ。教えてもいいのか?」
「そうだなぁ……ノアに忠誠を誓っているんだろう?裏切る真似はしないだろうしな」
「まぁね。忠誠の刻印は左腕と一緒に吹っ飛んだけど……ただの目印だしな。なんなら、また刻印しとくか?」
ノアの方をチラリと見る。
「別にいいよ。特に変わらないだろ」
「……そうだな」
頭を掻きながらも、ちょっと嬉しそうだ。
ヒスイはハルから差し出された魔石を受け取ると、慎重に魔力を通し始める。
魔石が緑色に光り、一瞬、ビュワッッと強い風が吹上がり、風がヒスイの手元に集まる。
「おっと」
咄嗟に手を引っ込め、地面に突き刺さったのは刃が銀色のよくある普通の剣だ。
「うん、俺にはこれで十分だな」
魔石をエリックさんに返し、剣を引く抜く。
柄を軽く握って感触を確かめる。
「……とても普通だね。安心感があるよ」
アキが一言。
「なんだか地味だな。生成時に大したエフェクトも無いじゃないか」
ノアが腕組みしながら言い放つ。
「……まぁ…。そりゃぁ……ね」
「いや……二人の見てたらこのくらいがちょうどいいよ」
お父さんがフォローにまわった。
「気分が高揚している時ほど怪我しやすいし、判断を誤って死にやすい。いつもの森行って魔物退治でもして練習してくるといい」
ーー
家の窓から5人の様子を眺める団長と副団長。
「いいなぁぁーー。俺も欲しかったなぁーー」
羨ましそうに目を細める副団長。
「まぁ仕方ないさ。なんなら実家の蔵でも漁れば何か出てくるかもよ?俺ん家は蔵もないけどな。結構歴史あるはずなんだけどなぁ」
呆れたように団長が言う。
「うちも無ぇんだわ。西エリア行けば運良ければあるかな?」
「まぁーあっちは建国時からアマツシアだしな。運良ければ、だな」
「窓にいると冷えるでしょう。お茶どうぞー。明日戻られるのなら、風邪引いたら困るでしょう」
ユウカさんが淹れて持ってきてくれた。
「あ、すみません」
「申し訳ない」




