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ひととま  作者: 珈琲
第二章
219/223

7-11

午後、ユキはクライン達、ルカの元々の護衛四人をしばき倒した。


ついでに書類の束や備品を持ち、暇そうに通り過ぎる第三王子従者兼護衛のストロフにも声をかけて、しばいた。


木剣が無造作に、地面に散らばっている。


「ユキ……今日は、手加減が……無いな……」

地面に這いつくばるように倒れているクラインが言った。


「……たまたまですよ」

ユキは倒れたクラインに、剣先を向けながら言った。


「いえ……今日は……なんだか殺気が凄い気がします。

……どうかしたんですか?」

護衛のミレイも、息を切らしながら地面に横たわっている。


「少し、運動不足なだけです。多分……」

ユキは淡々と言った。


「ははは、クライン殿。これなら……ルカ様もご安心できましょう……。

いつも、ローラン様が大変羨ま……」

地面に両手をついているストロフが言いかけた所で、ユキはストロフの眼前に木剣を地面に突き刺した。


「……もう一戦、やりますか?」

ユキは顔を近づけ、目を細める。


「申し訳ございません。……帰らせて下さい」

ストロフは、すぐに謝罪をした。


地面に置いた備品や書類を手に持つと、土も払わず足を引き摺り、訓練場を出て行った。



ーーー



ヒスイは午後、遅めにローランの執務室へ向かった。

昨夜は飲み過ぎた。


ローランは一人、黙々と書類に目を通している。


「あ、ヒスイ。丁度よかった。こういう書類はどうしたらいい?

ストロフは持ってくるばかりで、聞いても分からないんだ……」

ローランは少し俯く。顔には疲れの色が滲む。


「……。

まぁ、私も教えてもらう事が多いので詳しくはないですが……」

ヒスイはまじまじと書類を見つめる。

「……これは騎士団上層部の内容なので、左大臣ルイードの管轄ですね。

こっちの予算関係はまだ時期じゃないので、来週以降で十分です」


……第四騎士団か。あれ?これ元副団長のリンデンの字じゃねぇか。時短で補佐で復帰ねぇ……。


「……はぁ……」

ローランは大きなため息をついた。


「……ご休憩は?」

ヒスイは顔を上げる。


ローランは壁に掛かる時計に目をやる。

「……あと二時間後くらいかな。夕食だね」


「では、今からご休憩を。書類整理くらいならやっておきますから」


「……ありがとう」

ローランは肩の力が抜けたように、椅子に寄りかかった。


ヒスイは机に置かれた書類に目を通す。


「……ストロフ、書類系苦手すぎるだろ。

ほとんど急ぎじゃねぇよ」

ヒスイは呆れながら、小声で呟く。気をつけていた言葉使いが戻ってしまう程に。


「ほんと。俺が仕分けもしてるんだよね」

聞こえていたローランは、肩をすくめる。


「強く言っていいんじゃないですか?仕分けしてから持ってこいって」


「あはは。ノエルみたいに?」

ローランは笑った。


「そうですね……。ストロフにも勉強させないといけません。

私も、散々言われましたけど」



コンコン、と部屋にノックの音が響く。

入って来たのは王の執務室にいる文官のミヨだった。

「失礼致します。あ、ヒスイ様!こちらにいましたね!」

両手に分厚い本を、五冊ほど抱えている。


「何か?」


「図書庫の地下を確認しているのですが、この付箋はノエル殿下ですか?心配なので、こちらはまだ手を付けていないのですが……」


「ああ、それはノアが気になったところに貼ってただけだから。

……確認しても問題ない」


「ノエル、仕事しながらこんなに読んでたの……」

ローランは唖然とした。


ローランがページを捲ると、歴史関係が多い。

今では形すら消えた神殿の祭事から、禁忌指定された魔法の種類、食材の調理法まで、様々なところに付箋が貼られている。


「……俺も読みたいから、付箋は剥がさないでほしいな」

ローランは笑顔でミヨに笑いかける。


「は、はいっ」

ミヨは少し顔を赤らめ、慌てて姿勢を正した。


「ねぇ、ヒスイ。ノエルはどうやって時間作ってた?」


「……私が全て調整してましたよ。

普通に私も死にます」

ヒスイは目を逸らしながら答える。

「まともな人間にはお体に障りますので、全くお勧めは出来ませんね」


ストレスで吐いて、ぶっ壊れてからが本番だとは、さすがに言えねぇって……。


「……。

じゃあ俺も、ストロフに調整してもらおうかな」


「……やめた方が良いと思います。別の方法でお願い致します。

こっち側に来てはいけません」

ヒスイは即答した。


ストロフ一人でギリギリの調整なんて、できる訳がねぇよ。ノア歴十一年の俺でも、ユキ達三人が居なきゃ無理なんだから。


「……ん?」

ヒスイはふ、と思った。


「ん?」

ローランは首を傾げる。


「……いや、何でもありません」

ヒスイは付箋の貼られた本を一冊、手に取る。


アイツ……戻って来たいと思ってくれるかな……。


「ヒスイ様。

これだけ青い付箋ですが、何かあるんですか?」

文官のミヨが聞く。


「青……?」

ヒスイはページを捲った。

「ああ……すっかり忘れてた。

ノアが調べといてくれって言ってたやつだ。建国時に造られた物らしい。

あるなら、用途の確認と保管がしたいそうだ」


「……分かりました。後日、陛下と大臣に伝えておきます」

ミヨは頭を下げ、執務室を後にした。




入れ替わるように、土塗れの体と足を引き摺って、ストロフが執務室に戻ってきた。


「「……」」

ヒスイとローランはボロボロになっているストロフをじいっと見る。


「ローラン様……。こちらの、書類を……」

ストロフは息を切らしながら机に書類を置く。


「……ストロフ。汚いから先ずは着替えてから来てくれないかな。

もうじき夕食なんだから」

ローランは淡々と言った。


「ユキと訓練か?」

ヒスイが聞く。


「ストロフだけ狡いよ。俺も、ユキと喋りたいのに……」

ローランは不貞腐れながらストロフに詰め寄った。


「申し訳ございません……。今回は事故みたいなものでして……」

ストロフは頭を下げる事しか出来なかった。



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