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ひととま  作者: 珈琲
第二章
217/223

7-9

「……まだこーなーいー……」

ハルは管理人室の窓口で、眠そうに目を細めてぼやく。

頬がほんのり赤い。


時計の表示は、日付が変わりそう。


「魔族出没警報出ましたからねぇ」

ピンク髪の少女は頬杖をつきながら、隣で焼酎を飲む。

カラカラと、氷を鳴らす。

「まぁ、長引いてるんでしょう……。部屋で待ってればいいのに」


「……やーだー……」

ハルは椅子をガタガタさせながら答える。


……どーしよー……ちょー眠い……。

あー暗くて……前見えない……。


いつの間にか腕を枕にして、目を閉じていた。


「もー先に寝るのは反則ですねぇ」

ピンク髪の少女はグラスを傾けながら、少し笑う。

「……まぁ、可愛いからいいんですけど」



「あ、みんなおかえりなさーい」

ピンク髪の少女は、手をひらひらさせてノア達三人に手を振った。


「「ただいまー……」」

ノアとアキは疲れた顔で、返事をする。


窓口、ピンク髪の少女の隣にハルの頭が少し見えた。


「……待っててくれた……?」

ノアが窓口に肘を乗せ、こそっとハルの髪を触る。


「そうですよー。一緒に待ってたんですよー。

寝ちゃいましたけどね」

ピンク髪の少女はニヤニヤしながら、ノアの手元を見る。

そして、グラスの氷をカラカラさせた。


「えっ!?」

ノアは勢いよくピンク髪の少女に顔を向ける。


「まさか……飲ませたの?」

アキも驚き、ピンク髪の少女を見る。


「飲ませたと言いますか、飲んでみたいって言うからちょっとあげたら飲み干しちゃって。

せっかくハルちゃんの恋バナを肴に、楽しく飲んでたんですけどねぇ……。

初心者に焼酎ロックはダメでしたね」


「……肴?」

ノアは顔をしかめる。


「ええ。いやーノアさん、大事にしてるんだなぁーってー。

ペンダント可愛いですねぇ」


「……」


「恋する乙女も可愛いですよねー。

ノアさんも大事にされてますねぇー」


「いや……まじ、何なの……」


「いいじゃないですか。話しくらい。

私、リア充肯定派なので応援してますよー」

ピンク髪の少女は目を細めながら、ヘラヘラと笑う。

「……ハルちゃんお酒弱そうなので、部屋飲みの方がいいですね。

可愛いを独り占めできますよぅ……王子様」


「……その酒瓶、叩き割ってやろうか」

ノアは窓口の下で、ぐっと拳を握る。


「えーやめて下さいよー。ボトルは高いんですから」


「ノア、ちょっと落ち着いて!管理人さんも煽らないで……」

アキは慌てて割って入る。


「だってノアさん、ほんと私に当たり強いですもん。

せっかくのお顔が……台無しですよー」


「……部屋割りで、碌な対応しないから……」


「私は窓口なので、判断出来ないって言ったじゃないですか。

できるなら、とっくに管理統括部に異動してます」


「……ごめん。悪かったよ……。

あの時は、イライラしていて……」

ノア視線下げる。


「そんな素直に謝られると拍子抜けするじゃないですか。

……せっかく、戦う準備はできていたのに」


「戦う?」

アキは首を傾げる。


「ええ、お酒飲むと無敵になるんですよ」

ピンク髪の少女はグラスに口を付ける。


「それ、ダメな奴……」

アキは額を押える。


「おい、もう部屋戻っていいか?」

レイは壁に寄りかかりながら言った。


「あ、よかったら一緒に飲みません?

疲れた時には、お酒こそ正義ですよ」

ピンク髪の少女はグラスを掲げる。


「……私は構わないが。

最近飲んでいないからな」

レイは腕を組みながら、すんなりと答える。


「あ、レイさん案外イケる口ですね」


「酒は向こうで飲んでいたからな。この国の酒も、興味はある」

レイはボトルに視線を向ける。


「僕、まだ飲んだこと無いけど……」

アキは少し戸惑った。


「じゃあ試すといいですよ。私、強いんで安心して潰れてください」


「……俺、飲めないし……」

ノアがポツリと呟く。


「あら、意外ですねー」


「ノアは前、一口でぶっ倒れてるから……」

アキは肩をすくめる。


「……それは危ない……。

ノアさんは部屋戻っててもいいですよ」


「いや……」

ノアはチラリとハルを見る。


「じゃあ……割り材ですけど、オレンジジュースならありますよー」

ニコニコとご機嫌に冷蔵庫を開ける。

小さな管理室にノア達三人を促した。


「基本一人飲みなので、飲み会やってみたかったんですよねー」




ピンク髪の少女はローテーブルにロックグラスを三つ置いた。


大きめなカチ割り氷をグラスに入れ、透明で透き通った焼酎を適当に注ぐ。


「アキさん、初心者なら水割りかオレンジジュースで割るのもいいですよ」


「じゃあ……オレンジジュースで……」

アキは少し緊張気味に言った。


「すみませんね、ロックグラスしかなくて。雰囲気出ないですよね」

ピンク髪の少女はオレンジジュースを注ぎ、くるくるとマドラーで回してアキに渡した。


「飲み屋じゃないから、大丈夫……」

アキは焼酎の入ったロックグラスに口をつける。

「……あ、美味しい」


「でしょう?

はい、ノアさんはオレンジジュース」


「……ありがと」


「ふふふ、可愛いですねぇ」


「一々煩いよ……」

ノアは顔を背けた。





床には空になった瓶が置かれている。


「いやー他国とはいえ、王子様と飲めるなんて……映画にも早々無いシチュじゃないですか。

豪華すぎません?」

ピンク髪の少女はぐいっと飲み干した。

「レイさんはもう……見た目はもちろん、プライドも特盛りってかんじだから、雰囲気出ますねー」


レイは壁に寄りかかり、目を閉じている。


「もう、そのくらいにしておけば……?」

アキはレイに視線を向け、言葉に詰まる。


……多分、二人とも起きてるよ……。


「……まあ。

いいじゃないですか。私は気にしませんよ。

……付き合って下さいよ。アキさんは明日お休みなんでしょう?

羨ましいんですよー。私、友達って呼べる人居ませんし」

ピンク髪の少女もレイを見た後、カラカラとグラスを鳴らす。


「それを言われると、断り難くなるんだけど?」

アキは少し、ため息を吐いた。


「じゃあ……断らないで下さいよ。

でも、次からはノアさんかレイさんはどちらかにします。

……兄弟なのに目も合わせないとか、怖すぎますって」


「まぁ……過去に色々あったみたいだからさ」


「でもー。レイさんが兄なら、ちゃんと考えていただきたいですよねー。

お兄ちゃんぶってるのに弟に頼りっきりなんて、カッコ悪いですよー。

……この国でもいますけどね。傲慢で我儘な王子」


「……あんまりそういう話は……」

アキは二杯目のグラスを飲み干した。


「……飲みの席は無礼講ですよー。

この程度で怒るような器の小さい人は、王に向いてませんって」


「まぁ……否定はできないけど」

アキは目を逸らした。


「でしょう?身内すら大事に出来ないのに、国民守れるんです?

まぁ、出来ないからこの国の国王は酷いんですけどー」


「……本当にそこまで言って、大丈夫なの!?」


「いいんですよー、どうでも。いま監視もいませんし。

……やっと、アクアスタンの罪人の子に罪は無いって意見が人族からも出てきてたのに……」

ピンク髪の少女は俯き、グラスを持つ手に力が篭る。

「私だって、ハルちゃんみたいに恋愛楽しみたいのっ!」


「あ、結局そーいう話になるんだ……」


「そりゃそうでしょう……ハルちゃんは本物の王子様に大事にされて、幸せそうでー。

ノアさんだって、髪下ろしてたり、よーく観察してると納得って感じですしー。

……平民擬態が上手すぎてウケますけど」


「まぁ、参考にしたのが僕の兄ちゃんだからなんとも……」

アキは目を逸らした。


「あはは、良い仕事しますねぇ。

……来世はそっちの世界に生まれたいですねぇ」

ピンク髪の少女は空のグラスに焼酎を注ぐ。


「……まだ飲むの……。だいぶ酔ってない?」

アキはため息をついた。


この人も重いなぁ……。


「ぜーんぜん、酔ってないですよー。ただの本音ですって。

いいじゃないですか。アキさん、案外付き合い良いし喋りやすいんですよね。

……レイさん堅っ苦しいし、リア充の邪魔はしたくないですし」


アキはチラリとノアを見ると、ハルの足元ですやすやと眠っていた。

「あ、寝てる」


「あの位置、ハルちゃん起きたら踏みますよね」


「あそこで寝るのが悪いから、いいんじゃない?」


「アキさんて、なかなか厳しいですよね」


「そう?ノアはちょっと優しくすると、すぐ甘えるから……」


ーこの後も一時間程子守唄の様に愚痴を聞かされ、アキは静かに寝落ちした。





翌朝。


「わっ!びっくりしたー!ごめん、膝が……」

寝起きのハルが、ノアに躓いた。


「いっ……大丈夫、だよ……」

ノアは思わず体を抱え、うずくまる。


アキはハルの声で起き、眠い目を擦りながらノアを引っ張って部屋まで連れて行くと、そのまま昼近くまで二度寝をした。


ノアは夕方までぐっすりと眠った。


レイは時間通りに監視塔へ仕事に行き、傷だらけで帰ってきた。



一行消えてたので加筆しました。すみません。

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