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やがて君を魔女にする  〜異能ゼロの俺と落ちこぼれ魔法使いの現代異能成長譚〜  作者: 蒼久保 龍
一章 六門生誘拐事件

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50話 高校2年の学校生活

【前エピソードのあらすじ】

火炎の魔法使いとの決闘から3週間。

毎日独特なトレーニングばかりを繰り返すフィナの作品の一つ、「湧水の羽衣を感じるトレ」に対し、裸になった方が良いのでは、とアドバイスをする。


 シャワーの音だけが、耳に響く。


 今、ポカンとしているフィナが着ているのは、マリアがフィナと対峙した時に来ていた宝具、水神のセーラー服と潔癖のプリーツスカート。


 フィナは服が可愛いからと言う理由で、この宝具をマリアから奪った。


 俺たちはマリアを倒した後、フィナと共に宝具鑑定士の元を訪れた。


 どうやら、この世界では魔法使いが修行をサポートするための施設が、少なくとも数種類存在するらしく、そのうちの一つが、宝具鑑定所。


 宝具鑑定所は各地域の路地裏、目立たない場所に点在しているらしい。


 隣町の路地裏、あまりにもボロボロな小屋に、まるで映画館や博物館などの有人チケット売り場のような、人間の口元から下だけ腕1本ほどが通せるような窓穴のある窓口が存在していた。


 窓穴以外の部分は壁で仕切られており、中にいる人の顔は見ることができない。


 そして、その窓口の足元にも大きなスーツケース1つほどの隙間が空いており、そこに宝具を入れると宝具の名前、効果を教えてくれる仕組みだった。


 おそらく、魔法使いたちの修行を運営している組織の施設だろう。


 ちなみに、その場所では宝具の効果も教えてくれる。


 水神のセーラー服はあの時マリアが言っていた通り、水の中で呼吸ができるようになり、水の中を歩けるようになるうえ、水の中では筋力、反射神経が高まる効果。

 鑑定結果は装具で貴重品とのこと。


 潔癖のプリーツスカートは着ている人の服、身体が決して汚れないと言う効果。

 鑑定結果は装具で一般品。


 合わせて、これまで集めた宝具も見てもらった。


 万華鏡の杖は、魔法を万華鏡越しで見たように増幅させる効果。

 鑑定結果は武具で一般品。


 識者の手帖は、近辺にいる魔法使いの基本情報を見ることができる効果。

 鑑定結果は道具で一般品。


 と、そんなことを思い出している間も、フィナは固まっている。


「た、確かに……。このスカートのせいで、私は湧水の羽衣を感じきれていない……。あぁそう言うことか! なーんかしっくりきてなかったんだよねー!」


 そう呟くと、フィナはセーラー服を脱ごうとする。


 が、そこでまた、カチンと凍ったように固まって、俺の方を見て叫ぶ。


「って、今脱がせようとした!?」


「今脱げとは言ってねえだろ!」


 フィナと暮らし始めてから、大きな声を出すことが多くなった。


 それに、感情の起伏も激しくなっている気がする、なんとなく。


 俺はとりあえず、濡れないように注意しながら蛇口を回してシャワーを止める。


 それをフィナは警戒したように見つめていた。


「ん? って言うか、それなら自分の頭から激流砲で水をかけた方が水道代の――」


 俺がそう言うと、フィナは怒ったように言う。


「そんな間抜けなことしたくない! それに、ダンベル持てないじゃん!」


 いや、今も十分間抜けだよ。


「うーん。そう言う感覚的な修行も大事かもしれないが、本を読むとか、座学もした方がいいんじゃないか?」


 俺はこれまで、フィナが本を読んでいるところを見たことがない。


 フィナは何故か気まずそうな表情に変わる。


「ぎくっ」


 俺はぎくっ。っと言葉で言う人間を初めて見た。


「薄々感じているんだが、フィナの修行は、えーっと、なんというか、独特すぎる気がするんだけど」


「そんなことない! みんな、こんな感じだし!」


「いや、水流衝撃波になりきるとか言って部屋の中でコロコロ転がってたことあったろ?」


「あれは、試してただけ」


「それに、イメージ模擬戦とか言って部屋の中で暴れたり」


「イメトレは大事でしょ?」


 他にも色々な、独特なトレーニングをフィナは生み出している。


「ていうか、それら2つはオリジナルだけど、ダンベルは有名な筋力トレーニングだよ?」


 それは俺も知ってる。


「でも、確かに最近伸び悩んでいる感じがするんだよね……。あっちの世界にいた時からそう。マリアに修行をつけていてもらった時から、あんまり変わっていないような……」


「それなら、座学もした方がいいんじゃないか? 荷物の中に本みたいなのが入ってたろ?」


 フィナは露骨に目を逸らす。


 最近はこんなやり取りを何度もしているが、フィナは座学の話を回避するスキルが高すぎて困っている。


 俺の中での常識では、この世で座学が不要である学問など存在しない。


 それは恐らく魔法使いでも同じであり、必須だと推測しているのだが……、俺に知識がないからフィナに教えられないし、フィナはそもそも学ぶ気がない。


 強制的に学ばせるような、優秀な先生でもいればな。

 

「うーん。そしたら今日、帰ってきたら魔法に関する本の内容を一冊、俺に教えてくれ」


 理解していないと、他人に教えることはできない。


 とりあえず、フィナをどう勉強させるかではなく、フィナの知識を探ろうと、そう言ってみる。


「え、ちょ、本気で言ってる?」


 フィナは動揺しているが、俺は脱衣所の独立洗面台で、顔を洗い、歯を磨き、自室に戻って部屋着に着替え始める。


 と、シャワールームの中から再びぽつりと声が聞こえる。


「本気?」


「いや、俺は本を読むのが好きだからな」


 これにかこつけて、魔法使いに関する本を読んでやろう。なんて、下心も入っている。


 フィナの荷物が入っている木箱は、勝手に漁るとバレる仕組みになっているから、気安く魔法使いに関する本を読むこともできない。


 食パンを手に、学生鞄を逆の手に持ち、靴を履く。


「じゃ、行ってくる」


「いってらっしゃい……、ど、どうしよう」


 フィナがこの家に定着してから、俺は毎日行ってきますと言う。


 そして、それにフィナはかかさず答える。


 よし、今日は帰ってきてからの楽しみができた。


 ただ、彼女の動揺具合から、解説にはあまり期待できそうにないが……。


 ・


「コーヒー買ってきて」


 放課後、バイトがない日科学部へ顔を出した俺は、真司澪奈のその一言で、コーヒーを買いに部室を出て、一番近い自動販売機へ向かっていた。


 俺はあろうことが高校2年生から、科学部という部活動に加入した。


 というか、加入させられた。


 澪奈は何故か分からないが、俺が魔法使いの協力者であることを知っている。


 そして、魔法使いの存在もどうやら知っているっぽい。


 つまり、俺は彼女のことを知らないが、彼女は俺のことを知っている。


 情報量で負けているので、俺はパシリにされている。


 納得はいかないが、情報量で負けた人間に力がないのは世の常だ。


「よっ! 今日もパシリか?」


 食堂前の自動販売機コーナーに行くと、真司澪奈への下心から俺と友達になった、サッカー部のキラキラ高校生、幸間優斗がいた。


 彼は黒色の髪をツーブロックにしており、かつ、二重で堀が深く華がある容姿だ。


 その容姿で、かつ、2年生にしてサッカー部のエース。


 さらに、誰に対してもフランクで気軽に接し、それを楽しんでいるようにすら見える。


 3週間前、教室で優斗が俺を庇って流れが変わったのも、今なら理解できる。


 こいつは学校で相当の人気者だ。


 彼と話すようになって知ったが、この高校のサッカー部はそこそこの実力があるらしく、過去は全国の舞台、各県代表が集まる国体にも出場したことがあるらしい。


 そんなサッカー部で中心選手である優斗は、当然モテモテ。


 が、その優斗は真司澪奈にゾッコンで、真司澪奈は優斗に全く興味がない。


 なんとも世の中は不条理である。


 彼は爽やかな汗をかきながら、俺にニヤッとした表情で声をかけてくる。


「どうだ? 澪奈の好きな食べ物は聞けたか?」


 ずいぶん可愛らしい質問だが、彼は真剣に俺に聞いている。


 目の前の優斗は、俺のことを友達と思っているのだろうか。


 いや、そんな面倒くさいことを考えて時間を使うくらいなら、いっそ、友達と思われていないと仮定して付き合いを続けるのが得策だ。


「多分コーヒーは好きだと思う。それも微糖のこれだ」


 俺は適当にそう言いながら、なんちゃらマウンテン缶コーヒーの「つめたーい」ボタンを押す。


「おいおい、俺は食べ物って言ったんだぜ? 相棒、それは飲み物じゃねえか」


「相棒って……、それに、飲み物の方がハードル低いと思うぞ。さらっとした会話のタネに」


 無責任なことを言うと、優斗は部活中にも関わらず、同じ、青色の缶コーヒーを選んだ。


 ガタン、と取り出し口に落ちた缶コーヒー。


 俺は2人分そこから取り出し、1つを優斗に差し出す。


 すると、優斗はすぐに缶を開けて一口。


「にがっ」


「何回も飲んでると、甘く感じるようになる、って言ってた」


「まじかよ」


 優斗はグビグビ飲んで一気に空にして、ゴミ箱にその空き缶を入れた。


「お、――じゃね?」


 他のサッカー部の同級生にも絡まれた。


 俺は自分の名前が聞き取れないので、聞き取れないことを言われた時に自分の名前が呼ばれたと類推して生活をしている。


 そこからまた、軽く会話をするもみんな澪奈の話ばかり。


 俺は会話についていけているか、正直やや不安だが、適切に相槌をうっているつもりでいる。


 正直なところ、積極的に友人を作ることには、若干抵抗はある。


 人との関わりは増えるほどコストがかかるし、相手の気持ちを考えなければならない。


 もちろん、人間が1人で生きているとは思わないが、別に深い友達を作らなくて良いと思う。


 適度な関係性の知り合い程度が、一番ストレスなく過ごせる。


 他人を深く知れば知るほど、悩みや苦しみも増えていく。


 俺は名前を失ってから、中学時代の友人は次々と自分から離れて行った。

 最終的には、家族までもが離れてしまった。


 その時に痛感した、大切な人が増えるほど、痛みも比例して増えていく。


 すべての出会いは別れに帰結するのだから。


「お前、澪奈に恩があるんだから助けてやれよ」


「恩?」


 ふと、クラスメイトが俺に話を振る。


「この間、カズに言い返した時、助け船を出してもらったろ?」


 3週間前のことか。


 確かに、教室で金髪に言い返した時、澪奈が俺を庇ったことで、優斗のような他人との関わり合うようになった。


 科学部の活動のせいで、正直感謝が薄まってきていたが、その点は、素直に感謝をしなければな。


 すると、優斗も缶を捨てながら言う。


「澪奈は敵も多いから、な」


夜にもう2エピソード投稿します。

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