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3話 対 拳銃を持つ魔女狩り

【前エピソードのあらすじ】

 落ちてきた魔法使いは、本当に魔法を使うことができた。

 彼女のことを魔法使いと認めた直後、魔法使いを狙う、拳銃を持った人間(魔女狩り)と遭遇する。


「そりゃあ、怪我するし、あんなの撃たれたら致命傷か、下手すれば一発で即死だよ!」


「ちなみに、怪我したら血は流れる?」


「普通に流れるよ! 私を何だと思ってるの!?」


 魔法使いと思ってます。


「2人ともー、このピストルが見えませんかー?」


 その男はふざけたような様子でそう言った後、すぐに恐ろしいような表情へ変えてーー。


「そこの男! 撃たれたくなきゃ、その女をここで下ろして立ち去れ!」


 と、言い放つ。


 おそらくだが、フィナは早速大ピンチを迎えているらしい。

 そして、俺は見逃してもらえそうだ。


 俺はちらりとフィナを見る。

 ここで彼女を見捨てて逃げ出すのが、普通の人間として一番賢い選択肢。


 だが、俺は今、この魔法使いとの邂逅を非常に楽しんでいる。

 ここで彼女を見捨てれば、退屈な人生に戻るだけ。

 魔法使いであっても、血が流れているなら人間と同じ人体構造である可能性が高い。


 さっきの落下で、なぜフィナの命が助かっているかはさておき、血が流れていることや、身体の形等から、魔法使いは魔法を使えるだけの人間であると言う可能性が高そうだ。


 と考える俺に対し、フィナは俺の背中の上でぽつりとつぶやく。


「私を置いて、逃げて」


 え?

 さっきまで死にたくないと泣き喚いていた彼女が、俺を庇う……?

 なんで?


「あの人。私を狙った魔女狩りだから、私を殺せば気が済むはず……」


 フィナの不可解な行動に、俺は思わず呟く。


「魔法を使って、何とかならないのか」

 

「ダメ。私は魔法が――」

 

 と、そこでフィナの身体がピクリと動いた。

 普通ならこの状況は早く動かなければならない。逃げるか、突っ込むかの二択。

 しかし、フィナが魔法を使えるなら話は別だ。


「な、なんかまた使えそうな気がしてきた」


 そう言うと、彼女は拳銃を構えられているのに、堂々と俺の前に立った。

 これは期待できる。

 フィナは魔法使いだ。

 拳銃相手に怯んでいないと言うことは、魔法で応戦できると言うことだろう。


 ……ってそうだ。

 冷静に考えれば、超常現象を起こすことができる魔法使いにとって、普通の人間は相手じゃないはず。


「私だって、一端の魔法使い」

「ちっ、やっぱ当たりか! やったぜ! こいつは本物の魔法使いだ!」


 しかし、焦りと喜びが入り混じったその男は、なんと拳銃を地面に落とした。


 これはチャンスだ。


「し、しまった!」


 動揺したその男が言った瞬間。

 フィナは格好良く目の前の空を指で切って、宣言する。


「隙あり! 水魔法、水流衝撃波っ!」


 ……、ダサいけど、少しかっこいい、かも。

 フィナは華麗に、水色の髪を揺らしながら目の前の虚空に何かを描き、そのように宣言した。

 いや、やっぱりダサいな……。

 揺れる俺の心。

 しかし、これで勝負あっただろう。

 俺がそう思って見ていると、フィナの前方1メートルほど前から、サッカーボールほどの大きさの水製の玉が発射される。


 そして、その玉は勢いある水流の力で縦回転しながら、10メートルほど前方の男に、弧を描いて飛んで行った。


 ぴゅーん。

 と、可愛らしい効果音が付いているかのような様子で、その玉は男に向かって放たれ――。

 そのボールは時速40キロ程度のスピードで、バッティングセンターで一番遅いボールよりも遅い速度。

 だから、男はあまりにも簡単に、さっと横に避けてかわす。


 水の塊は地面に着地し、パシャンとアスファルトを濡らした。

 魔法をかわした男は拳銃を拾わないまま、唖然とフィナを見る。

 俺もその光景にぽかんと口を開け、フィナを見る。


 ……。

 あれ、想像していた未来と違う……。


 フィナはしばらく放たれた魔法の方を見ていたが……、俺を見て切なげにニコッと笑い――。


「逃げて」


 と、言った。


 ……、おい。


 絶対絶滅。

 魔法使いは拳銃を持った人間に勝てない、と。これも新たな発見だ。


 慌てて拳銃を拾い上げる男を尻目に、俺は死を覚悟する。

 もちろん、フィナと一緒にだ。


 俺だけ逃げることは選択肢に無い。


 ーーあいつって、悪魔が憑いてるらしいよ。

 ーー近寄らない方がいいって。

 ーーあの悪魔、俺が殴ってやったぜ。


 そんな言葉が、フラッシュバックする。

 名前を失ってから、俺の人生は狂った。

 いつも、つまらなかった。


 だけど、フィナがいれば、ほんの少し楽しくなるような気がする。


「あー焦ったぜ……。それにしても、本物の魔法使いで、こんなに弱っちいとは、超当たりくじじゃねえか」


「すいません。その、わかっているかとは思いますが、銃刀法違反で逮捕されますよ」


 俺は上昇する心拍数をなんとか抑えて、再びへたり込んだフィナの横に立ち、平静を保ちながら言う。

 俺は小説やラノベのキャラクターのような、特殊な能力、スキルやチートと呼ばれる圧倒的な実力もない。普通の男子高校生だ。

 だけど、それでもできることはある、はず。


 今の場面、相手にペースを譲ってはならない。


 焦り、恐怖は思考を放棄するきっかけとなり得る。

 緊急時こそ、思考を放棄してはならない。

 先に思考を放棄した方が負けると、「絶対負ける喧嘩術」という本に書いてあった。


「あ? なんだ挑発か? てめえも撃たれてえのか?」


「ぎゃ――――! なんで挑発してるのよ! 変なこと言わないで! 死んじゃうよ!?」


 元より、運が悪ければ死んでも良いと思ってる。


 って……、フィナは力が抜けている状況でも、這いつくばって動き、あろうことか俺の前に出た。

 やはり、こいつは弱いのに一貫して俺を守ろうとしているな……。


 だが、状況は最悪だ。銃口はフィナの方を向いている。

 フィナだけが死ぬ展開が最悪だから、できれば俺の方を狙ってほしい。


 しかし、男は柄が悪そうに見える風貌だが、銃をむける職業ではないらしい。

 銃を持つ手は震えているし、表情筋が強張っている。

 撃ちなれていないだけ、ラッキーだ。本物の殺し屋ならすでにフィナは殺されているだろう。


 ただ、相手が素人だからこそ、逃げる動きをする方が危険な状況。

 逃げようとする相手には引き金を引きやすいらしい。これも本で読んだ。

 だったら……。


「フィナ。君が魔法を使わないと、俺たちは二人ともあの人に殺される。もう一回さっきの魔法を使って欲しいんだけど」


「おい、喋るんじゃねえ!」


 目の前の男はそう言ったが、俺がそう尋ねた瞬間、彼女の身体がまたもやピクリと動く。


 俺の前に這いつくばっているフィナの全身に力もこもり、彼女の身体は恐怖で震え始めた。

 震えが出るのは、身体が動く証拠だ。

 どうやら、もう一回動けるようになったらしいが……、魔法が使えない呪いとか言っておきながら、こんなに使えていいのか?


 いや、そんなことを考えるのは後だ。


「魔法は使えそうだろ?」


「なんで分かったの?」


「何となく」


 解説するのも時間がかかるので適当に答えながら、男の方に意識を向ける。


「くそ……。撃たないと……。ちくしょう、やるぞ。これで借金生活とはおさらばだ」


 男は自問自答するように呟いている。心理学でいう、自己正当化を行う防衛規制が働いている。


 しかし、魔女狩りをするとお金をもらえるのか?

 って、愚問か。

 魔法使いの身体とか、喉から手が出るほど欲しい科学者や研究者がいそうだし。


「さっきの魔法、大きさは変えられるって言ってたよな。特大サイズでいけるか?」


 俺が再び念を押すように尋ねると、フィナは立ち上がろうとしながらも自信なさげに言う。


「サイズが大きいとスピードが出ない――」


 フィナの声を遮って、俺は言う。


「スピード無しでもいい。特大サイズで頼む。俺が前に突っ込むから俺を目印にでっかいやつを! 早く、撃たれる前に!」


「ちょっと、いきなりいろいろと――」


「死ねっ!」

 男がそう言って引き金に意識を向けた直後、俺は立ち上がろうと動き出したフィナの後ろから跳び出し、男に突っ込む。


「な、なんだてめぇ!」


 パンッと、軽い音が響く。

 しかし、相手が素人だったからか、迷いがあったからか、運良く俺には当たらない。

 それでも、慌てた相手はもう一度拳銃を握りなおして俺を見る。


 と、同時に後ろから声が聞こえる。


「水魔法――」


 と、フィナの声が聞こえた、男の表情に迷いが生じる。

 そして、あろうことか銃を握りなおし、フィナの方に向けなおした。

 予想外の行動。俺は男に間に合わない。


 フィナが、撃たれる。

 

「魔法を使う気か!」


 男はそう言いながら引き金を引こうとする。

 光景がスローモーションに――。

 と、そこでフィナが後ろで叫んだ。


「――水流衝撃波!」


 その直後、俺は水の中にいた。


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