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2話 1個目の魔法、水流衝撃波

【前エピソードのあらすじ】

 何でもない日に、空から魔法使いが降ってきた。

 と、思えば、その師匠も現れ、なにやら一方的な会話が始まり……。

 その魔法使いは1人、現実世界に取り残された模様。


 フィナはアスファルトにへたり込んだまま答える。


「終わった。完全に、見捨てられたんだ、私」


 そうは見えなかったが。


「私、修行どころじゃ、ないよ。魔女狩りの凡夫に殺されて、この世から、バイバイだよ」


 嗚咽を繰り返しながら、フィナは絶望したような表情でぽつりぽつりと言う。

 って、色々ありすぎて理解が追いつかんな。


「ちょっと、色々聞きたいことがあるんだけど」


 そう俺が尋ねたところで、車のクラクションが聞こえる。

 俺が音の方を見ると、その直後、タクシー運転手のおっちゃんが窓を開けて叫んでいるのが見えた。


「危ないぞ! どけっ!」


「ひいいい! すいません! と、とりあえずなんとかして! 身体が動かなくって、本当にごめん!」


 今日はよく轢かれそうになる日だ。

 と、フィナは本当に動けなさそうだ。

 俺はすぐに彼女をおんぶして移動する。

 彼女は小柄で華奢なこともあり、非常に軽かった。


 道脇まで移動をしたところ、その後ろを活きがいいタクシーが通過していく。

 タクシー運転手は俺の横を通過する間、俺だけを気味悪そうに見つめていた。


「あの動く物体って、魔法じゃないよね」


「多分、魔法じゃない。あれは車だ」


「車? お師匠様は鉄でできた乗り物があるって言ってたから、それかな……?」


 と、そこまで言うと、フィナは怯えて表情になる。


「この世界では、年に数人、乗り物に魔法使いが退治されるって」


 それ、退治されたんじゃなくて、轢かれただけじゃないか?


「生きていける気がしない……。ってかあの乗り物、私の魔法よりもスピード速いじゃん……」


 俺の背中で、女の子はブルリと身を震わせながらそう呟く。


「あの速度で落下して無事なら、車くらい止められないのか? その、魔法とやらで」


 俺は率直にそう尋ねると、彼女は背中の上で言う。


「それが、何で無事だったのか分からなくて。それに、今はもう、魔法が使えないから」


 え、最悪だ。

 魔法を知れるチャンスがーー。


「本当に? 試しに使ってみることとかできない? すごく見たいんだけど」


 と、突然彼女は頭を傾げながら言う。


「あれ? おかしいな。なんだか力が戻ってきたような」


 彼女はそう言うと、俺の背中から降りた。

 大丈夫か?

 と、思う俺の心配をよそに、彼女はへたり込んでいたのが嘘のように、二足で地面に立った。

 

 そして、人差し指を立て、目の前の空気を指差す。


 何が始まるんだ?


 俺が両目を一瞬たりとも閉じないよう開いていると、フィナは目をつむり、空気に対して指先で何かを描きながら宣言する。


「水魔法――、水流衝撃波!」


 ……え、ダサっ。

 こんな、宣言をして使うのか?

 もっと不思議な呪文を唱えるとかーー。


 いや待て。

 これでどんな効果が生じるのかが問題だ。


 俺が期待してフィナの前を見ていると……、彼女の目の前の空気にビー玉ほどの水の塊ができ、それは前方に発射された。


 その水の塊は、野球のピッチャーが投げるストレートのように縦回転をして前に飛んでいき……、ちょうど、さっきの車と同じくらいのスピードで、住宅の壁面に衝突した。


 パチン! と音が鳴る。


 これが魔法……、すごいな。

 原理を知りたいが、オカルト的に説明がつかない事象なのだろうか。

 あるいは、水素原子を生み出す、あるいは空気中の水素原子をかき集めて、強制的に酸素原子と結合させているのだろうか。


 どのようにこの魔法とやらの原理を解明しようか――。

 そんなことを思っていると、彼女の表情は眩しい笑顔に変わっていた。


「や、やった! 使えた! よーしっ! ちょっとは――、って、あれ、また力が――」


 が、再び途中で力が抜けたように、彼女はふにゃりと地面にへたり込んだ。


「これって、大きさとか速さとか変えることができるの?」


 俺はすぐ、地面に倒れた彼女に早口で尋ねる。

 彼女はさっきの笑顔がどこへやら、また不安な表情に戻っていた。


「ん? 速さも大きさも変えられるよ。速さを遅くすれば大きくできる。速さはこれが最速だけど――って、ちょっと! 私の心配は!?」


 なるほど、速さと大きさが変えられるのか。


「ちなみに他の形にできる?」


「できない! ……、私の心配は?」


 フィナは回転するボール型の水を出すことができる、と。


「その水は、触ると濡れ――、そう言えば、大丈夫か?」


 夢中になっていた俺が我に帰り、そう問いかける。

 すると、フィナは倒れたまま、悲しげに視線を落として言う。


「すいません、立てないので手伝ってください」


 再び、俺は彼女をおんぶした。

 そして、俺は間髪入れず質問を続ける。


「魔法のことは後で聞くとして――。どこから来た? ってか、どこから落ちてきた?」


「師匠様の家から来て、空から落ちてきた」


「師匠様の家は地球、日本にある?」


「地球? 日本? よく分かんない」


「じゃあ、どうやって移動してきたの?」


「空を飛んできたよ」


「空を飛べば帰れるってこと?」


「いや、そのー。えーっと」


 フィナは歯切れが悪いため、俺はなんとなく彼女の状況を推察して言う。


「家出して飛び出したけど、帰り道がわからなくなった、みたいな状況?」


 フィナはびっくりしたような声音で言う。


「なんで分かったの!?」


「いや、なんとなく」


 これまでのやり取りを聞いていたら、このくらい察しはつくぞ。


「……、魔法使いは16歳になったらみんな、異世界に修行に出るんだけど。私は落ちこぼれだから4月のタイミングで修行に出れなくて……、それで、みんないなくなっちゃった」


 フィナの声音は徐々に小さくなる。


「私もみんなが修行している場所を見てみたくて、バレないようにお師匠様の箒に乗って家出をしたんだけど、家出の途中で空から落ちちゃって」


 なんとなく経緯はわかったが……。


「魔法使いは協力者以外の凡夫に見つかっちゃいけないって決まりがあって、それなのに、私が落っこちて、あなたに見つかっちゃって、私は魔法が――」


 と、そこまで聞いたところで、前から知らない男の声が聞こえた。


「ちょっとそこの嬢ちゃんと彼氏さん」


 俺がその声の方を見ると、アロハシャツを着て、サングラスをかけている30代の男性が立っていた。

 その男は眉間に縦皺が何本もあり、タバコも吸っていることから非常に柄が悪そうに見える。

 が、何より異質なのは彼が拳銃を持っていたことだ。


 彼は銃口を、俺がおんぶをしているフィナの眉間に合わせている。

 

 まずい。


 直感的にそう思う俺に対し、フィナは大声で叫ぶ。


「ぎゃ――――! 見られた! って、あ、あれは!? 手のひらサイズの魔女狩り兵器!?」


 手のひらサイズの魔女狩り兵器……おそらく、拳銃のことか?

 発砲されたらまずいが、彼はトリガーに手をかけていない。


 って、あれは通常、人を殺すための道具だが、魔法使いにとって魔女狩り兵器でもあるのか。


「ピストルのことは知ってるのか?」


「ピストルって道具は知らないけど、あの道具は知ってる! 鉄や不思議素材の弾を発射して魔法使いを殺す道具って、お師匠様が言ってた!」


 不思議素材? って、そんな言葉の意味は後で良い。

 俺は、拳銃を持っている人間に睨まれる経験を噛みしめながら尋ねる。


「ちなみに、魔法使いって怪我とかするの?」

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