2話 対 拳銃を持つ魔女狩り
【前エピソードのあらすじ】
フィナという水の魔法使いを狙い、拳銃を持った男が現れる。
彼女と共に、その場を切り抜けるため、俺はフィナに魔法のサイズを大きくして使うよう指示を出した。
俺が飲み込まれた水の塊は、道端いっぱい、人間2人を飲み込むほどサイズが大きくなっても水流が強かった。
そのため、さっきから俺の身体はグルグルと水中で回転していて、大変気持ち悪い。
アロハシャツの男も、俺と似たような状況だった。
水中でぐるぐる回りながら拳銃の引き金を引いているが、それは意味をなさない。
余程運が悪くない限り、俺やフィナには当たらないはずだ。
そして、50秒くらい経った時、俺が水の中で何回目かの瞬きをすると、突如、水の塊が消えた。
当然、俺は地面へ落下する。
俺は呼吸を止めていたうえ、落下時に受け身をとった。
一方、男は受け身もせずに地面に叩きつけられている。
流石に息を止めていた時間が長すぎたため、俺が咳き込んでいると、フィナは遠くから俺に声をかけてくる。
「言われた通りにやったけど、大丈夫!?」
俺は咳き込みながら、アロハシャツの男を見る。
彼は道横の柵の横で白目を剝いて寝ころんでいた。
動きはないため、おそらく水を飲みすぎて気絶をしているのだろう。
彼が持っていた拳銃は、俺とフィナの近くまで飛ばされ、地面に転がっていた。
「ああ、魔法で作られた水が本物なのか、中に入って確かめてみたかったし」
俺はびしょ濡れになった服を見ながらそう答える。
「えー……。魔法の中に突っ込みたいなんて、変わってるね」
フィナの方を見ると、彼女は再び地面にへたり込み、ドン引きしたような目で俺を見ていた。
が、すぐににっこりと笑顔で言う。
「でも! とにかく! すごい、すごいよ! 貴方が走って突っ込んだ時はどうなるかと思ったけど!」
俺は立ち上がり、彼女の方へ近づいた。
すると、フィナの笑顔はすぐに物憂げな表情に変わる。
どうやら、さっきの笑顔は作り笑いだったらしい。
彼女は地面を見つめながら、ポツリと言う。
「その、ごめん。泣いてる場合じゃなかったのに」
彼女は反省をしているのか、あるいは落ち込んでいるのか、気落ちした様子でそう言う。
が、そんな彼女に対し、俺は率直に言った。
「魔女狩り1人には、勝てたな」
フィナは俺から目を逸らす。
「それはあなたが機転を利かせてくれたからで、私は何も……」
未だ元気が無い様子の彼女を見て、俺は淡々と事実を告げる。
「いいや、魔法が手段だとすれば、大事なのは使い方と使うタイミングだから、勝因はフィナの魔法の大きさ。まさかあんなにサイズが大きいとは思わなかった。ありがとう」
正直にそう言うと、フィナは「え?」と言って俺の顔を身上げる。
そんな彼女の戸惑う視線をまっすぐ見て俺は言う。
「少なくとも、一人の魔女狩り? を倒すことができる魔法だった、ということだろ。誇って良いんじゃないか?」
俺は魔法のことは何も分からないが、と付け加えかけて、言葉を止めた。
何故なら、その言葉を聞いたフィナが目を丸くして、俺を見つめていたからだ。
快晴の空から照らされる光で、まるで川のせせらぎに光が反射した時のように、彼女の瞳は輝いた。
そして、その瞳に俺の姿が映って、数秒後。
彼女はぽつりと言った。
「生まれて初めて、魔法を褒めてもらえた……」
その瞳にうるうると涙がたまっていく。
悲しくなって、悔しくなって、次は嬉しくなったのだろうか。
「ありがとう! ありがとうー! 同期の誰からも、絶対、魔女狩り一人にだって勝てないって言われてたのに! あなたのおかげで勝てちゃった! すごい! 天才!」
俺は濡れた身体で彼女をもう一度背負うと、彼女はぽつりと言う。
「それに、良かった……。私のせいであなたが怪我をしなくて」
それから、数秒の間、彼女は俺の肩に顔を押し付けて泣いた。
本当に、せわしない魔法使いだ。
と、突然ゆっくりと顔を上げ、フィナは尋ねて来る。
「ちなみに、どうして大きくしようって思ったの?」
「ん?」
「私の水流衝撃波のこと! まさかサイズを大きくして巻き込むように使うなんて思いつかなかった!」
フィナは泣きながらもかなり食い気味に俺へ尋ねて来る。
「フィナは、水流衝撃波をどんな魔法だと思ってる?」
「えっと、その、友達に衝撃魔法を使う人がいたから――、その人みたいに物をぶつけて衝撃を与える魔法だと思ってた!」
「俺は、初めて水流衝撃波と言う単語を聞いて、その魔法を見た時、水流のエネルギーを活かすのかなと思ったんだ」
「あのー……。えと、どう言う意味?」
「つまり、小さな球で作られた時に水流が強いなって思ったから、小さな球にしてぶつけるより、大きな球の中の水流で巻き込んだ方がみんな目を回すし、落ちたり物に当てたりしたら痛いんじゃないかって」
「なっ!?」
フィナはそう言うと、俺の背中の上で固まった。
そんな中、俺は気絶している魔女狩りの方へ歩いていく。
その3秒後。
「天才じゃん」
すっかり涙が止まったらしいフィナは呟くようにそう言うが、すぐに自分へツッコミを入れる。
「いやいや私、速度を上げるための練習しかしてないんですけど!」
さらに続けて言う。
「って! 何でそんなに魔法を詳しいの!?」
「さあ」
彼女は面白いくらい、忙しい魔法使いだ。
しかも、今のは半分、とってつけた理由だ。
大きな水でなら、拳銃は使えなくなる。
俺が突っ込んだのは、フィナを殺させないためのリスクヘッジ。
そんな、彼女と出会ったのはつい1時間ほど前の話。
その落ちこぼれ魔法使いは、この福岡の地に、空から落ちてきた。




