116話 魔女狩りの指名手配
【前エピソードのあらすじ】
アカリを正式入隊させるか否かで揉めるフィナとクロエ。一旦は入隊をさせない方向で話がついた後、クロエはフィナの新しい魔法がどんな魔法が良いか俺に相談をする。
「え、そんなに簡単に魔法が増えるのか?」
俺が思わず本音をこぼすと、フィナも横からしょんぼりとした様子で言う。
「クロエちゃん。そんなに簡単に私の魔法は増えないよ」
「え?」
クロエがきょとんとしてフィナを見ると、フィナは悲しげな様子で続ける。
「私は、クロエちゃんと違って才能がなくてーー、いろんな結界を描いて努力したけど、なかなか理想の魔法がでないもん。あんな基本のキを学んだだけで新しい魔法が使えるなんて思えないっていうか……」
フィナはがっかりと肩を落とす。
「はぁ、なんで私ってこんなに弱いんだろ……」
アカリを隊員にすることを否定されたこともあるのか、フィナはすっかり弱気になってしまった。
彼女が出会いたての頃のように弱気になる時期は定期的に来る。
大抵、次の日には立ち直っているから気にしていないが。
「フィナは魔法を根本的に勘違いしている気がするの。なんと言うか、フィナは自分の理想を追い始めたら止まらない、みたいなところがあるじゃない」
と、その話を聞いて俺は思ったことを言う。
「ちなみに、フィナは四つめの魔法を作ってたりするのか?」
そう質問してから思う。
会話の流れでそう尋ねたが、そもそも魔法って作るものなのか?
フィナは縮こまったまま返事をする。
「……うん。水面斬、って名前はつけているよ。腕を縦に振って、エミリーの真空斬のように縦長の衝撃波を高速で飛ばしたいと思ってるんだけど」
……ん?
水を縦長の衝撃波で飛ばすって、どこから前進するエネルギーを作るんだ?
なんのなく、激流砲の二の舞になりそうな……。
「ハル、分かった? フィナが勘違いしている部分」
フィナは目を丸くしてクロエを見ている。
「フィナ、その魔法の試作品はもう完成してるのか?」
俺が尋ねると、フィナは俺の方を見て、恥ずかしそうに頷いて言う。
「うん。魔法としては発動できるけど、水飛沫が出るだけで全然縦長の衝撃波にならなくて」
「ちょっと使ってみて」
俺がそう言うと、フィナは「え」と言って固まったが、俺とクロエの目を見てから観念したように立ち上がり、宣言する。
「水魔法、水面斬!」
そして、宣言してから腕を振ると。
ピシャッ。
俺の全身、縦一直線に勢いよく水飛沫がかかる。
例えるなら、目の前で水が滴る大きな筆を縦に振られたような感覚。
俺の頭や顔、洋服に、縦一直線で水がかかった跡。
一瞬の目眩しーー、にもならない。宣言されているので、何かが来ることも想像できてしまう。
「ハルにヒント。魔法の定義は、自分が想像したことを結界に描いて現実にする」
と、言うことは。
少なくとも、この魔法はフィナの想像通りに動いている。
つまり……。
「フィナの想像力がないーー、ってことか」
俺がそう言うと、フィナはカチッと凍ったように固まる。
……ストレートに言いすぎたか?
「その通り。でも、それだけじゃないわ。フィナの魔法に関する弱点は3つ」
フィナは石化したように固まったまま動かない。
「1つは座学を疎かにしているから、想像を落とし込むための結界の構築に時間がかかっていること」
「う」
フィナが呻き声を上げる。
「2つは今、ハルが言ったとおり、そもそも想像力が欠けていて、戦闘で実用性のある魔法がイメージできていないこと」
「ぐ」
「そして3つ目は、そんな状態なのに、最初から複雑な魔法に挑戦しすぎていること」
「……はい」
フィナの力のない返事が聞こえる。
しかも、クロエのクイズの答えは三個だった。
「だから、この基礎学を履修したタイミングで一つ実践をしたいの。基礎学で学んだ結界だけで描けて、かつ、想像のイメージを掴めて簡単な魔法」
「……そんな魔法、本当にあるの? あんな、基本のキだけで決闘に使える魔法」
フィナは非常に小さく、掠れた声で言う。
これは相当ダメージが入っているな。後でフォローを入れておこう。
「私の中で2つある。だから、攻撃に使える魔法か、防御に使える魔法かで聞いたの」
なるほど。
簡易かつ実用的な魔法、ということは発動も簡単であると踏んで良いだろう。
それであればーー。
「フィナの意思を尊重するが、俺は防御に使える魔法が良いと思う」
「私はどっちでもいいでーす」
フィナは気付けば部屋の隅で小さくなっており、くたびれたような声音でそう言う。
「そう。それなら、防御魔法実践編ね。明日から座学の時間で外へ行って、実践演習をしましょう」
「!」
落ち込んでいたフィナは、驚くような切り替えの速さでパッと顔を上げ、クロエの方を見る。
「そしたらフィナ、明日からの実践編に向けて、今日は準備ーー」
「今から! 今からやろ!」
フィナは勢いよく立ち上がって、クロエの両肩を掴む。
そして、両目をギラギラと輝かせている。
こいつ、本当に座学嫌いで実践大好きなんだな……。
現実世界にいたら、うーん、移動教室でテンションが上がるタイプの同級生? みたいな感じか。
「あ、そう。それなら、まずは魔法のイメージをーー、ちょっとフィナ? 押さないでーー」
フィナに押されて、二人は玄関から出て行く。
彼女の四つめの魔法がいつ完成するのか、非常に楽しみーー。
「ちょっと! ハル! ハルがいないと魔法使えないから来て! 急いで!」
「フィナ! まだ魔法は使わない! イメージの共有から!」
扉の向こうから聞こえるフィナとクロエの声。
なんか、本当にこの家は賑やかになったな……。
ふと、自分のジャージのポケットから違和感を覚える。
左手で左ポケットを確認するとーー、そこには小さなメモが入っていた。
・アカリちゃんが盃を拾ってきたら受け取ってあげて
言葉の意味が全くわからないし、誰が入れたのかも不明だが……。
なんとなく、先ほど会った疾風の魔法使いのことを思い出した。
・
その日、バイトを終えた後の夜、フィナとクロエが部屋に籠った後、俺は1人で本を読んでいた。
本は、フィナが持ってきていた結界学の本。
読んでいる理由は、異世界の言語を学ぶためだ。
クロエに単語ごとに意味を教えてもらっているから、それを当てはめて行く作業。
異世界の言語はラテン語や英語に似た構文だ。
初めに主語、その次に動詞が基本形。
しかし、疑問を呈する文章ではこの二つが逆になる。動詞が先で名詞が後。
命令をする文章では、動詞のみになる。
英語の暗記よりもよっぽど楽しいから、最近の趣味になっている。
異世界の言語を言語学の本と照らして捉え、分析して行く作業。
単語の暗記と構文分析の二つを並行して行う。
もちろん、その単語が名詞なのか動詞なのか形容詞なのかも考えながらーー。
「やっぱり、勉強中だった」
クロエの声がしたので俺は顔を上げる。
彼女は夜だと言うのに、寝巻きのスウェット姿ではなく、いつもの黒色のワンピース姿。
そして、片手には何枚もの紙? を持っている。
「どうした? 眠れないのか?」
「いえ、伝えておきたいことがあって」
クロエはそう言うと、こたつ机を挟んで俺の真向かいに座る。
いつもはツーサイドアップにしている彼女の髪形が、寝る前だからか結ばれていない。
単純に黒髪ロングのクロエは新鮮だ。
「これを見て」
クロエは握っていた紙を見せてくる。
と、それはポスター、貼り紙のようで、俺は内容を見る。
・重要指名手配 忠犬の魔法使いアカリ
・生死を問わず、存在を視認したものは直ちに報告を。
・ゴシック調のファッションをして、一般人に擬態をしている。
・懸賞金 魔女狩り報酬(強) + 1億円
・発行 魔女狩り組織 黎明の支配
これは……まるで警察が張り出しているような目を引くポスター。
モノクロの写真に赤と黒の文字で重要指名手配と書かれている。
それが、色んな魔女狩り組織から発行されていた。
少々デザインは違えど、全て懸賞金は同額。
「アカリはこっちの世界でもやらかしているらしい。あの子の首には本当に懸賞金1億円がかかってる」
クロエは小さな声で、心配するようにそう言った。
次回の投稿予定日は4/22(水)です。




