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らめっこ それは禁じられた遊び

 審判も、ギャラリーもいない、ふたりきりの『らめっこ』。その勝敗は――。

負けず嫌いの女の子と、彼女がどうしても勝てない男の子のお話です。


 わたしが通っていた小学校に『らめっこ』というローカルな遊びがあった。

 にらめっこの変種なのだが、なぜ『に』が抜けていたのかはしらない。ルールは笑ったら負けという、にらめっこそのままのものである。

 違うところといえば、お互いに片手をまえに差し出し、もう片方の手で相手の掌をくすぐりあうという点。通常のにらめっこが変顔で笑わせるのにたいし、らめっこではこのくすぐり攻撃がメインになる。

 掌以外の場所に触ったら問答無用で反則負け。声に出して笑わなくても、顔をそらすなどしてこらえようとしたら、それも負け。審判がいて、このあたりのことは厳正に判断される。

 もうひとつのユニークな点は、負けた側がする罰ゲームである。ギャラリーであるクラスメートたちのまえで『らめぇ』と言いながらのけぞり、身をくねらせなければならないのだ。

 この罰ゲームを考えついたのは、たぶん男子だろうが、女子もけっこうノリノリでやっていたと思う。

 成長したいまでこそ、クールなんとかと呼ばれたりすることもあるわたしも、当時小学五年生のころは、口の悪い男子たちから『お面』と揶揄されるほどのポーカーフェイスで、この遊びにおける絶対王者の名をほしいままにしていたものだ。

 たしか、らめっこの男女対抗戦での勝率は、女子のほうが高かったはずだが、それもわたしがひとりで何勝も重ねた部分がおおきかったからのように思う。

 実際、ある時期まで、わたしは一度も負けたことがなかった。

 男子たちのなかには、わたしを笑わせようとやっきになり、くすぐりと同時に変顔もするという離れ業をやってのけたものもいたぐらいである。それでも、ギャラリーが爆笑しても、わたしがわれを忘れて噴き出したりすることはなかった。

 楽しくなかったわけではない。我慢強さが美徳だと信じていたのだ。

 あいつが、あの男子やってきたのは、そんな日々のなかのある日のことだった。

 転校生である。わたしの住んでいた町よりずっと都会からやってきたあいつは、またたくまにクラスの人気者になった。『らめっこ』にも当然のように参戦して、やがて男子の代表として、女子の絶対王者たるわたしへの挑戦権を獲得した。

 初対戦の結果は、おおかたの予想に反して、なんとわたしの惨敗だった。記録は開始二分二十秒ぐらいだったと思う。

 くすぐり攻撃に、笑わされてしまったわけではなかった。非常に納得のいかないことながら、なぜか途中で猛烈な恥ずかしさをおぼえ、つい顔をそむけてしまったのである。

 男女統一の絶対王者となったあいつに、そのご三回ほどは挑戦した気がする。だが、残念ながら一度たりとも勝つことはかなわなかった。罰ゲームとして、負けるたびにみんなのまえで『らめぇ』と言わされ、たいそう恥ずかしい思いもした。それでクラスが盛りあがったので、あながち悪い記憶ばかりでもないものの、屈辱感は消えなかった。

 そのらめっこであるが、あるとき突如、終息をむかえることとなった。教師に子供らしからぬ罰ゲームをともなった遊びだとバレてしまい、禁止令が発動されてしまったのである。

 さすがに、そこは素朴な小学生のこと。先生の命令は重い。結局『らめっこ』は復活することなく過去の遺物と化してしまったのだった。

 クラスのみんなにとって、これらはただの小学校時代のお馬鹿な思い出だったろう。しかし、あいつに勝てずに終わったという事実は、そのごのわたしの精神性に、それなりの影響を与えたという気がする。

 すくなくとも、中学に入るまでのあいだ、勉強とスポーツはかなりがんばった。あいつに、そちら方面で勝利してやろうと思ったからだ。

 もっとも、結果は散々なものだった。なにをやっても、あいつはわたしのうえを行ってしまうのである。

 いちおう、ときにはいくつかのテストで点数を上回ったこともなくはない。それでも、平均的には確実に負けてしまう。

 しかたないので、つぎにわたしは、人間力であいつを凌駕することを考えた。積極的にクラスメイトと交流し、六年生のときにはクラス委員もつとめた。ちなみにあいつは副委員だった。

 こんどは勝つ。そう思ったのに、これもダメだった。あいつはちいさなころから転校する機会が多かったらしく、あたらしい友だちをつくる技術に長けていたのだ。

 たとえ、こちらがクラスの子全員と友だちになろうと、むこうには他校の友だちがたくさんいる。しかも、友だちの友だちは友だちという謎の理論によって、芋づる式に友だちが増えていく。

 正直、すごすぎて同じ人間だと思えないほどだった。

 そんなあいつが、小学校を卒業する時期になって、ふたたび引っ越すことになった。

 県外の、遠い中学校に進学するのだという。

 最後まで、一度も勝てなかった。なにをやっても、どうがんばっても届かなかった。そのことが悲しくて、くやしくて、わたしは泣いた。

 春休みのあいだずっと部屋に引きこもり、布団を抱きしめて――そんなに多くもないあいつとの思い出を数えながら、いつまでも泣き続けた。



 中学生になったわたしは、あいつがいなくても、気を抜いたりはしなかった。

 勉強をがんばれば、成績があがる。周囲から尊敬のまなざしを向けてもらえる。やっかみの類もなくはないけれど、成功体験の多くは、わたしをポジティブにしてくれたと思う。それに、手を抜くのは、遠いどこかにいるあいつに負けた気がして嫌だった。

 ついでにいえば、そのころから、わたしは自分自身のもつ『価値』に気づきはじめた。

 校則で許可された範囲で容姿をととのえることを覚え、女であることを活用できる立ち居振る舞いも手にした。服装のセンスなどはそれなり以上だと自負しているし、顔だって美人なほうだと思っている。

 男子がわたしを見る視線も、もはや無愛想な『お面』へのものではなくなっていた。年頃の女全般にむける下卑たものだけではない。真剣な気持ちをぶつけられたことさえ、一度ならずあったのだ。

 こちらの気持ちがそこまで盛りあがらなかったので、色よい返事はしてこなかったものの、自分がそんなふうに思われること自体は、嬉しいと感じた。いまならば、あいつにだって勝てるかもしれない。わけもなく、そんなことを考えたりもした。

 そうこうしているうちにも、中学の三年間をつつがなく過ごし、高校へと進学することになった。

 近隣の、有名私立高校である。入学式のまえに、掲示板でクラスを確認して、あたらしい自分の教室に入った。その瞬間、全身が硬直した。

 同級生の男子たちのなかに、あいつの姿を見つけたのである。

 あとで聞いたところによると、あいつは中学二年のときに県内にもどってきていて、わたしとはべつの中学校に通っていたというだけのことだったらしい。もっとも、そんな背景の事情にはたいして意味がなかった。それはまぎれもなく、奇跡としか言いようのないできごとだったのだから。

 とにかく、ほんの一目すがたを見かけただけ。たったそれだけで、わたしはすぐにその男子がだれなのか気づき、体がかっと熱くなってしまったのである。

 いってしまえば、ただの久しぶりに会った幼なじみでしかない。この年で、いまさらそこまで意識するつもりもなかったのに、一度も勝てなかったあいつという存在は、自分で思っていた以上に重大なトラウマとなっていたのかもしれない。

 小学校卒業以来、三年かけてゆっくりと築き上げてきた自信もどこへやら。その場で泣き崩れてしまいそうになり、わたしはあわててトイレに駆けこまなければならなくなった。

 しばらく個室で気を落ち着けて、ようやく教室にもどると、どうやらあいつもわたしのことを思い出してくれたらしい。ホームルームでのいわゆる自己紹介の時間がおわってから、あたりまえのような顔で席に寄ってきて、気さくに話しかけてきた。

 わたしは、それにろくすっぽ応答することができなかった。なんという無様なことか、うつむいて、もじもじするのがやっとだったのである。

 こちらの失礼すぎる反応に、あいつはすこし困ったような顔をしはじめた。

 気まずい時間。やがて、あいつは友だちとおぼしき数人に呼ばれて、戻っていってしまったのだった。

 その翌日である。ひと晩かけて、わたしはなんとか矜持をとりもどし、ホームルームではクラス委員に立候補した。じつは、小学生のころのように、あいつが副委員になってくれるかのではと、ひそかに期待していたのだ。

 しかし、結局、パートナーはべつの男子に決まってしまった。そしてそのごは、あいつとの接点がほとんどなくなってしまった。

 入学初日の態度がひびいたのか、むこうから話しかけてくることもない。ただ、まれに目があうことがあり、そういう場合にはあいつが戸惑ったように目をそらすか、わたしがうつむくかということになってしまう。まるで、周囲に秘密のにらめっこをしているかのようだった。

 さて、一学期がおわり、二学期になると、わたしの周囲にもすっかりとあたらしい友だちが増えていた。クラス委員という立場も手伝って、わたしは女子数名のグループのリーダー的な存在になっていた。

 おこがましい言いかたかもしれないが、事実として、彼女たちはわたしを頼ってくれているし、相談に応じてアドバイスをかえし、うまくいったと聞けば、喜びを感じることもできる。日々の研鑽は、こういう部分でも生きてくるのだ。

 それでも、あいつには勝てないのだけれど。

 あいつの周囲には、わたしのグループ以上にたくさんの人間がいる。しかも、わたしのそばにいるのは女子だけなのに、あちらは男女がほぼ同数なのだ。

 もちろん、成績もスポーツも、どうしても届かない。そのころから、わたしは自室で、こっそり手に入れたあいつの写真にむかって、ひとり話しかけることが多くなった。

 絶対、つぎは負けないんだからね。そんなことをいって、写真のあいつを睨みつけていると、本人にたいしては決して言えないというもどかしさと惨めさに、胸がくるしくなってくる。

 そういうとき、わたしは小学校を卒業してあいつと別れたあのころのように、布団を抱きしめて泣いたりするのだった。



 いつしか、高一の二学期も、なかごろにさしかかっていた。

 ある日、近くにいた女子のひとりが『あなたって、いつも彼を見ているわね』と指摘してきた。わたしは一瞬、なにを言われたのか理解できず、ぼんやりとその女子の顔をながめることしかできなかった。

 おかしなことに、べつの女子もニヤニヤと笑いながら、同様のことを言ってきた。彼女たちはまたたくまにわたしを取り囲み、なぜ彼を見ているのかと、理由の説明をもとめてきた。

 彼とは、あいつのことだ。しかし、いつも見ているとはどういうことだろう。

 会話はほとんどしないし、席も離れている。授業中や休み時間に、ときおり視線をおくることはあるとしても、それだってほんとうにごくたまの話だ。十分に一回もしていない。

 写真なら、毎夜見ているといえばたしかに見ている。だけど、いくらなんでも彼女たちがそれを知っているとは思えない。

 つまり、これは彼女たちなりの冗談かなにかなのだろう。そう判断し、反論をこころみようとした。

 ところが、なぜかうまく口が動かなかった。自分でもわかるぐらい、しどろもどろになっている。

 そうしてあれこれと問い詰められていくうちに、わたしは自分があいつにたいして抱いているコンプレックス――なにをしても勝てないという気持ち――を吐露してしまった。

 きっかけの『らめっこ』については、なんとか伏せたものの、中学のころから、そういう気持ちで自分を磨いてきたことまで白状させられてしまったのである。

 ぜんぶ話し終わると、彼女たちは羞恥に身を震わせているわたしを放置して、なにごとか相談をしはじめた。

 声を伏せているので、内容まではわからない。ただ、笑い声がまじっているのはいただけないと思った。これではまるで、罰ゲームが決まるのを待たされているようなものだ。

 告白しましょう。

 相談のすえ、彼女たちの出した結論は、思いも寄らないものだった。

 恋仲になって、あいつがわたしに夢中になったところで手ひどく振ってやる。そうすればあいつは深く傷つき、わたしという女を心に刻みつけて一生忘れられなくなる。すなわち、勝利することができるというのだ。

 開いた口がふさがらなかった。いったい、彼女たちはなんということを考えるのだろうか。

 だが、こちらの抗弁はまったく通ることがなく、計画がなし崩し的に進捗しはじめた。あいつを呼び出す場所、その際に告げる愛の言葉。そんな重大なことが、わたしの意志に関わりなくすべて彼女たちの手によって決められていく。

 みんな、おかしい。そもそも前提からして。あいつがわたしを好きになってくれるはずがない。

 渋りながらそう駄々をこねると、彼女たちはわたしを背中から抱きしめたり、両頬に手を添えてじっと視線をあわせたりしながら、あなたなら大丈夫、きっと彼は好きになってくれると力強く言い切った。

 説得というより、これではほとんど圧力をかけられているようなものである。みんなの強引さに逆らえず、唯々諾々と呼び出しの手紙を書かされ、ついに決行の日を迎えてしまった。

 待ちあわせ場所は、校庭の池のほとりだった。

 そこであいつを待っているあいだ、頭のなかはぐちゃぐちゃだった。愛の告白とは、こんなにも緊張するものだったのか。中学のころに、あまりよく考えず、異性交遊に興味がないからといって断った男子たちには、ほんとうに申し訳ないことをした。いや、かといって受けてあげられたわけでもないのだけれど。

 しかし、いまさらながら、勝利するために愛の告白をするというのはどうなのだろう。わたしはあいつに負けたくないだけで、憎いわけではない。ほんとうに首尾よく好かれるかも怪しいものだが、そこを置いておくとしても、あとで振って傷つけることを目的に交際を求めるなんて、やり口が汚すぎる。どうせ勝つなら、もっと綺麗に正々堂々と勝ちたいではないか。

 だいたい、告白などというものは、好きで好きでどうしようもない相手にするものだろう。

 好きか嫌いか二択しかないならともかく、あいつと恋愛するなど、いまだかつて想像したこともない。わたしはただ、勝ちたいだけなのだ。

 もっと具体的にいえば、あいつに負けつづけているのがくやしくて、あいつの顔を見るたびに胸が苦しくて、あいつの声を聞くと体が熱くなって、あいつのことを考えるだけで涙が出てくる、それだけなのである。

 よし、やっぱりやめよう。今日はこれで帰ろう。あいつには悪いが、呼び出し場所にだれもいなければ、いたずらだと判断してくれるだろう。場をセッティングした彼女たちには、あすにでも、こういうことはしたくないときっぱりと告げよう。

 決心し、きびすを返しかけた。そのときだった。

「おまえだったんだな」

 あいつの声だった。とたんに、足が棒になった。ただ動かないだけではない。ぐらぐらと心もとなく、へたをしたら、その場で倒れてしまいそうな気がするほどだった。

「話があるって、この手紙。おまえが書いたんだよな?」

「う、うん」

 やっとの思いでそれだけを返し、押し黙った。みんなが用意してくれた愛の言葉など、すっかりとどこかに飛び去ってしまっていた。顔と体が熱くてしかたがない。

「その、さ。話ってなんだ?」

 面をあげて、返事をしようとした。なのに声がでない。ぱくぱくと、金魚のように口をあけ、閉める。いたたまれなくなって、また目を伏せる。いまから愛の告白をしなければならないのに。ずっと大好きでしたって、伝えなければならないのに。わたしはなにをやっているのだろう。

 なにがなんだか、もうわけがわからない。

「な、なあ」

 あいつが、一歩足をまえに出した。

 もう一度、顔をあげてあいつの顔を見た。目があった瞬間、いつぞやのように猛烈な恥ずかしさを覚えてうつむいた。おねがい、だれか助けて。この状況を演出した女子たちに、わたしは心のなかで救いをもとめた。

「勘違いかもだけどさ……。おまえ、俺のこと好きだろ?」

「ふぇ?」

 言っていることがよくわからず、視線だけをあげて、どうにかあいつの顔を見直した。

 来たばかりのときは気づかなかったが、あいつの耳から頬から、顔面全体に朱が差している。そして、なぜかすごく嬉しそうに笑っていた。

「い、いや、好きじゃなくてもいいんだ。そうだ、いまから好きになってくれ。俺、おまえのことが好きだ。俺の彼女になってくれ」

 言うがはやいか、いきなり抱きすくめられた。

 あいつの首のあたりに、わたしの鼻が当たっている。男の匂いがした。いい香りとも思えないのに、どこか癖になりそうな、ふしぎな匂い。そして、夜毎抱きしめる布団とは、まるで違う堅い感触と温度、意外な体の厚みに、なんとも言えない心地よさを味わった。

 どうやらいま、わたしはあいつから愛の告白をされているらしい。想定外の事態に、頭は混乱していたが、そんなのは最初からである。

 むしろ、どちらかといえば、きょとんとしていて真っ白な状態だったのかもしれない。考えがまとまらず、わたしはしまいになにもかもが億劫になって、あいつの体に全身をまかせることにした。

「……はい」

 自分の口から漏れた言葉が、他人の声のように聞こえる。思わず眠ってしまいそうな安らぎのなかで、わたしはあいつにしがみつく腕の力を強くした。



 あいつと恋人同士になって、二ヶ月ほどがすぎた。

 冬休みである。友人たちは、進展具合を尋ねてきたりすることはあっても、当初の計画――夢中にさせてからばっさりと振ってやる――にはまったく触れてこない。それでいいと、わたしは思っている。

 最近は、あいつに勝つことにたいして関心が薄くなってきているのだ。そんなことよりも、ふたりで美味しいものを食べたり、楽しく遊んだりできることのほうがよほど重要である。

 もうずっと、一生負け続けでもかまわない。あいつといっしょにいられるのなら。

 期末テストでは、冗談めかして競いあったりもしたが、わたしの内心はそんな感じだった。

 閑話休題。ふたりで映画を見たり、カラオケに行ったりして、長期休暇も終盤にさしかかったある日のこと。宿題をしにあいつの部屋を訪れた際、ちょっとした脱線から、むかしのアルバムを見せてもらうことになった。

 子供のころから引越し続きのあいつとはいえ、小学五・六年ごろの思い出はわたしと共通である。懐かしい話題の中心は、ふたりの馴れ初めと言ってもいい『らめっこ』だった。

 聞けば、あいつは当時、わたしがまるで笑わないのを見て、いじめられているのかと誤解していたらしい。のちに数回挑戦してきたのも、無理にやらされているのではと疑っていたようで、教師に申し出て『らめっこ』を禁止させるように仕向けたのは、なんとあいつだったのだという。

 当時から数えておよそ五年めに知った、その予想外すぎる真相に、わたしは思わずぽかんと口を開けた。

 いじめなどはなかったし、あの遊びは小五のころの自分にとってかなり好ましく、楽しいものだったのだ。

 やれやれとばかり、あいつにその旨を説明すると、話の流れで、ひとつ久しぶりにやってみようかということになった。

 審判も、ギャラリーもいない、ふたりきりの『らめっこ』。五年ごしのリベンジマッチは、しかし開始早々、びっくりするほどあっけなくわたしの勝利におわった。

 だれも見ていないのをいいことに、あいつが反則行為をしかけてきたのである。

 冒頭でも述べたとおり『らめっこ』のルール上、反則をしたものは問答無用で負けになる。つまり、どこからどうみても疑いようのない、わたしの初にして完全なる勝利だ。

 では、具体的にどのような反則をされたかというと……まあ、それは語らずにおこうか。ちなみに、負けたのはあいつなのに、罰ゲームはなぜかわたしが言わされることになった。やぁ、らめぇ、と。

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