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プロローグ

「で、金は出てるのか」


 髭の大男が、右腿に巻いた布を締め直した。


「出てねえよ」


 白い上着の男は、刀を下げずに答えた。手首に巻いた袖から血が落ち、石段に点を打っている。


「じゃあ、なんで残ってる」


 誰も答えなかった。

 訊いた男も返事を待たず、布の端を結び目へ押し込んだ。


 石段の上には、閉ざされた大門がある。

 その前で、人の肩に人の首が二つ載っていた。片方は笑い、もう片方は、五人の血を嗅ぐように鼻を動かしている。


 白い帽子の女が、大男の膝を見た。


「階段、下りられるかしらね。あんたの膝で」

「上りは平気だ」

「下りの話をしてるの」


 二つの顔が笑った。

 長い爪が持ち上がる。


 大男が先に石段へ足を掛けた。

 少年もその後に続き、下の段へ上がる。


『力で受けてはなりません』


 声は、手の中の刀からした。


「分かってる!」


 刃の緑が、降ってくる爪の側面を滑った。

 逸れた腕が石灯籠へ食い込み、石の笠がずれる。浮き上がった台座へ、女のブーツが掛かった。


 傾く石を蹴る。


『右を見て』


 宙へ跳んだ女の刀が言った。

 鼻を動かしていた顔が、口を開ける。


 女は帽子を押さえたまま体を捻った。歯が白い縁を掠め、金髪が数本ちぎれる。

 振り下ろした刃から琥珀の光が走り、鬼の胸を裂いた。


 石段の脇へ着地した女の足が、砂を蹴る。


 傷の奥で、黒い筋が動いていた。

 鬼はそこを左腕で覆い、女を右手で払う。伏せた帽子の上を爪が抜け、石灯籠の笠が落ちた。


 白い男が、砕けた石の手前で足を止める。

 深紅の刃を向けた先で、胸の裂け目が細くなっていった。


 砕けた石が、砂色の帽子を被った少年へ跳ねた。


『右じゃ!』


 少年の刀が怒鳴った。


「分かってる!」


 少年は左へ跳んだ。


『ならば、なぜ左へ跳ぶ!』

「右にあいつがいる!」


 その右で、金髪の男が肩から血を流していた。刀に巻いた紫の数珠が揺れている。


『切先を寝かせるな』


 少年は青白い刃を立て直した。

 白い男が、横目でそちらを見る。


「俺が繋がらなくする。そのあと、お前だ」

「首、二つあるぞ」

「まとめて斬れ」


 少年は鬼を見上げた。


「俺にできると思ってんのか」


 金髪の男が隣へ寄り、紫の数珠をつけた刀を持ち上げた。


「できなきゃ、俺もここで死ぬな」

「そういう言い方すんなよ」


 少年は足元を見た。

 血で濡れた段の縁から靴を離し、踏み込む足を前へ出した。


     *


 後に、天下五剣と呼ばれる五振の刀がある。


 その名を天下に轟かせたのは、五人の異国の無法者だった。

 彼らを雇った男に、歴史を作るつもりなどなかった。


 ただ、娘が心配だったのである。

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