↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末世界で自由になったおっさんの放浪記  作者: 一月三日 五郎
第十二章 九州編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
79/79

第77話:変わり始める旅

 ボーーーッ。


 体の芯に響く警笛の音に目が覚めた。


 ぼーっとする頭で眠い目をこすりながら身を起こすと目の前にアイがいた。


「うわっ、なんだよ。アイ。

 何かあったのか?」


「おはようございます。山田さん。

 着きましたよ」


「え!?もう着いたのか。

 早くないか?」


「早くはないです。時間通りですよ。

 それに、もうお昼ですから」


 カーテンを開けると窓から強烈な光が差し込んできた。

 外はすでに港で、ロボットたちが忙しなく動き回っていた。

 どうやら思いのほか長く寝てしまったようだ。


「しまったな。

 まだ全然船の中を見てないぞ。

 こんなことならラーメン食べてすぐ寝るんじゃなかったな……」


「心配しなくても船の中を見て回る時間はありますよ。

 少なくともフィリピンまでは船で行くんですから」


「そう言われればそうだな」


「それにこれから船の点検と整備をするので、しばらく鹿児島に停泊しますよ。

 それまでは鹿児島を観光するなり船を見て回るなり好きにしてください」


「そうか。

 じゃあ、どうしようかな。

 船の中はこれからいくらでも見られるし、観光の方がよさそうだな。

 鹿児島ってどこが有名なんだ?」


「桜島が一番有名でしょうね。

 行ってみますか?」


「そうだな。

 せっかくだし、行ってみよう」


 ※※※※※


 桜島に向かうため港でボートに乗り換えた。


 操縦席には背中に弐郎と書かれた船員服を着たロボットが鎮座していた。


「こいつが操縦するのかよ……。

 大丈夫なんだよな、アイ?」


「ご心配なく。

 ちゃんと私の指示通りに動きますから」


「それならいいんだけど。

 なんか落ち着かないな」


「心配しすぎですよ。

 見た目は変わり映えしませんが、中身は別物です。

 壱郎の働きぶりは見たでしょう?」


「見たけど、だからってすぐ安心できるわけじゃないよ。

 そんなに簡単に切り替えられるもんじゃない」


 自分を襲ったやつが改心したと言われてもそう簡単には心の整理がつかない。

 頭では安全だとわかっているが、どうしても体が身構えてしまうのだ。


「まあ、ナンバーズについては徐々に慣れてもらうしかないですね。

 余力ができたら外装も含めて改修する予定です」


「そこまでしなくても、そのうち慣れると思うけどな」


「印象を良くするのもそうですが、もう少しいろいろな作業を任せられるようにしようと思っているんですよ。

 今のパーツではできない作業が多いですからね。

 いまのところ料理を運んだり、船を操縦したりするぐらいならできそうですが」


 なるほど。


 それでいろいろやらせてみて性能を確認しているというわけか。


 他の連中も今頃どこかで違う作業をやらされているのだろう。


 シェルターでの警備という安定した仕事から配置換えされ、

 慣れない現場で悪戦苦闘する様子を想像すると、少しだけあわれに思えた。


 まあ、俺を殺しかけた連中なので同情するほどではない。


 せいぜい外の世界で見聞を広めて、柔軟性を身につけてほしいものだ。


「間もなく桜島に到着します。

 少し揺れますので手すりにつかまってください」


 自分の処遇について話していることには触れず、弐郎がアナウンスした。


 こいつら仕事に対しては妙に真面目なんだよな。


 元からなのかアイが改修したからなのかはわからない。


 まあ、そういうところは評価してもいいか。


 ※※※※※


 ボートから降りると、硫黄の匂いが鼻腔をくすぐった。


 目の前にそびえたつ桜島は、人類が消えた今も変わらず存在し続けていた。

 山頂からは白い噴煙がゆっくりと立ち上がり青い空に溶けていた。


「凄いな。今も煙が出てるんだな」


「活火山ですからね」


「……突然、大噴火したりしないよな?」


「噴火自体はいつ起きてもおかしくありませんよ。

 ただ、大規模な噴火につながるような変化は今のところ確認できません。

 火山活動の観測データも継続して確認しています」


「そうか。

 でも念のため、海沿いだけ見て回ることにしようかな。

 万が一でも噴石とかに当たりたくないし」


「それがいいでしょう。

 小規模な噴火ならともかく、今の山田さんにわざわざ火口へ近づく理由はありませんからね。

 火口を見に行こうと言われていたら殴ってでも止めるところでした」


「それはやり過ぎだろ。

 まず説得しろよ」


「場合によっては暴力も必要です。

 山田さんは一度決めたらそう簡単に考えを変えませんからね」


「そんなことないだろ」


「ありますよ。

 現に旅を止めようとしないじゃないですか。

 普通ならどこか安全な場所に定住して快適な拠点建築にいそしむはずですよ。

 間違っても地球の裏まで観光に行こうとはしないはずです」


 結局、それだ。

 もうそれだけで何が俺にとって大事なのかを物語っている。

 自分では融通の利くほうだと思っているが、譲れない一線は確かにある。


「いや、それはそうだけど。

 それ以外はお前の言うことを聞いてるだろ」


「それは山田さんにとってどうでもいいことだからでしょう?

 北海道ルートから行くにしろ、フィリピン経由で行くにしろ、マチュピチュに着けばいいからです。

 あなたはそういう人ですよ」


「……そうかもな」


 言われてみれば否定できない。

 旅の途中でアイと揉めたことは何度もある。

 だが、旅自体を諦めようと思ったことは一度もなかった。

 そしてそれを促されたこともなかった。


「否定しているように聞こえたかもしれませんが、別にそれはそれで構いません。

 ただし、命の危険があるような行為は別です。

 本筋でないところで無駄に危険なことをする必要はありませんからね」


「わかってるよ。その辺は俺も気を付ける。

 別に刺激を求めて危険なことをしたいわけじゃないからな」


 砂を蹴飛ばしながら海岸を歩く。


 湘南の砂浜とは違って、足元には少し黒いものが混じっている気がした。


 ごつごつした黒っぽい石も落ちている。


 拾い上げて水切りをするように海に向かって投げたが、跳ねもせずにボチャンと水しぶきを上げた。


 もっといい石はないかと平べったい石を探したが見つからなかった。


 それでも諦めず、石を見つけては海に投げるのをしばらく繰り返した。


 海に向かって石を投げるという無意味な行為。


 Tシャツは汗で肌に張り付き、足元は砂まみれだ。


 夏の日差しに焼かれた砂は、ビーチサンダル越しでもわかるほど熱かった。


 波打ち際を歩けば、熱くなった足が波で洗われ冷たくて気持ちいい。


「やっぱ夏は海だな」


 インドア派な俺だがアウトドアなアクティビティが嫌いというわけではない。


 ただきっかけがなければなかなか行動に移せないだけだ。


 そして今は強制してくる奴も、誘ってくれる誰かもいない。


 俺にとってのMプロジェクトというのは、つまりは自分を外に連れ出すための口実なのだ。


「山田さん。そろそろ戻りましょう」


「え、もうそんな時間か?

 まだ全然明るいけど」


 日は傾いてきているが、まだ沈みかけてもいない。

 腹の減り具合から考えても晩飯まではまだ時間があるはずだった。


「戻りの時間を忘れてませんか?

 その辺で適当に泊まるならともかく、そろそろ戻らないと真っ暗になりますよ」


「そういうことか。

 確かに夜の海を戻るのは避けたいな。

 よしすぐ戻ろう」


「承知しました。

 こういった判断にも慣れていかないといけないですね。

 これからはキャンピングカーまで簡単に戻れない場所で行動することも増えるでしょうから」


「……確かに。

 今までと同じような感覚で行動してたら野宿する羽目になりそうだな」


「そうですよ。

 今のようにTシャツと短パンにサンダルだけで気軽に出歩けるのも今のうちです」


「……終末世界のチュートリアルもじきに終わりってことか」


「妙な例えですがその通りです。

 いよいよ本編スタートですね」


「……俺をプレイヤーみたいに言うな!」


 だいたいチュートリアルだけで何年やってるんだって話だ。


 いくらなんでも長すぎるだろう。


 ゲームだったらとっくにスキップボタンを探しているレベルだ。


 おかしな話だがこれが現実でよかった。


 ゲームと違って、別に急いでクリアする必要はないのだから。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

面白かったら、ブックマークや評価をいただけると、執筆の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。