↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】過労聖女は追放をお望みです!~寡黙な護衛騎士がついて来る、なんて困ります!~【連載版】  作者: 出口もぐら
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
32/32

30話 私なりの『聖女』のカタチ

 薄っすらと光を感じて、瞼を開ける。意識が覚醒すると、私はベッドに寝かされていることに気付く。

 どうやらガルヴィンに抱き留められた後、意識を失ってしまったようだ。――パンを食べ損ねた。という感情が真っ先に出る時点で、私は健康らしい。


 ゆっくりと体を起こすと、ここは大先生の診療所。見慣れた病床だ。――どうして私が病床に寝かされているのか、と血の気が引いた。ここは患者のためのベッドだ。

 私は慌てて飛び起きようとした。しかし――、それを(いさ)める声が病室に響く。


「病人は寝てな!」

「だ、大先生……!?」


 体を起こしたところで、ぴたりと止まった。なんと、鋭い声を飛ばしたのは大先生だったのだ。

 彼女は病室の出入り口で腕組みをして佇んでいる。私が完全に目を覚ましたのだと理解すると、大先生は現状を語ってくれた。


「小僧がお前さんを抱きかかえながら、血相を変えて飛び込んで来てね。瘴気を浄化した反動で凄まじく疲弊したんだろう。――お前さんは、よくやったよ」

「…………大先生」


 彼女が初めて口にした称賛。私は感無量とばかりに、その言葉を噛み締めたのだった。

 すると、大先生はにやりと口元を上げて、告げた言葉があった。


「幸い、お前さんの聖女の力は枯れていないようだ」

「えっ……それはどういう?」

「ほれ」


 大先生が指したのは私の髪。私は窓にうっすら反射する自分の姿を見た。

 

 染めていたはずの髪は、すっかり銀髪に戻ってしまっていた。 最大限、聖女の力を振るったことで、髪色にも影響したようだ。――幸いにも、私の聖女の力は()()()()()()

 ただし、今の状態ではかすり傷ひとつ直すのに精いっぱい。重度の疲労感に見舞われ、膝を地面に着いたとき、擦りむいた膝の傷を半分しか治せなかった。――聖女の力は本当に「泉」のようなのだと、今回のことで理解が深まったのだった。


 大先生はにんまりと笑うと、こう告げた。


「ま、せいぜい役に立ってもらおうかね。今後はもっと薬草の収穫量も増やさないと」

「んげっ!」


 あからさまに「嫌だ」という声を上げた私に、大先生は「元気そうだ」と冗談めかして言ってのける。それから「まだじっとしてな。食事を持って来てやる」とだけ告げて、部屋を出て行った。――ぐぅ、という腹の虫の音が大先生を見送った。



 次に訪ねて来たのはエリオット様だった。


「シャリアさん、体調はどうでしょう?」

「わっ……エリオット様」

「これは――、お食事中に失礼しました」


 謝罪を口にしながらも、悪びれる様子は微塵もないエリオット様。それどころかベッド脇まで足を進め、私が食事の手を止めるのを待っている。――なんともタイミングの悪い王子だ。辟易とした目で見やるも、彼に効果はない。

 エリオット様は笑みを絶やさず、口を開いた。


「僕からお願いがあるのです」


 どこかで聞いたことのある語り口だ。

 私はパンを無理やり飲み込み、すまし顔で頷いた。


「むぐっ、聞くだけ聞きましょう」

「おや……? 初対面のときとはまるで違いますね」

「ま、まぁ……私も色々と考えまして」


 意外そうな反応を示したエリオット様。なかなか失礼だと思う。――今回のことで、私も考えを改めた部分があったのだ。ただ、善意だけで聖女としての役目を果たす訳ではない。

 私は大きく声を上げた。


「ただし、条件があります! こちらが提示する条件を呑んでいただけるのであれば、()()()()()協力いたします」

「それは、一体――」


 エリオット様はごくりと息を吞む。――しばらくの時間、交渉が行われた。一国の王子相手に交渉なんて、我ながら肝が据わっていると思う。けれど、私が望む平穏を手に入れるためだ。妥協する訳にはいかない。


 交渉を終えると、エリオット様は大きく頷いた。


「分かりました。相応の立場に見合った処遇と、あなたの騎士(シュヴァリエ)にも」

「ただし、私たちは、民衆に正体を明かしません」

「ええ。あなたの意向に沿います。また、正式な()()は後ほど」


 交渉成立だ。私は満足して、うんうんと何度も頷いた。

 エリオット様は「ゆっくり体を休めてください」と気遣いの言葉を残し、病室を後にしたのだった。



 それから――、最後に病室を訪れたのはガルヴィンだった。てっきり、真っ先に顔を出すものだと思っていた。彼なりに気を遣ったようだ。

 ガルヴィンはベッド脇に用意された椅子へ腰かけ、しばらく私の話を聞いていた。――大先生から褒められたこと。エリオット様との交渉。今後どうするのか、私の考え。

 ガルヴィンは全てを聞き終えると、一度だけ大きく頷いた。そうして、そっと口を開く。


「シャリア」

「なぁに?」


 名を呼ばれた私は、軽く首を傾げた。彼の真剣な眼差しに射抜かれる。

 ガルヴィンはそのまま言葉を続けた。


「言い忘れていたが、用心棒の報酬の件」

「あっ……」

「忘れていたな?」

「そ、そんなことないわよ!?」


 慌てて言い直した私。けれど、ガルヴィンには見抜かれているようだ。彼は「仕方ないな」と言わんばかりに、肩をすくめている。


 用心棒の報酬――あの国を追放されたとき、私がガルヴィンに出した条件だ。用心棒としてなら私に着いて来てもいい、というものだった。

 ガルヴィンはその報酬をこれまで決めていなかったし、求めてもいなかった。まさか、交渉材料として残していただなんて――。思いを通わせてから、すっかり記憶の彼方へ追いやっていた自分を恨む。さらに、どうして今さら、報酬の話を持ち出したのだろう、と首を傾げた。


 ガルヴィンは私を見つめながら、まるで神に誓うように告げた。


「騎士として、伴侶として――君の隣に立つ権利を貰い受けたい」


 一瞬、私は自分の耳を疑った。騎士として、という部分は理解できた。エリオット様との交渉で私が聖女のお役目を担う話をしたから、ガルヴィンはこれまでと同じように聖女の護衛騎士として、その役目を申し出てくれたのだろう。

 けれど――、重要なのはその先の言葉だ。私は挙動不審になりながら、同じ言葉を繰り返す。


「は、伴侶……!?」

「そうだ。聖女の誓いを交わしただろう?」


 これは報酬を盾にした、結婚の申し込みだ。何それ、初耳なんだけど。という、私の心の声は告げることなく呑み込んだ。――ガルヴィンの強かな笑みが私の胸を貫く。不本意ながら、心臓がドキドキする。


 そこで思い出したことがあった。――あれだ。あのとき、私がガルヴィンの拳にキスをしたやつだ。聖女の誓い。彼に私の命を預ける、すなわち生涯を共にするという意味を持つ。意外にもガルヴィンの狡猾な一面を見たものだ。


 私の返事がないことに、ガルヴィンは不安を覚えたのだろうか。徐々に彼の表情は捨てられた子犬のような、庇護欲をそそられるものに変わっていく。

 私は耐え切れず、わっと声を上げた。


「わ、分かったから、そんな顔しないでよ……! 弱いから!」

「そうか。シャリアは俺に弱いのか」


 ぐうの音も出ない。寡黙だと思っていた彼の表情が、実は豊かなのだと気付いたら、感情を揺さぶられるに決まっている。

 私が言い返せないのをいいことに、ガルヴィンはしれっと答えを急かす。


「それで?」

「うっ、う……末永く、お願いします……」

「あぁ、もちろんだ」


 とびきりの笑顔を浮かべたガルヴィンが、とても眩しかった。

 ――かく言う私は、顔に集まる熱を誤魔化すのに精一杯だった。



 * * *


 それから、しばらく時が経ち――。聖堂に響く、女性の声。


「聖女さま! どちらにいらっしゃるのですか!?」


 それを耳にした私はガルヴィンに、声を出さないよう身振り手振りで合図を送る。

 ここは町中にある教会――と言っても、管理はエリオット様の管轄だ。私は顔を覆っていたベールを取り払い、素顔を露わにした。すると、ガルヴィンが小さく声を発する。


「シャリア。侍女が君を探している」

「いいのよ。今日は大先生の診療所に顔を出すって、あらかじめ伝えておいたから」


 そう、私が提示した条件。私とガルヴィンの正体を民に明かさないこと。診療所で大先生の弟子を続けること。

 だから、正体がバレてしまっては元も子もない。聖女として民の前で姿を現すのは、大事な式典といった公務のときだけだ。――この国では聖女が平和の象徴として扱われるらしい。


 この町で私たちの正体を知るのは大先生と、エリオット様が使わせた侍女の彼女だけ。

 今の私は聖女、休職中。――聖女の力は「泉」が水を貯えるように、癒しの力を補充する時間が必要だ。それが療養であったり、美味しい食事であったり。とにかく私の心身のバランスが大切なのだ。


 私はガルヴィンに声を掛ける。


「服も適当でいいわよ。薬草を摘みに行くんだから、どうせ土で汚れるもの」

「分かった」


 そう告げて、私は聖女らしい衣装を脱ぎ捨てた。あらかじめ、聖女の衣装の下にいつもの自分の服を着こんでおいたのだ。――さっと、ガルヴィンが視線を逸らしたことは気にしないでおこう。


 私はこっそり裏口から教会を出る。空は晴天、空気が澄んでいて気持ちがいい。目一杯伸びをして、私は元気よく声を上げた。


「行くわよ、ガルヴィン! 早く行かないと大先生のお小言の餌食よ」

「ああ。善処しよう」


 二人で駆け出した診療所への道のり。――ガルヴィンと一緒に薬草を収穫するのが楽しみだ。

 風に揺られる薬草とその香りを想像して、私は高まる期待に胸を膨らませたのだった。


【了】


ここまでご覧いただき、ありがとうございました!

他作品の書籍化作業の傍らコツコツと10万字を書き進め、ようやく公開までこぎ着けたました。いやぁ、孤独でした。書いたら早く投稿したい性分なのですが、それをぐっと抑えました。偉い。


このお話は元々短編でした。ヒーローは寡黙な護衛騎士、でも好きな人の表情の変化が分かっちゃうってヒロイン可愛いよね!という私の「好き」を詰め込んだ結果、こうなりました。そして、最後にはそんな寡黙な彼も感情をさらけ出して思いっきり笑っちゃう、という……これまた性癖デパート。

ひとまず、シャリアとガルヴィンの物語は終わりを迎えましたが、瘴気の問題は残っています。

気が向けば、また彼らの恋愛と冒険を書いてみたいですね。


完結まで読んで下さった、そこのお方!

もしよろしければ、評価★★★★★や感想、レビューなどをいただければ、今後の励みになります!


他にも、異世界ファンタジー恋愛の短編・長編(筋トレ令嬢や継母になった令嬢など個性的です)を書いています! そちらもご覧いただければ、嬉しいです^^

これからも出口もぐらの作品たちをよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。