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99 マグネタイト


上空から見た景色は、先ほどとはまた違う顔を見せた。

左の草原には、ヒポグリフが群をなして駆け回り、右の岩肌には幾つも穴が開いており、そこから鉱石を運び出すドワーフが確認できる。


「ロックジョーさんは塔って言ってたけど、塔には見えないよな」


「柱に見えるが、どこから入るのじゃ?」


正面の黒の巨塔は円柱状で、地上と天井に繋がっていて、巨大な柱のように佇んでいる。それもあって、入り口らしき物はどこにも見当たらなかった。


塔の麓には小屋があり、2頭のヒポグリフが繋がれている。


「ヒッポちゃんじゃ!あの付近に入り口があるのじゃな」


ポーラはそこを指差すが、ヒポグリフは反対に天井に向かい上昇を始めた。


「あれか!」


天井から少し下に、長方形の横穴が開いている。

ゼンジの言葉通り、ヒポグリフはその横穴に向かって行った。

入り口には足場となる出っ張りがあり、3頭はそこに着地した。


「ヒッポちゃん、ここで待っててくださいね」


『ギュォン』


落ち着きを取り戻したポーラは、喋り方も戻っていた。


ヒポグリフから降りた一行は、内部に足を踏み入れた。


「マジか……」


黒の巨塔の内部も、正方形の部屋だった。

違いは、床が銀色に輝いている事と、中央に低い円卓が設置してある事だった。


「ゼンジ!指輪が浮くのじゃ!」


喋り方は一瞬で変わった。

ポーラは右手を上げて、フワフワと浮き始めていた。


『ゼンジ!助けて!』


メロンは頭を下にして、指輪を胸の前で握りしめ、必死に翼と両足を動かしている。


「メロン!」


ゼンジはメロンに手を伸ばし引き寄せると、両腕でしっかりと抱きしめた。


「はぁ。やはりぬいぐるみが喋ってますね。彼女の能力にしては不自然ですが」


リズベスは、曲げた人差し指の側面を顎に当て、切長の目をさらに細めて、ひとりごつ。


「ここはマグネタイトの天井に一番近い場所だ。指輪程度ならそのまま進めるが、外す事をお勧めする」


「妾は平気じゃ。それよりも急いで下るのじゃ」


「ここには下る階段はない」


「どう言う事ですか!入り口の他に穴は無いですよ!下りが無いなら上るんですか?」


しかし穴はおろか、上へと続く階段らしき物は見当たらない。


「ガッハッハ。座れ!そしてしっかり捕まってろ」


ロックジョーは、笑いながら円卓に腰掛けた。


「どうしてですか?」


ゼンジはリズベスに助けを求めた。


「はぁ。掻い摘んで説明すると、ロックジョーさんが言ったことが全てです」


そう言うと、リズベスもロックジョーの隣に座った。その隣には、ちゃっかりポーラが座っている。


「あーもう!ダンバールさん!どうすれば良いんですか!」


説明を面倒臭がる2人は諦め、ダンバールに助け舟を求める。


「このフロア全体の天井はマグネタイト。全ての金属を引き寄せる。ここまでは理解しているな?」


「はい。だから金属の指輪が引き寄せられるんでしょ。早くここから移動しないと」


ゼンジは、メロンごと浮き上がろうとする体を、円卓の縁にしがみついて耐えている。


「待つんだ。待つしか無い。ここの床は、不純物の無い高純度のミスリルで出来ている。今は引き寄せられている状態で止まっているが、間もなく天井のマグネタイトが、街から吸い上げた不純物により、一時機能を停止する」


「まさか……」


「そうだ。そろそろ時間のようだ」


ダンバールがゼンジの隣に座った途端に、メロンとポーラの指輪が浮力を失った。


「ひっ……」


一瞬の浮遊感の後、突然、床が落下し始めた。


「キャァァァ!落ちるのじゃぁぁぁぁ!」


床はグングン落下速度を上げる。


「うわぁぁぁぁ!」


「ガッハッハ。口は閉じてろ。舌を噛むぞ」


「いやぁぁぁぁ!!まだ落ちるのじゃぁぁぁ」


「このまま最下層まで一気に移動するんだ」


「ダンバールさん!移動と言うより、落下してますよぉぉぉ!これ、どうやって止まるんですかぁぁぁぁぁ!」


『イヤだぁ!もう落ちたくない〜!』


落下中に突然メロンが暴れ出した


「ダメだメロン!落ち着け!」


メロンが、ゼンジの手を擦り抜けて空中に放り出された。

しかし自由落下中のゼンジたちと同様に、メロンも同じ速度で落ちて行く。

目の前で止まっているようなメロンに、ゼンジは急いで手を伸ばすが、目を瞑り、耳を押さえるメロンは、翼を羽ばたかせてしまった。

それにより、フワリと浮かんだメロンには届かず、ゼンジの手は空を切った。


「メロン!こっちを見ろ!手を伸ばせ!」


更に羽ばたくメロンには手が届かず、距離が徐々に離れてしまう。


「ダメじゃ!メロンちゃん!戻るのじゃ!」


しかしメロンは、両手で耳を塞いでいる為、2人の声も届かず、あっという間に上に遠ざかって行く。


「メロンちゃんが!メロンちゃんが!」


しかし、永遠とも感じられる時間が、唐突に終わりを迎える。


「メロんぐっ」


落下速度が急激に遅くなり、激しいGが全身を襲う。


「ゔゔゔ……」


そして体を押さえつけるGが緩まると、フロアの落下も止まった。


「ぐうっ!舌噛んだ」


「着いたぞ。急いで出るんだ」


ダンバールは、目の前に現れた縦穴に向かい始めた。ロックジョーとリズベスも続いた。

前屈みになっていたゼンジは、顔を上げて叫んだ。


「メロぶっ!」


その時顔面にメロンが落ちてきた。


『イヤだ!落ちるの怖い!落ちるの怖い!』


メロンは、目を瞑ったまま翼を羽ばたかせ、ゼンジの顔にしがみついている。


「良かった!メロンちゃん怪我はないか!」


ポーラは、メロンをゼンジの顔から無理矢理引き剥がそうとした。


「痛い!ポーラやめてくれ!顔がとれる!」


「えいっ!可哀想に。嫌な思い出が蘇ったのじゃな。怖かったなぁ」


ポーラは力を込めてゼンジから引き剥がし、メロンを抱きしめて、背中を優しくさすり始めた。

その隣では、ゼンジは顔を押さえて悶絶している。


「ポーラ!強引に取るなよ!」


ゼンジの顔には、猫に引っ掻かれたような爪痕が残っていた。


「何しておるじゃ!ぬいぐるみに引っ掻かれたくらいで、傷など作るのではない!大袈裟じゃ!」


「はぁ!?喋り方!」


「傷を治して欲しいなら、メロンちゃんに謝ってください!」


「なっ!嘘だろ……俺が悪いのか?ごめんメロン」


『気にするな。落ちるのは誰でも怖いもんだよ。ウルトラヒール』


メロンは両手をゼンジに向け、回復呪文を唱えた。爪痕は消えるように無くなった。


「何か腑に落ちないな……落ちてきたんだけども」


「何をしている!早く来い」


ダンバールは、縦穴の向こう側から座ったままの2人を呼んだ。


「か、体がおかしい」


「フワフワするのじゃ」


急激な重力の変化により、ゼンジとポーラは覚束ない足取りで出口を目指した。


外に出たロックジョーは、腕を組んだまま大声で笑っている。


「ガッハッハ。もっと急げ!天辺まで引き戻されるぞ!」


「えっ!」


「何故それをもっと早う言わんのじゃ!」


2人が慌てて走り出すのと同時に、床が上昇を始めた。


「間に合わんのじゃ!あっ!」


思うように体が動かせないポーラは、足がもつれて転んでしまった。

そして縦穴が急激に小さくなり始めた。


「バレットタイム!」


ゼンジ以外の時間が、止まったように遅くなる。


「間に合ってくれ!」


転ぶ寸前の空中で止まったポーラを抱き抱えて、出口に向けてヘッドスライディングをした。

ギリギリの所で出口を通過したゼンジたちは、今度は地面に向かって落下を始めた。


「うわぁ!やばい地面にぶつかる!」


「はぁ。これはどう言う事かしら」


バレットタイム中に、リズベスがゆっくりと動き出し、落下位置にロックジョーを押し倒した。

そこでバレットタイムが終わり、周りの動きが加速した。


「ガッハッハ。どうして俺は横になっているん…だ!」


ロックジョーはゼンジとポーラを受け止めた。


「ありがとうロックジョーさん」


「た、助かったのじゃ」


「ガッハッハ。楽しめたか」


「最初にチュートリアルが必要ですって」


無事、最下層に着いた一行はダンバールの後に続き、縦穴と同じ形状のトンネルを奥に進んだ。


「はぁ。あれは神速?ちょっと違うわね。私も遅くなった?不思議な感覚だった……」


リズベスは縦穴を見つめて、1人呟いていた。


『この気配は……まさか……』


「メロンちゃんどうしたのじゃ」


『何でもないよ』


しかしメロンは、そんなはずはないと誰にも聞こえない声で呟いた。


「何だか暑いですね。それにまだフワフワする」


ゼンジは額を流れる汗を拭った。

その時地面が大きく揺れた。


「何だ!地震か?」


「崩れるのじゃ!逃げるのじゃ!」


「ただの地震れだ。この最下層は、ファビリオン火山の真下にある聖なる空間だ。長老もいらっしゃる。くれぐれも粗相のないようにな」


ダンバールは、ゼンジとポーラに言い聞かせるように2人を交互に見た後に、短いトンネルを抜けた。


「火山の真下?だとしたら、このくらいの暑さじゃ済まないだろ?」


ゼンジも恐る恐るトンネルを抜けた。そこには一本道の先に、円形の岩が迫り上がったフロアがあった。直径10メートルほどのフロアの周囲には、辺り一面、真っ赤なマグマが、ボコボコと煮えたぎり流動している。


「マグマ溜まりか!?だとすると、我慢出来るこの暑さはおかしい!」


目の前にマグマがあるのに、汗をかく程度の暑さに疑問を持った。


「赤鳥様の加護だ」


一本道の前を歩くダンバールが、振り向かずに答えた。


「ガッハッハ。しかしその加護も薄れているな。揺れが酷くなっている」


『ピュルルル』


どこからともなく、可愛らしい鳴き声が聞こえた。


「この声の主じゃな?」


「ガッハッハ。生まれたばかりなのに元気が良いな」


ロックジョーは、煮えたぎるマグマを見下ろしている。それに釣られて、ゼンジもマグマに視線を向けた。

そこにはまるで、白鳥が湖に浮かぶかの如く、小さな白い鳥が浮いていた。



(女神様、こちら自衛官、

転移の次は落下です!フリーフォールです!次は何ですか?バンジージャンプですか?どうぞ)

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