ごめんね
「シノ」
もう一度、彼女の名前を呼ぶ。
恐る恐る俺を見上げてくる彼女に、先程俺に謝罪した彼女に、言わなくてはいけないことがある。
「ごめん」
俺の口から出たのは、謝罪の言葉だった。
少しの言い訳も、なんに対しての謝罪なのかの説明もない、ただの『ごめん』。
この謝罪には、様々な意味が込められている。
そのすべてをシノが理解してくれるとは思わない。だけど俺は、謝りたかった。
謝ることで自分だけスッキリしたいだとか、そんな事は少しも考えちゃいない。
ただ俺は……俺は……
「どうしてそんな……泣きそうな顔をして謝るんだ?」
シノの顔もまた、悲しそうで、今にも泣きだしてしまいそうで……
「サクラは何も悪くない。悪いのは……ボクだ」
「………シノ」
呼びかけるが、彼女の言葉は止まらない。
「サクラの気持ちも考えないで、勝手に押し付けて、勝手に期待して……。ボクがサクラに助けてもらったから、『サクラは皆をたすける人』なんだって……勝手な理想を作って……。ーーーサクラ!ごめっ……」
「シノ」
彼女の名前を呼び、彼女の手を取り、その謝罪を止める。
「ーーーっ!」
急に手を取られた為、シノはビクッと、肩を震わせる。だけど、すぐに落ち着いてくれた。
俺にだけ恐怖を覚えないシノが、たまらなく可愛らしい。
そしてそんなシノに、伝えなくてはいけない事がある。
「俺、アイラを助けに行くよ」
「………え?」
シノから漏れたのは、困惑の声と表情。
嬉しそうな。だけど、どこか悲しそうな。
「俺は俺の意志で、俺の為にアイラを救いにいく。俺はシノが言うような人じゃない。だけど……アイラを救いに行くよ」
そうだ。アイルが教えてくれた。
誰かの為じゃなく、自分の為に行くんだ。
「………サクラは、本当にそれでいいのか?」
「あぁ」
俺がアイラを救うことを望んでいたくせに、シノは問うてくる。
そして、俺の答えを聞くと……
『ぽふっ』っと体重を預け、俺の胸に顔を埋めてきた。
その行動に驚きはしたが、黙って受け入れる。
「………本当に行っちゃうのか?」
尚もシノが問うてくる。
シノは俺に、アイラを救ってほしいのでは無いのか?
「……いくよ」
「本当に本当に、本当に行っちゃうのか?」
「もう決めたんだ」
シノは埋めていた顔を上げ、力強く頷く俺を見た。
「全部全部、サクラが初めてだったんだ」
俺を見上げるその瞳が、わずかに潤んでいく。
「触れていて怖くない人も、もっと一緒にいたいと思えた人も、ーーーボクに優しくしてくれた人も」
だが、その涙が流れることはない。シノは片手でゴシゴシと涙を拭い、必死に何かをこらえる。
「名前のないボクに『シノ』って名前をつけてくれた。何度も何度も呼んでくれた。危ないときは守ってくれたし、辛い事は『はんぶんこ』してくれた。ボクはそんなサクラが……大好きだ」
わずかに頬を赤らめるシノ。
「第四勇者に攻撃を当てるのは大変な事だ。それに、失敗したらサクラは死んじゃう。……サクラが死んじゃうのは絶対に嫌だ。だけど……」
そこでシノは俯いてしまう。そして、もう一度力強く俺の体を抱きしめた。
数秒の後、震える声を吐き出す。
「ボクに優しくしてくれたその手で、他の誰かを救ってほしい。他の誰かを笑顔にしてほしい。サクラは、それが出来る人だから……いっぱいいっぱい、誰かを助けられる人だから……」
段々と声の震えが大きくなっていく。
泣かないように、俺を不安にさせないように頑張ってきたシノであったが、とうとう限界が来てしまう。
「だけど……サクラが危ない目に合うのは……イヤだ。…………サクラが死んじゃうのは………イヤだよぉ……」




