表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界の為に死んでくれ  作者: ソラ子
第四章 6番目の勇者
82/229

被虐の巫女

それは昔、遠い遠い昔の物語。


木々が生い茂る、命溢れた星の物語。


たくさんの動物と、たくさんの人が生きる世界の物語。


……その世界は笑顔が溢れていました。人々はいつも笑顔で、手を取り合って生きていました。


みんなの心の中に『光』があったのです。


……ですが突然。その時は突然やってきてしまいました。


"謎の病"が世界中に広がり、みんなの心の中に影を落としてしまったのです。


その病のことは何もわかりません。なぜ世界中に広がったのか、どうすれば治るのか。


わかっているのは、その病にかかると『必ず死んでしまう』と言うことです。


その病に犯された者は、首に短い『(いばら)』の様な(あざ)が現れます。


その『茨』はゆっくりと、首を周るように伸びていき、ちょうど一周すると、その人は死んでしまうのです。


『茨の呪い』と名付けられたその病を治す方法を見つけるため、ある国の王子は旅に出ました。


王子とその仲間たちは、氷河の大地をぬけ、燃え盛る山脈をぬけ………茨の呪いを解く方法を探しました。


だけど……見つかりません。


その間にも、『茨の呪い』は人々を苦しめます。


老人、女性、子供……体の弱いものから、その命を刈り取られるのです。


王子は頭を抱えました。『茨の呪い』を解く方法が全くわからなかったのです。


そんなある時……それは、秘境にある村に訪れたときでした。


………『神の門』の伝承を聞いたのは。


この世界のどこかにある『神の門』ーーー神が作りしその門は、ここじゃない世界に繋がっていると言うのです。


違う世界になら、きっと『茨の呪い』を治す方法がある。ーーーそう考えた王子は『神の門』を探しました。


嵐の海をこえ、雷鳴の草原をこえ………王子はついに、『神の門』を見つけました。


神によって固く固く閉ざされた門を、その封印を………王子は国に伝わる宝具を用いて開きました。


ーーー違う世界になら、『茨の呪い』を治す方法がきっとある。これで民を救える。


王子は期待に胸を膨らませ、門をくぐりました。


視界に広がったのは………真っ黒な世界。


そこは……魔界だったのです。


凶暴な魔物が蠢き、人ならざる強力な力を持った魔族が住まう世界。


魔族は、招かれざる客である王子を歓迎はしませんでした。


ですが、王子は諦めません。群がる魔物を払い、立ちふさがる魔族を切り捨てて、魔界を探索しました。


そして、遂に王子とその仲間たちは、『茨の呪い』を治す方法を見つけたのでした。


これで世界のみんなが救える。ーーー王子たちは喜び勇んで、もう一度『神の門』をくぐり、自分たちの住む人間界へと戻りました。


こうして、世界を蝕む病の脅威は去り、再び人々の心に『光』が宿る。誰もがそう思っていました。


そう、そのはずだったのです。


人間界へと戻った王子は気がついたのです。……一度開いた『神の門』を閉じる方法が無いことに。


『神の門』が開いたままでは、凶暴な魔物や魔族が、こちらの世界に侵攻を始めてしまうでしょう。


「一体どうすれば神の門を閉じることができるのだ……」


王子は嘆き、途方に暮れました。このままでは、『茨の呪い』の脅威が去っても、人々の心に光は宿りません。


ーーーそんな王子の前に、一人の少女が現れました。真紅の髪を持った、可愛らしい少女です。


『神の門』の先……魔界から来た少女は、王子にこう告げました。


「魔族なら、この門を閉じられる」


その少女は魔族でありながら、優しい心を持っていたのです。


そんな少女に王子は問いかけます。


「そんな事が出来るのですか?」


少女は答えます。


「人間には出来なくても、魔族になら出来る。もう誰も近付けないように、門に結界を張る」


そして……魔族の少女は、少しだけ悲しそうな顔で続けました。


「だけど、それは簡単な事じゃない。結界を貼り続けるには、ずっとこの場所にいなくちゃいけないんだ」


悲しそうな顔の少女に、王子は問いかけます。


「それでは…………」


「安心していい。ボクたち魔族は、お前たちのような寿命は無いし、何も食べなくても生きていられる」


王子の問いかけを無視し、少女はそう言い放ちました。


「いや、そうじゃない。君の幸せはどうなるんだ?」


門を封印する為の結界。その結界を維持し続ける為に、この場所に居続けること。 


そこに少女の幸せはありません。


辛く、虚しく、寂しい時間が続くだけです。


「いいんだ。それで世界が平和になるのなら」


少女は強い眼差しで王子に告げます。


「それに、結界を張ったら長い長い眠りにつこうと思うんだ。ーーー()()はここで、平和な世界の夢を見よう」


そうして少女は、人間にはない強力な魔力を用いて、『神の門』を結界によって封印しました。そして……長い長い眠りについたのです。………その眠りは、もう覚めることがないのでしょう。


国に帰った王子は、この少女の事を民に語りました。


この世界を救った少女、名も知らぬその少女の事を忘れまいと、世界の様々な場所で語り聞かせたのです。


ーーー自分の幸せと犠牲に、平和な世界を望んだ…………『被虐』


ーーー平和な世界を願い、神に祈るように眠りについたその姿はまるで………『巫女』


いつしか少女は、"被虐の巫女"と呼ばれるようになりました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ