アイルニウム
アイルの衝撃発言のせいで、俺達の間に会話は無かった。
そうこうしている間に、ルミナ家の前に到着する。
三回ノックをして……
「ただいまー。………ただいマジックミラー号」
「………どうして言い直したんですか?」
「ほら、俺たちは国から追われてる身だろ?俺らしさをアピールしないと、ルミナとシノが警戒して、扉を開けてくれないかなって」
なるべく声を潜め、周りに誰もいないことを確認する。
「それもそうかもしれませんが………。まじっくみらーごうってなんですか?」
聞きなれない言葉にアイルは首を傾げた。
「マジックミラー号………それは、男の"理想郷"だよ。………大変お世話になりました」
「そ、そうなんですか。よくわかりませんが、お世話になったのならちゃんと感謝をしないと駄目ですよ?」
……なんだかとても申し訳ない気持ちになる。
そしてありがとう、マジックミラー号さん……。
そんなやり取りをしていると、目の前の扉が開かれる。
「おかえりー!……ふぅ、アイルニウム補給ぅ〜」
扉から出てくるなり、元気いっぱいルミナさんがアイルに飛びつく。
………アイルニウム。それは、アイルから微弱に発されていると言われる、この世全てのルミナに元気を与える成分なのだ。(適当)
「ただいまですルミナさん。………って、どこ触ってるんですか!」
「え、おっぱいだけど」
アイルに引き剥がされたルミナは、さも当然のように答える。一方のアイルは、大きなため息をついた。
「堂々と答えられても困ります……」
「照れるぜい」
全く反省していない様子のルミナに、アイルはもう一度ため息をついた。
「とりあえず中に入れてくれ……」
もはやお決まりになりつつあるやり取りに、少々呆れながら俺は呟いた。
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アイルとルミナは晩御飯の用意をするため、そのままキッチンへと向かい、俺は一人でリビングの扉を開ける。
中に入ると、ソファーにちょこんと座るシノの姿。
「ただいまー」
「ん、おかえり」
シノはこちらを見ずに返事をする。
そんな彼女の手元を見てみると……何やら絵本を読んでいるようだ。
「何読んでるんだ?」
問いかけると、シノは無言で絵本を閉じて、俺に突き出してくる。
「………被虐の巫女?」
受け取った本の表紙にはそう書いてあった。
子供が好きそうな可愛らしい絵本!………という感じはあまりしない。タイトルといい、表紙の色使いといい、暗い雰囲気が漂っている。
「これどうしたんだ?」
「サクラたちが出かけてる間、ボクとルミナも出かけたんだ。そこでルミナが買ってくれた」
「へー、シノたちも出かけたんだな」
「……『子供は家にばかりいちゃいけない』ってルミナが」
拗ねたようなシノの表情。子供扱いされたのが気に食わなかったのだろうか。
「へー、ルミナがねぇ」
少しだけ意外だった。
ルミナが、家でシノと二人の状況を自分から手放すとは。
「ぐへへ、シーちゃぁん、逃げられないよぉ」とか言って、家に鍵をかけて襲いそうなものだが……
「で、シノはその本を欲しがったと」
『コクリ』とシノが頷く。
「なんか意外だな、絵本なんて読むんだ」
「普段から読んてるわけじゃない。だけどなんだか気になって………」
シノが気になった本……か。それは俺も興味を惹かれる。
「誰でも知ってる絵本らしいし、ルミナにお願いしたんだ」
誰でも知ってる絵本なのに、シノは知らなかったのか。なぜだか、更に興味が湧いてくる。
………そうだ、せっかくだし、シノに読んでもらおう。
「なぁ、シノ。ちょっと読み聞かせてくれよ」
「………自分で読めばいいじゃないか」
「まあ、そう言わずにさ、長い話じゃないんだろ?」
シノの隣に腰掛け、絵本を手渡す。
一応は受け取ってくれたが、読み聞かせについては、まだ納得していないようだ。
「ご飯までの暇つぶしって事で一つ」
「………何でそんなに読んでほしいんだ」
「シノの可愛い声が聞きたいからってのは?」
「うるさいバカ、女ったらし」
シノが絵本の角で俺の頭を叩く。普通に痛かったです。
………いやまて、ご褒美と言えなくもないのか?
「………仕方ない。『貸し』だからな」
シノは諦めたように本を開くと、ゆっくりと読み聞かせを始めた。




