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世界の為に死んでくれ  作者: ソラ子
第四章 6番目の勇者
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我慢しすぎるから

「それじゃあ、気をつけてね」

 

コール家の玄関で、アイルの母親……アイリス・コールは、我が娘に愛おしげな視線を向けた。


俺がオスカーさんと話している間に、二人は和解できたようで、はじめに見せた険しい表情が嘘のようだ。


「すみません、俺がアイルを巻き込んでしまって……」


アイリスさんに視線を向ける。そういえば、この人とはあまり話せなかった。


「いいの。アイル(この子)が自分で決めたことだわ」


そう言ったアイリスさんは肩の荷が降りたような……いや、いっそ清々しささえ感じられた。


「アイル」


我が子に向けられる『母』の視線。力強く……そして優しい。


「………」


それに答えるように、アイルはジッと母を見た。


「貴方が選んだ道を、まっすぐに行きなさい。世界の為だとか、誰かの為だとかじゃなく、自分の道をしっかりとね」


そして、アイリスさんは俺を……いや、俺が下げているペンダントを一瞥する。


「アイルは昔から我慢しすぎるから………お姉ちゃんに遠慮なんかしたら駄目よ?」


「………うん!」


アイルは笑顔で答える。年相応の少女の笑顔で。


「娘をよろしくお願いします」


アイリスさんがこちらを見て深々と頭を下げる。


………俺はこの人に頭を下げられるような、大層な人間じゃない。


アイルを守るどころか、いつも誰かに守られている。


だけど俺は……


「わかりました。任せてください」


精一杯強がってみせた。


✦✦✦✦✦✦✦


「そういえばさ」


コール家からの帰路。呼びかけると、隣を歩くアイルの足が止まる。


「なんですか?」


「いや、大したことじゃ無いんだけどさ……どうして俺も一緒だったのかなって」


両親の顔が見たかった。それだけの理由であるなら、俺が一緒に行く必要はない。


それに、アイルとアイラが国に追われている原因は俺だ。両親がそんな俺を良く思っているとは、考えにくかっただろう。


それなのにアイルは『俺と一緒に行きたい場所がある』と言った。それが少し………疑問だった。


「自慢したかったのかも知れません」


「………自慢?」


『はい』と、アイルは頷く。


「『私とお姉様が救ったのは、こんなに素敵な人なんだよ』って」


そう言って見せたアイルの微笑みは、俺の頬を染めるのに十分な可愛らしさだった。


「そっか……」


俺は染まった頬に気付かれるのが恥ずかしくて、少しだけ俯いた。


「どうかしましたか」


「何でもないけど」


アイルが不審そうな顔でこちらをみる。


やめろ、近づくな。もっと照れてしまう。


「何でもないのならいいのですが………あ、そうだ」


そこでアイルは、何かを思い出したような仕草を取る。


「サクラくんはお父さんと何を話していたんですか?」


「え、あー………」


別に隠す必要も無いかもしれないが、俺は少しだけ答えに悩んだ。


俺とオスカーさんの会話を、果たしてアイルに聞かせていいのだろうか?


オスカーさんは俺に『魔女を守ってほしい』とお願いしてきた。


その理由も、意図も俺にはわからない。だが………


『魔女を守る』……それはきっと、アイルのこれまでと"矛盾"してしまう。


いや、アイルだけではない。


アイラも、第四勇者(フィーア)も、きっとルミナだって……魔女を倒す為に何かしらの犠牲を払ってきたはずだ。


今は………言えない。誰にも。


少なくとも、俺がこの目で真実を知るまで………


「何か………言いにくい話をしていたんですか?」


答えに窮していた俺を見て、アイルは怪訝そうな眼差しを向ける。


「あ、いや……そんなことはないんだけども……」


「むむ……、気になります」


アイルは頬をふくらませる。だから可愛いってば。


「うーん……」


このまま黙っていてもアイルの疑念を膨らませるだけだ。ここは適当な嘘をつくのがまるそうだ。


「話してもいいんだけど、アイルさんには難しい話だしなぁ……」


「む、なんですかそれ。なんでもいいから聞かせてください」


含みを持たせた言い方に、アルイはわかりやすく反応する。


「本当に聞くの?」


「もちろんです」


「実は………」


まるで隠されていた真実を暴くように、意味も無く真剣な表情で、重々しく口を開く。


「女性の好みの下着の色について話していた」


「…………は?」


『ピシッ』………アイルの頬に亀裂が走る、


「やっぱり黒だよな。だけどなアイル、白も捨てがたい………イヤっ!捨てちゃいけないんだよっ!」


「………本当にそんな話をしていたんですか?」


アイルの問いに、俺は力強く頷く。


「なんなら、アイルの下着の色を予想して……」


「もういい!もういいですからっ!」


アイルは頬を染め、自らのスカートを抑える。


「アイルが聞いたんじゃないか」


「……男の人ってそんな話しばかりなんですか?」


「まあ、そうなんじゃね?」


「サクラくんだけじゃ無いですか?」


「いやいや、みんなしてるって、おそらくきっとメイビー」


小さなため息をついて、呆れた様子でアイルは歩き出す。


……何とかごまかせたようだ。


本当の事を言うわけなはいかなかったからな。


「幻滅した?」


少しだけ先を歩いていたアイルの隣に並ぶが……彼女は反応しない。


「アイル?……おーい、アイルさーん?」


「…………」


ガン無視。本当の事を話さない為の嘘とはいえ、流石に品がなさすぎたろうか。


「………………です」


「ん?」


アイルが小声で何かをつぶやく。


「なんて?」


俺が聞き返すと、アイルは頬どころか、全身を真っ赤に染めて………


「今日は白です。その…………下着」


とんでもない告白をしてきた。


「お、おう」


俺はそれしか言えなかった。


そして、『タラリ』と鼻血を流したのであった。


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