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世界の為に死んでくれ  作者: ソラ子
第四章 6番目の勇者
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これから

〜アイルside〜


「「ふぁ〜〜〜」」


体を洗ってから浴槽に浸かると、思わず気の抜けたような声を出してしまった。


それは一緒に入っているシノも同じで、心なしか顔がとろけている。


浴槽はそこまで広くなかった。ルミナさんは独り暮らしだから、こんなものだろう。


だけど、シノの体はとても小さく、二人で湯船に浸かることは簡単だった。


「熱くありませんか?」


「ん、大丈夫だ」


私が尋ねると、シノは短く答えた。


シノは今、浴槽の中で、私の膝の上にちょこんと座っていた。


後ろから抱きしめるような形。少しだけお姉さんになった気分。


………昔はよくお姉様とお風呂に入っていた。


水を掛け合ったり、どちらが長く、水に顔をつけていられるか比べてみたり………。疲れを癒やすためのお風呂で、逆に疲れるような事ばかりしていた。


いつも、ついつい長風呂になってしまい……よくお母さんに怒られていたっけ。


…………とても、大切な記憶だ。


「アイル……」


「どうしたんですか?」

 

昔のことを思い出していたそんなとき、シノは正面を向いたまま私の名前を呼んだ。


「ボクは……騎士が嫌いだ。サクラに酷いことをしようとするから」


『酷いこと』………シノは言葉を濁した。


『殺す』……そんな言葉を使いたくない優しい少女。それがシノだ。


第四勇者(フィーア)やスタークは『良いやつ』だって思う。だけど……」


「ルミナさん………ですか?」

 

「ん……」


シノは一度頷いたあと……ばつが悪そうに顔の半分をお湯につけ、ブクブクと泡を立ててみせた。


「信用できませんか?彼女のこと」


正直、最初は私も警戒していた。第四勇者(フィーア)さんの紹介………流石にそれだけでは、信用する為の材料が少なすぎる。


だけど今は、少なくとも『信用したい』とは思っている。


今現在、彼女とサクラくんを二人っきりにしているのがその証拠だ。


「悪いやつだとは思わない」


『だけど』と、シノは続ける。


「よく分からないんだ。本音で話して無いっていうか……。ボクたちに壁を作って、わざとふざけた態度を取っているような気がする」


正直、驚いた。シノも私と同じことを考えていたとは。


「『悪いやつだとは思わない』………なら、今はそれでいいじゃありませんか」


私の声に、シノは振り返る。


「私達はルミナさんのことを、ルミナさんは私達のことをまだ知りません。出会ったばかりなんですから、それは仕方のないことです。だから………これから知っていきましょう」


「これから………か。」


「私達三人だって、最初から『仲間』だったわけではないでしょう?」


「そう……だな」


シノは小さく、だが確かに頷いた。

✦✦✦✦✦✦


「ごめんね、結局手伝ってもらって」


「これくらい当たり前だって」


食器を全て洗い終わりテーブルにつくと、ルミナが二人分のお茶を入れてくれる。


「久しぶりだなぁ、僕の家に誰か来て、こうして話すのなんて」


ルミナは両手でカップを持ち、火傷しないようのちびちびと口をつけた。


「騎士ってさ、あんまり家に帰れなかったりするの?」   


「うん、最近は忙しいよ。居るかもわからない魔女を倒すために………ね。あーあ、魔女がシーちゃんやアイるんみたいな美少女なら、どこにいても見つけてあげるのにな」


『まぁ、その時は倒さずにお持ち帰りするけどね…』と付け加え、ルミナは舌なめずりをする。


「『世界の為に』………騎士も大変だな」


出されたお茶に口をつける。………あらやだ美味しい。


「さっちんはさ………アイるんのこと、どう思ってるの?」


ルミナはカップを置き、いつもとは違う真剣な表情を作る。


俺をジッと見つめる双眸には、いつものふざけた様子はない。


『アイルをどう思っているのか』……この問いかけに俺はドキリとした。


女性として、恋愛的な観点で、アイルをどう思っているのか聞かれたのだと思ったからだ。


だが、ルミナの次の言葉で、それは間違いであると知らされる。


「アイるんは、召喚士様の妹なんだよね?」


なんだ……そういうことか。


俺は何となく気まずくなり、ルミナから視線を外した。


俺達の事情は、おそらく第四勇者(フィーア)から聞いたのだろう。そして俺が、無能な勇者として国から追われていることも……


「召喚士様たちのせいで、さっちんはひどい目にあったんだよね?………恨んだり、しないの?」


「俺は……」


「目を見て答えて」


ルミナにそう言われ、俺は伏せていた顔をあげる。


「あいつらを恨んだことはない」

 

俺ははっきりとそう答えた。


アイラには『私を恨んで』………そう言われた。だけど、そんなことできるわけないじゃないか


痛い思いも、悲しい思いも、悔しい思いもした。


だけど……元の世界には無かった『本物』が、ここにはある。


「アイるんたちがやったことはどう思ってるの?騎士である僕が言えたことじゃないかもしれないけど………才能がないってだけで、無関係な人をたくさん殺したんだよ」


それは、ずっと俺の中で……いや、俺達の中でとぐろを巻いていた問題だ。


存在できる"勇者"の数に限りがあるこの世界では、無能な者は排除し、非凡な"勇者"が現れるまで召喚を行う。……それがこの世界のルールであり、アイラたちの『罪』だ。


「あいつらのやってたことは……『悪いことだ』って思うよ」


「………それだけ?」


俺は無言で頷く。


「話を聞いた時はムカついたし、自分勝手だとも思ったよ。だけど、俺があいつらを咎めるのはきっと違うんだ」


アイラもアイルも………きっとリープだって苦しんでたんだ。


その罪は許されてはいけない。アイルだって、いつか罰を受けるだろうと言っていた。


だけど……俺が咎めるのは絶対に違う。


殺された人々の友人でも家族でもなければ、彼女らの覚悟をも知らない俺が、無責任に正義を振りかざしたとして、それでどうなる?


「………そっか」


ルミナはもう一度カップに口をつける。


そして……再び俺の目を見た。


「それじゃあ最後の質問ね。さっちんは………()()()()()()()()()()()()()


「え……?」


俺は思わず驚きの声を洩らした。質問の意味がわからない。


そんな俺の心情を読み取ったのか、ルミナは続ける。


「この世界は……ううん、この世界の人々は、きっと誰かを傷つける事でしか幸せになれないんだ。自分たちと違う者を忌み嫌って、恐怖して………だから傷つけて。そうやって傷つけた人を集めて、みんなで指をさして笑って………『俺はあいつらよりはマシだ』、『あぁはなりたくない』………。そうやってみんな幸せを感じるんだ」


そうか、ルミナは問うているんだ。


一応は、この世界を救う勇者として召喚された俺に。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()  


と。


「さっちんだって、見てきたんでしょ……?」


「…………っ」

  

そうだ。俺はグランツで見てきた。


人と違うと言うだけで傷をつけられた、『ベーゼ』の女の子を。


悪いことをしなくても石を投げられ。


その命を散らしてなお……『良かった』と言われた少女を。


「……みんながみんな、悪い奴らじゃない」


そう言うのが精一杯だった。


「世界の美しさなんてわからない。それに、俺は勇者じゃないから世界なんて救うつもりはない。ただ俺は、俺を包んでくれた優しさを守っていきたいんだ。もう、悲しい想いなんてしたくないから。………その為なら俺自身を犠牲にしたって構わない」


「………自己犠牲じゃ誰も救えないよ」


ルミナの瞳が鋭さを増した。


「そんなにかっこいいもんじゃないさ」


自己犠牲精神なんて持ち合わせていない。だけどきっと……無能な俺は、そうまでしないと何かを成すなんて出来やしないだろう。


「綺麗な花が咲くには、『土』が必要なんだよ」


ルミナは、どこか遠くをみながらそう言った。


「場所を奪って、栄養を奪って、そうやって綺麗な花が咲くの」


遠い未来を思っているのか、それとも過去を見つめているのか。俺にはよくわからない。


「だけど、そうまでして咲いた花も、いつかは枯れてしまう。………ねぇ、その時『土』は何を思えばいいの?………サクラが『土』なら、一体何を思うの?」


「……ルミナだったら、どう思うんだ?」


僕なら………そういって、ルミナは一度目を伏せた。


「花を憎むよ。そして………僕が花になれる場所を探す。奪われるだけなんて、きっと納得出来ないから」


「そっか……」


ルミナが花になれる場所で、彼女は『土』から何かを奪うのだろうか。………そんなことが彼女にできるのだろうか。


「…………」


すっかり冷めてしまってたお茶に口をつける。………ちょうど、その時だった。


「ルミナァァァァァ!!!」


シノの悲鳴………いや、怒声が聞こえてきたのは。


「なっ……」


俺は驚き、お風呂場へと続く扉を見た。


「おい、今のって……」


ルミナに向き直り、問いかける。


「ぐふふ。シーちゃんどうしたのかな?心配だねぇ………」


先程までの神妙な面持ちはどこへやら、ルミナはいやらしく口角を釣り上げた。


「おいお前、シノたちになんかしたろ」


「どうだろうねぇ〜。ささっ、さっちんも早く!」


ルミナは俺の手を引いて駆け出した。


そして、脱衣所の扉の前で足を止める。


そして、一度大きく深呼吸をすると、勢い良くドアを開け放った。


そこにいるのは、当然シノとアイル。だが……


「ルミナ!いったいボクたちの着替えをどこへ…………って、なんでサクラもくるんだ!?」


彼女たちは、()()()()()()()()()


薄いタオルで前を隠しているだけの状況だ。………まずいですよっ!


直視しちゃいけない。それはわかっているのに、まるで固定されたように視線が動かない。


タオルで隠しているだけだから、当然肌の露出がおおい。更にお風呂あがりだ。……お風呂あがりだ!


髪はしっとりと濡れていて、肌も赤みを帯びている。


エッチコンロ点火。


あ。


やべ、鼻血でてきた。


「サクラくん……。その、恥ずかしいです」

 

「ご……ごめん」


アイルが体をもじもじさせる。可愛すぎるっぴ!


「ボクたちの着替えは!?ここに置いていたはずだろ!!」


シノがルミナに向かって叫ぶ。


当のルミナは……恍惚とした表情だ。


「ごちそうさまでした。」


「食べたのか!?」


そんなルミナとシノの様子をみて、俺は小さく微笑んだ。


「サクラくん?」


「いや、何でもないよ」


嬉しかったのだ。先程まで重たい話をしていたルミナが、こうやってアイルたちと笑いあっているのが。


いつものふざけたルミナ。先程みた真剣なルミナ。どちらが彼女の素なのかはわからない。もしかしたら、こうして笑っているルミナのほうが、キャラを作っているのかもしれない。


だけど……この笑顔だけは本物だと信じたかった。


「なぁルミナ」


呼びかけると、シノとルミナがこちらを見た。


シノはタオルを片手で抑え、もう片方の手でルミナに攻撃を加えている。……あんまり動いたらタオルが落ちそうだ。


「どうしたのさっちん、良いものをありがとうって?」


「…………それはそれで感謝してる」


『えっへん』と、ルミナは胸を張った。


「って、そうじゃなくて」


俺は頭の後ろをかいた。


この雰囲気のなか、真面目な話をするのは少し恥ずかしい。


「誰かが『土』なら、俺は花を恨むかもしれない」


『なんの話だ?』『わかりません……』アイルとシノは首を傾げていた。


そんな中、ルミナだけが真剣な表情を作る。


「だけど……俺が『土』なら……綺麗な花だったなって思いたい。憎むでも、恨むでもなく……その美しさだけを眺めていたい」


「サクラは……それでいいの?幸せなの?」


『あぁ』と、小さく頷く。


「どんな花でも枯れてしまう。次に咲く花はもう違う花だ。………だけど、その花もきっと綺麗だって思うから」


人も国も、きっと世界だって。『奪う』のが一番早い繁栄の方法だ。


奪った方はそれでいい。幸せになれる。


だけど奪われた方は?


……奪われた方が『恨み』や『憎しみ』を持って……『繁栄』を望んでしまったら、きっと今度はほかの誰かから『奪う』。


だから、誰かが止めなくちゃいけないんだ。その悲しみの螺旋を。


「………それはきっと、とっても難しい事だよ」


ルミナは俺の瞳を見据えてそう言った。


「誰かの幸せは喜べない。人間はそう出来てるんだ。…………でも、サクラみたいに思えたなら、それはきっと素敵な事なんだろうな」


そう言ったルミナが俺に向けてくれた笑顔は……今までで、一番輝いていた。


「ごめんねシーちゃんにアイるん。すぐ着替え持ってくるから」


ドアに手をかけると……


「僕は……そうは出来なかったな………」


ルミナは小声で何かをつぶやき、着替えを取りに出ていった。


「もうちょっと遊ばれると思いましたが、意外でしたね」


「そうだな……って、サクラも早く出ていけ!」


そして俺は、シノに追い出されたのであった。

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