おにゃのこハウス
「お風呂にする?ご飯にする?それともぉ………ル・ミ・ナ?」
ルミナの家につくなり、彼女は『あざといポーズ』をした。語尾にハートも付いている。
「お風呂」
「じゃあ俺は飯で」
俺とシノは冷たく言い放つ。彼女の扱いにも慣れてきた頃だ。
「じゃあ私は『ルミナ』で……」
アイルは愛想笑いを浮かべ、そう言った。相手にされなかったルミナに手を差し伸べたのだ。
「うわぁーん、アイるーん!!!」
当のルミナは、感極まった様子でアイルに抱きつき、その胸に顔を埋めた。今のアイルは、彼女にとって天使に見えているのだろう。
「ちょっとした冗談なのに、シーちゃんもさっちんも僕に冷たいんだよぉ……。うぅ、ひっく」
「は、はぁ………」
アイルは困った顔をしたが、ルミナを振り払うような事はしなかった。
「うぅ……」
ルミナは鼻をすすり、泣いている。
「そんなに泣かないでください、サクラくんやシノも冗談だってわかっているはずです」
「うぅ……ひっく。うっ……………、ぐへ」
……ぐへ?
二人の隣に移動し、アイルの胸に顔を埋めているルミナの横顔を見てみると……
「…………ぐふふ」
案の定、ほくそ笑んでいました。
「おいアイル」
「……?どうしたんですか?」
「そいつ、胸の感触楽しんでんぞ」
「えっ!?」
アイルは急いでルミナの肩を掴み、引き剥がそうとする。だが……
「ぐふふ、離されんぜぇ………」
ルミナはそれに抗う。アイルの力に耐えるなんて素直にすごい。
いったい何がルミナに力を与えていると言うのか。
「大丈夫、アイルのことは忘れない」
そう言ってアイルの肩を叩いたシノは、『抱きつかれたのが自分じゃなくて良かった』と、安堵の表情だ。
「うぅ、離れません……」
アイルが諦めたのをいい事に、ルミナは頬を左右に動かし、スリスリした。それに、くんかくんかしている気がする。
なんて羨ま………いやいや、けしからん奴だ。
アイルの感触を楽しみ、匂いを楽しみ、バイブスが振り切ってしまったのだろうか。
ルミナは……
「いやはや……『ちっぱい』もなかなか素敵だなぁ」
いらん事を呟いた。
『ピキッ』っと、アイルの何かに亀裂が入る。
「あいつ死ぬぞ」
「俺もそう思う」
シノと二人で、恐る恐るアイルの顔を見る。
アイルは………笑顔だった。
………凍えるような、貼り付けたような笑顔。
ガクガクブルブル。俺とシノは一歩後ろへと下がる。
「…………ルミナさん?」
「どったのアイるん」
アイルの底冷えするような声。だけど悲しきかな、バイブス上がった状態のルミナはそれに気が付かず、呑気な声を出した。
顔を上げたルミナに対して……
「ふんっ!」
「ぐげっ……」
アイルのゲンコツをもろにくらい、ルミナはカエルみたいな鳴き声を最後に、床に沈んだのだった……。
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「アイるんにシーちゃん、二人でお風呂入ってきなよ。準備はしてあるから」
頭に漫画みたいなコブを作ったルミナがそういったのは、アイルが用意した食事を食べ終わった直後だった。
アイルが食事を作っている間に、お風呂の準備をしてしまったのだろう。
その間、俺とシノは………。はい、何もしておりませんでした。
「そんな、悪いですよ。ルミナさんから入ってください」
「みんなはお客さんなんだから遠慮しなくていーの。食器は僕が片付けておくから」
家主に遠慮したアイルとは対象的に……
「そうさせてもらう」
シノは短く答えてテーブルをたった。
「でも……」
「アイル。ちょっと考えてみろ」
なおも遠慮するアイルに、シノは顔を近づける。
「今二人で入らないと、後で一緒に入るとか言われそうだろ?それはとても困る」
「た、確かに……」
あー、なるほど。シノの言うとおりだ。
この二人とルミナが3人でお風呂……。どうなるかは簡単に想像できる。
おそらくルミナは揉むだろう。何をとは言わないが。
「本当にいいんですか?片付けまでお願いしてしまって……」
「へーきへーき。美味しいご飯のお礼だとおもって、ゆっくりしててよ」
「それでは、お言葉に甘えさせて頂きます」
ルミナにもう一度だけ確認を取ると、アイルは小さくお辞儀をしてから、シノと二人でリビングをあとにした。
「さっちんもゆっくりしててよ、楽しい物なんて無いけどさ」
「いやいや、片付けくらい手伝わせてくれ」
そう言い、食器を運ぼうとした俺を、ルミナの右手が静止する。
「いーからいーから。さっちんはそこで悶々としててください」
「悶々と?」
ルミナの言葉の意味がわからず、聞き返す。
「だって次はさっちんがお風呂に入るんだよ?美少女の、残り湯」
「な!?」
わかりやすく区切られたその言葉に、思わず反応してしまう。
宿屋のお風呂は男女で別れていた。だが、いま俺達がいるのはルミナの家。
お風呂というのは、普通に考えて一家に一つ、つまりはそういうことだ。
今目の前にいる変態オヤジが、なんのセクハラもせずに二人を行かせたのは、バレずに残り湯を堪能するためだったのかもしれない。
「ルミなんとかさん、そんなギルティが許されていいんですか?」
「僕が許します。あとルミナさんです」
「アルマ………お前はあいつらの残り湯を楽しむためだけに一番風呂を譲ったのか」
「その通り!……あとルミナって呼んで欲しいかな」
ここまで頭のキレるエロオヤジだったとは。こいつ、生まれる性別を間違えてやがる。
「一つ質問いいか?ゼルガードさん」
「いいよ。………誰?ゼルガードさん誰?せめて『ル』はつけよ?」
質問というのは……先程のルミナの発言に付いてだった。
「次は俺が風呂に入る番だっていったよな?つまり、ルミナが俺の後……最後に入るってことだ」
「それがどうしたのさ」
ルミナは首をかしげる。
「ルミナが次で、俺が最後という順番なら、お前はオアシスを独り占めできた。……なぜ俺に『残り湯』のことを教え、次を譲った?」
話の内容はくだらないのに、俺達二人は、なぜかシリアスな空気に包まれていた。
「………確かにそうだね。さっちんに教えなければ、全部一人で飲み干せた」
飲み干せた。………飲み干せた!?そこまですんの!?
「だけど違う、そうじゃないんだよ」
ルミナは悟りを開いたかのように、瞳を閉じた。そして………俺に向かって手を伸ばしてくる。
「シェアハピ」
ルミナに後光がさした。…………ような気がした。




